ギャンカス神様と歩む異世界生活

チャーハン@カクヨムコン参加モード

第一章 経験値横領から始まる物語

第一話 は? チート能力ないの?(4/13 改稿済み)

 俺は元現代人である。名前は思い出せない。


 現代社会で生きてきた記憶はあるのだが、自身の記憶に霞がかかり、思い出せない状況だ。そんな俺でも、理解したことが二つある。


 一つ、俺の姿が二つ、金髪の色白美少年になっていること。

 もう一つは――異世界転生したという現実である。


 ――まったく理解が追い付かない。


「いやいやいや、流石に死んでいないだろ。それに死んでいたら自分の記憶を思い出せないのは不可解だしな! うん!!」


 俺は大きな声でがっはっはと笑いながらそう思うことにした。少しばかり逃避行為をしていると、座敷のふすまが開く。


 現れたのは、スレンダーな体格の美少女だ。肩の高さまでに整えられたさらさらの桃髪を右手で少し撫でると、こちらを見据えて声をかけてきた。


「お目覚めだね! この世界の英雄君!」

「……英雄? 俺が?」

「そうさ! 君は英雄になれる逸材なんだよ!」

「……マジか!?」


 男っぽい口調で話す女の子を見つめながら、俺は鼻息を荒くする。異世界転生は、基本的に素晴らしい能力を持って旅をすることが出来る楽しい楽しい物語だ。


 チート保持してモンスター討伐もよし、魅了スキルでハーレム作ってチョメチョメするもよし。そんな自由気ままに過ごせる第二の人生が待っているに違いない。


(待ってろ! チートとハーレム!)


 そんなことを考えていると、女の子から咳払いする声が聞こえてきた。まずい、妄想の世界に入りすぎたようだ。俺は有り余る煩悩を振り払ってから、声をかける。


「すまないな。あんた、名前は?」

「あぁ、すまない。僕の名前はヒサメ! 神さ!」

「へぇ、神様か……はぁ!?!?」


 俺は目を丸くしながら奴の体をまじまじと見つめていた。俺の創造する女神はボンキュッボンの完璧スリーサイズを持っている成人女性なのだ。

 

(この俺と背丈が変わらないロリっ子が神様だと!? 絶壁じゃん!)


 なのに、目の前にいる幼女はどうだ。ふくよかな体系はおろか、絶壁ではないか。胸がない女神なんて掻き揚げが入っていないうどんみたいなものだ。許せん。


「ははっ、嘘つくなって。本当は神様が別にいるんだろぉ??」

「はは――ん……? 僕さまが神ではないと言いたいんだねぇ!?」


 俺が煽ると、少女はピキリながら声を荒げる。可愛らしいなと思っていると、少女が右手を上に伸ばした。そして、指を鳴らす。部屋に変化は起きなかった。


「なんてね! 神様が簡単に力を見せるわけないじゃないか!!」


 少女はへらへら笑いながら手を下ろす。軽いノリを持った神様だが、案外強いのかもしれない。そんなことを思いつつ俺は神様の行動を眺めていた。


「……そっか。それもそうだな!!」

「さてと。英雄となる君の名前を聞こうか!!」

「名前……? いや、知らんけど」

「えっ? 知らないなんてことあるの?」


 俺の発言を聞いた少女は困り眉でこちらを見つめていた。本当のことを言えと告げているように見えたが、あいにく本当に知らないのだから仕方ない。


「仕方ないな……それじゃあ僕さまが名前を付けてあげよう! 君の名前はクロウだ!」


 少女ははえっへんと言いたげな顔つきで俺に名前を付けた。

 まぁ、中々呼びやすいし使いやすそうな名前だな。使おう。

 そんなことを思っていると、目の前の少女はくるりと回る。

  

「さてと。僕からありがたぁ~~い説明をさせてもらうね! 君には、今からとある世界で親玉を倒してもらいます!! とっても怖い親玉らしいよ! けど、君ならやれるって信じているから頑張ってね!!」

「そ、そうか……なんだか、ざっくりだなぁ。因みに、親玉の名前は?」

「え? 知るわけないじゃん?」

「は?」


 俺はあほみたいな声を出した。戦えと言っているくせに敵の情報一つ知らないのだから、当たり前だろう。


「ま、まぁ! とにかく頑張ってくれ! じゃあ、行こうか!!」

「……どこへ?」

「決まっているじゃないか! 英雄として活動してもらう世界にだよ!!」


 目の前にいる少女が指を鳴らすと、俺の司会に映っていた景色が変化する。目の前に広がるのは、RPGで初心者が訪れる森のような場所だ。


 俺は心躍らせながら輝かしい人生が待つ世界を見つめていた。

 何をするか。チートを貰って、女作って、温かい生活でもしようか。

 それとも、英雄になってハーレムを作るか。


 想像するたび煩悩が溢れに溢れる。


「あ、そうだ。言い忘れていたけど、君にはチートがないからね!」


 そんな俺の妄想を打ち砕く一言が、少女から放たれた。


「お、おい!? どういうことだ!?!?」

「あっ、えっとぉ……そのぉ……うん! 何でもないから! 本来は経験値を交換してを与える必要があったけど、忘れてね!! じゃ、また!!」


 少女は顔色を少し悪くしながらそう告げた後、先ほどの魔法を詠唱しようとする。逃がすかと思いながら突進を仕掛けるが簡単に躱されてしまった。


「それじゃ、頑張ってね!」


 そして神様は――俺の前から消えた。残っているのは、チート持たない俺一人。自分以外の現代知識を持っている点では並の転生者と同じかもしれない。


「くそっ! くそがっ!!」


 俺は地面をたたきながら激高した。甲高い声が変に裏返り、女っぽくなってしまう。だが、そんなことを気にしている精神的余裕はない。

 俺は騙されたのだ。英雄になれると言われたのに、悪魔的な少女によって無能力で転生させられたのだ。クーリングオフすらできない転生だ。


「なんだよこれっ……! サギ! サギじゃないかぁっ……!!」


 俺は平静を保てなかった。ハーレムも結婚もできるわけがない。就労しようにも住所がなければ仕事だって選べないだろう。最悪の場合、どこかの群で強制就労でもさせられるだろう。


「ふ……ふふっ……ふふふふふふふふっ……あーはっはっはぁああああああ!!」


 駄目だ。どれだけ考えたとしても最悪な未来しか考えられない。

 されど、泣いたとて助けてくれる人は誰もいないのだ。


「…………はぁ。少しすっきりした」


 俺は声に出して怒りを発散した後、少しばかり冷静さを取り戻した。社会人になってストレスを発散する際は毎回カラオケに行っていた甲斐があった。


「とりあえず、どこか休めるところへ行こう」


 俺はゾンビのような前傾姿勢になりながらとぼとぼ歩き始める。

 

 それから、何時間たっただろうか。


「駄目だ……もう体が動かねぇよ……」


 俺は森の木陰で大の字になりながら倒れていた。目の前の茂みからはがさがさと音が鳴っている。猛獣かもしれない。そんな考えが俺の脳を支配する。


(いやだ、絶対嫌だ! ハーレムするんだ!!)


 俺は邪推な気持ちを湧きあがらせ心を強く保とうとする。しかし思いで強く成れるほど世界は優しくなんてない。俺は起き上がれないまま現れた生物を視認する。

 その生物は、俺が思っていた猛獣ではなかった。


「やっと……見つけたよ……」


 なんと、消えたはずの神様がかえってきたのだ。


「てめぇは……くそがみ!?」

「神に向かって……ひどい……言い草だねぇ……けど、言われても……しょうがないねぇ……」


 神様はそう言いながら土下座をする。

 黄金比に基づいた土下座だと思いつつ、ゆっくり体を起こす。

 直後、神様はとんでもないことを自白した。


「ごめんね。君が貰う筈だったチート用の経験値、全部博打に使っちゃったの」


 俺は耳を疑った。

 本来貰う能力を趣味に使ったと神自身が発言したのだ。


(まさか、俺がチートを貰えなかったのはこいつのせいなのか?)


 俺が皺を寄せながら睨みつけていると、神様は顔を上げる。


「いや~~ね? ほら、あれだよ。お金があったらさ、使いたくなるじゃん。それにさ、僕だって使っちゃいけないですよって教えられていなかったし。博打で勝てばお金が沢山入るし、懐に嬉しいんだよね。だからね、うん……ごめんね!」


 俺は恐る恐る相手に質問する。


「本当に、全部溶かしたのか?」

「…………てへっ♪ ごめんね♪♪」


 舌を出しながらぶりっ子する神様を見た俺は、遂にキレた。

 そりゃそうだ。本来貰える能力を不当に奪われたら誰だってキレる。


「この……ダメ神がぁぁぁぁぁあああああ!!」


 俺は相手の腹部に拳を打ち込んだ。

 俺が放った一撃は神様の腹部に当たり、柔らかな感触がはしる。

 その感触は、なんというか触りなれたものだった。


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」


 瞬間、神様は野太い声を上げながら地面を転がる。

 俺が動揺しながら見つめていると、奴はとんでもないことを口にしたのだ。


の股間を狙うなんて! 酷いじゃないか!!」

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