第47話:ズル

 ◇


 潜入開始の合図と同時に、《ポータル》を抜けてユリウスたちはダンジョンに入った。


 ダンジョンの中は、先ほどまでの景色と大きくは変わらず洞窟のような内装。


 道が幾つにも分かれており、全体像は迷路のように入り組んでいる。この迷路から正しいルートを見つけ、魔物を倒しながら四本の旗を持ち帰らなければならない。


「ユリウス様、あの生意気な庶民に目に物言わせてやりましょう! 早速、皆で手分けしてルートの特定を——」


 ユリウスの取り巻きであるゴードン伯爵家の長男、ゲーテ・ゴードンが駆け出そうとする。


 それを、ユリウスは余裕を持った様子で止めた。


「待て、そう焦るな」


「し、しかし魔物との戦闘はどうしても時間がかかります。ルートの特定はいかに早くするかが攻略の鍵になるかと」


 ゲーテの話に他の三人も頷いた。


 この三人は、ユリウスの取り巻きではないが、皆が優勝を目指す面々。真剣である。


 実際、ゲーテの意見は正しい。四本の旗は離れた場所に設置されており、捜索範囲は広大。毎年の優勝チームはいかに素早くルートを特定するかに工夫を凝らしていた。ゆっくりとした攻略で優勝できるほど、甘くはない。


 しかし、ユリウスに動じた様子はなかった。


「それは、正攻法だろ? 俺が今日のために何もしていないとでも思ったか?」


「何か、お考えが……?」


 ユリウスは、ニヤリと笑ってポケットから一枚の紙を取り出した。


「これは、この《バトルコース》……Cコースの地図だ。オリエンテーションの内容は、毎年変わらない。先輩から正しいルートの情報を買い取ったんだ」


「さ、さすがはユリウス様です! これなら、魔物と戦う最小限の時間だけで済む! かなりの時間短縮になりますね!」


 ゲーテがユリウスに羨望の眼差しを向けた。


「ああ、普通なら最短でも一時間はかかるところ……三十分もあれば十分だ。俺は、ただの優勝に興味はない。レコードを塗り替えての圧倒的な勝利で庶民に違いを分からせてやるのだ。リヒトにも目に物見せてやる。さあ、行くぞ」


 こうしてユリウスたちは、地図を頼りに最短ルートでダンジョンを駆け抜けたのだった。

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