第43話:マッサージ
◇
課外活動をしていない俺たちは、今日の講義で出された課題をこなすなど放課後の時間をゆるりと過ごし、気が付けば夜になっていた。
食堂で夕食を済ませたし、後は部屋で寝るだけという予定のはずだったのだが——
「エレン、肩が凝っているのですか?」
俺がいつもの癖で肩を回していると、ユリアが声を掛けてきた。
「ああ。昔から肩凝りでな。こうやってたまに筋肉を動かしてやると楽になるんだ」
「そうだったのですか。ちょっと叩いてみても良いですか?」
「え、まあ……良いけど」
なんだか、ちょっと緊張するな?
ユリアは、軽いタッチで俺の肩をポンと叩くと、驚いたようだった。
「えっ⁉︎ 本当にカチカチじゃないですか⁉︎ 他の場所は……?」
ユリアは、肩だけに留まらず、俺の腕や脚も次々に確認していく。
触られるとくすぐったいのだが、ユリアが美少女だけに悪い気はしない。
って、いかんいかん。心を平常心に保つのだ、俺。
「エレン、良ければ私、マッサージしますよ?」
「え? いいのか?」
「もちろんです。エレンにはお世話になりっぱなしですし、このくらいさせてください!」
正直、めちゃくちゃ助かる。
頑張って学院に通って良かった! まだ初日だけど!
「それなら、お願いしようかな?」
「はい! じゃあ、服を脱いで横になってください」
「分かった」
二段ベッドでは作業がしにくいため、床に毛布を敷いて、上裸の俺がうつ伏せになることに。
「私、お父様からは凄く上手いって言ってもらえているのです。期待してくださって大丈夫です。それでは、始めますね!」
ユリアはそう言った後、背中のツボに指を入れてきた。
おお……なかなかの指圧だな。気持ちいい……と思ったのは束の間。
「んあ……っ⁉︎」
「エ、エレン⁉︎ どうかしましたか⁉︎」
指圧が強すぎて、あまりの激痛に声なき声が出てしまった。
物凄い力でツボを押されるものだから、電流が走ったような激痛を感じたのだ。
「も、もうちょっと優しめにしてもらえると助かる……」
「力が強かったですか?」
「うん、ちょっとな。ユリアのお父さんは痛がらなかったのか?」
「そうですね……特に何も。もうちょっと強くしてほしいとは言われましたが」
いやいや、どんな身体してんだよ⁉︎
これ、多分リンゴが余裕で潰れるぞ⁉︎
俺じゃなかったら痛みで死ぬ! そのくらいヤバかった。
「お父様も騎士なので、防御力が特別高かったのかもしれませんね」
うん、多分……というか、絶対それだ。
「まあ、そういうことだから少し優しめにしてくれると助かる」
「わかりました! エレンのおかげで一つ勉強になりました!」
天使のような笑顔を向け、ユリアはマッサージを再開した。
良い感じの指圧でツボにグイグイ入ってくる。
「どうですか?」
「んん……めちゃくちゃいいよ……」
ああ、脳が溶けてしまいそうなくらい気持ちいい。
まるで天国。生きていて良かったと思える時間だった。
「ちょっと上の方やりたいので、背中失礼しますね」
ユリアはそう言って、俺の背中に乗ってきた。
顔と顔がめちゃくちゃ近くなった。吐息が聞こえてくるほどの距離だ。
っていうか——
「……っ⁉︎」
「い、痛かったですか⁉︎」
「ぜ、全然! 問題ない! 続けてくれ」
俺の背中にユリアの大きく柔らかい胸が当たり、思春期の身体がビクッと反応してしまったなどと正直に言えるはずもない。
「大丈夫なら良いのですが……では、続けますね」
めちゃくちゃ気持ち良くて最高の気分なのだが、こうもドキドキしてしまうと落ち着かない。
何か、話をして気を紛らわせるとしよう……。
でも、何を話せばいいんだ?
——と、俺が話題に困っていると、ユリアが話しかけてきた。
「エレンは、学院を卒業したら何になりたいとかってもう決まってますか?」
「んー……何も考えてないな」
退学するつもりだと言えるはずもなく、適当に濁した答えを返すしかない。
「エレンの成績なら、きっと何にでもなれますもんね。悩むのもよくわかります」
別にそういうわけではないのだが、良い感じに誤解してくれているならこれでいいか。
「逆に、ユリアは何かやりたい仕事とかってあるのか?」
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