第42話:目標
「おっと、僕の部屋はベッド一台しかないんだけど……一緒に寝る?」
「……いや、それは遠慮するよ」
さすがにB L展開は勘弁願いたい。
リヒトのことは嫌いではないが、それとこれとは話が別だ。
「毛布だけ持って行くから、床を貸してくれればそれで十分だよ」
「まあ、僕も最初はそう思ったんだけど……ユリアが良いと言ってるなら、それでいいんじゃないかと思ってね」
いやいや……王都では貞操観念が緩いのか?
それとも、俺が気にしすぎなのか?
俺だから良いが、普通の男子なら秒速で事案が発生してしまうぞ?
などと思っていたところ。
「あ、あの……エレン。私と同じ部屋じゃダメですか?」
「ん? いや、そういうわけではなくてな……」
「私、エレンとゆっくりお話ししたいなって思っていたんです。それで、良い機会だなって思ったんです。ダメですか……?」
うるうるとした瞳で真っ直ぐ俺の目を見つめてくるユリア。
ダメだと言ったら、今にも泣き出してしまいそうだ。
言えない……言えるわけがない。
「ダメなわけない! 俺もユリアとお話ししたいと思ってたんだ!」
「そ、そうですか! それなら良かったです!」
ユリアはほっと安堵の息を吐いたのだった。
まあ、俺さえ間違いを起こさないよう気をつければ良いだけなので問題はないか。
「それにしても、ティアは良いのか?」
「何がですの?」
「今回のオリエンテーションは味方だけど、別の行事では敵になることもあるはずだ。それに、卒業後の進路のこととか諸々を考えてもティアにあまりメリットがない」
冒険者になるのならともかく、人気の宮廷騎士団などは採用数をかなり抑えられているし、相対評価で上位の者から選抜される。
クラスメイトとはいえ、長い目で見れば競争相手でもあるのだ。
「ちょっとコツを教えたくらいで負けるつもりはありませんわ。それに、シーシャが強くなってくれれば私にもメリットがありますの」
ティアは、俺以外の三人をチラッと見てから言葉を続けた。
「今朝の決闘では負けてしまいましたけど、卒業までには必ずリベンジするつもりですわ。シーシャにも強くなってもらわなければ、エレンには絶対に勝てませんもの」
ティアの言葉の後、『そうだぞ』と言わんばかりにリヒトたち三人が視線を向けてきた。
「なるほどな。……悪かった。つまらない質問をしたみたいだ」
どうやら、ただの優しさではなかったらしい。
確かに、皆それぞれに特徴がある。
さすがに一対一で負けるとは思わないが、三年間しっかりと研ぎ澄ませた彼女たちが束になれば、食われてしまうかもしれない。
まあ、それまでに俺は退学するつもりなのだが……やはりこれは秘密にしておこう。
「では、私たちは寮に戻りましょうか」
「そうだな」
ここで今日は解散。
ちなみに、リヒトは講義の内容で先生に質問があるらしく、すぐには寮に戻らないらしい。うん、すごく真面目だな。模範的すぎる。
こうして、俺はとユリアと一緒に教室を後にしたのだった。
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