第36話:一対四の決闘

 俺が一対四じゃないのかと確認すると、なぜか四人の間に動揺が走った——気がした。


「いくらエレンでも、それはさすがに……」


「エレンなりの冗談……よね?」


 ユリアとシーシャがジョークを疑うが——


「いや、違うよ」


 リヒトだけはジョークだとは思っていないようだ。


「つまり——エレンは、僕たちを取るに足らない相手だと思っているというわけさ。ふっ、僕がここまでコケにされたのは初めてだよ」


 拳を強く握りしめたリヒトの言葉は、冷静ながらも悔しさを滲ませた口調に聞こえた。


「そ、そうなのですか⁉︎」


「エレン、そんな風に思ってたんだ……」


 しょんぼりした様子で俺を見てくる二人。


「えっ……いや、俺はただ時間を効率的に使おうと思っただけで……」


「同じことだよ。嫌味で言ってないのがわかるからこそ僕は悔しい」


「……」


 俺は、軽率な発言で自尊心を傷つけてしまったらしい。


 この世界に転生してから十五年。あまり人と関わらない間に、正直に思ったことを口にするのが正しい時ばかりじゃないという基本的な処世術を忘れてしまっていたことに今気づいた。


 しかし一度口から出た言葉は戻せない。


 どう言葉を掛けよかと頭を悩ませていると——


「エレンが気にする必要はないよ。これは僕たちの問題なんだ。……やってやろうじゃないか。エレンに認めさせてやろう。僕たちは強いんだってね」


 リヒトが言うと、三人も同調し——


「そうですわ! 舐めてかかったら痛い目に遭うということをわからせてやりますの!」


「ですね!」


「やるしかないわね」


 なぜか、一瞬にしてさっきまでとは打って変わって明るいムードになったのだった。


 ……すごいな。


 この決闘の結果は俺が勝つとしても、統率力……と言うのだろうか。こうして人を引きつける力では、リヒトに勝てる気がしない。


「じゃあ、始めよう」


 リヒトの言葉を合図に、俺の相手になる四人は異空間から武器を取り出した。


 リヒトが黄金の剣。ユリアが銀色の剣と盾。シーシャが杖。ティアは何もなし。


 この世界には《収納》というスキルがある。異空間へのゲートを開き、そのゲートを通じて自分の魔力量に比例する質量を限界として自由になんでも保管することができるというものである。


 異空間では時間が止まるため、中の物が腐食したり劣化したりといったことはない。


 これは珍しいスキルというわけではなく、魔力を扱える者なら訓練で誰でも使えるようになる。


 と、それはともかく。


 武器種から推測すると、リヒトは剣士、ユリアは騎士、素手のティアは魔法師だろう。


 しかし、杖を持つシーシャの職業がよくわからない。


 杖を使う職業は、一般的に魔法師と回復術師の二つ。


 ただし、この学院で平民が上位の成績で合格するには、試験の仕組み上、強力な攻撃魔法を使えることが絶対条件。


 普通に考えればシーシャもティアと同じく魔法師だと思うのだが、杖の存在が引っかかる。


 魔法師にとっての杖は、剣士にとっての剣などとは役割が異なる。


 剣士にとっての剣は攻撃に必須のアイテムであることに対して、魔法師にとっての杖は魔力をコントロールしやすくするための補助具でしかないのだ。


 むしろ、いちいち魔力が杖を経由することで減衰し、攻撃力が下がってしまう問題もある。


 魔法師なのに、敢えて杖を使う理由がよくわからないのだ。

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