第35話:相弟子

 ◇


 十分ほど移動して、闘技場に到着した。


 俺は扉を開いてみようと扉を押したり引いたりしてみるが、ビクともしない。


「ん、鍵がかかってるみたいだぞ」


 学院生の立ち入りを禁止しているのだから当然ではある。


 しかし、どこにも鍵穴らしきものはないし、暗証番号や生体認識をする機械も見当たらない。


「ちょっと待って。すぐ開けるよ」


 リヒトは小さなメモ帳をパラパラとめくってから、扉に手を触れた。


「この扉は魔法錠がかかってるから、専用の解錠魔法が必要なんだ」


 言いながら、リヒトが魔力を込めると——


 カチャン。


 鍵が開く金属音が聞こえ、扉が開閉できるようになった。


「おお……」


 闘技場の中はかなり広く、決闘に使うであろうスペースを中心に、周りは三万人くらいが座って観戦できそうな座席が同心円状に広がっている。


 まるでスポーツ用のドーム型スタジアムのような雰囲気だな。


「な、なんだかすごい場所に来てしまいましたね!」


「へえ……噂では聞いたことあったけど、こんな場所なのね」


 ユリアとシーシャも初めて来たらしく、目をキラキラさせていた。


 ティアの方はと言うと、あまりキョロキョロしたような感じではないので、訪れたことがあるのかもしれない。


 中心の決闘スペースに進む途中で、リヒトが説明を始める。


「闘技場では、物理ダメージが精神ダメージに変換されるんだ。だから、本来なら死ぬようなダメージを受けても気絶するだけで済む」


「便利だな」


「そうだね。僕とティアは入学前から王都に住んでいたから、師匠に連れられてここをよく使っていたんだ。無理が利くから、修業には最適だったよ」


 都会にはそんなに便利なものがあったとは……。


 田舎と都会の教育格差を感じるぞ? まあ、王都に住んでいても高位貴族でもなきゃ使えないだろうから同じな気もするが……ん?


 でも、ティアは男爵家の娘ってことはそれほど身分は高くないよな?


「ティアも一緒に修業してたのか?」


「ふふっ、リヒトの師匠は私のお父様ですの」


「そう言えば、まだエレンたちには言ってなかったっけ。そう、僕とティアは相弟子なんだ」


「なるほど」


 学内誌で話題になっていたとはいえ、なぜティアがリヒトに俺のことを話したのか気になっていたが、これで納得できた。


 そして、ちょうど決闘スペースに到着した。


「じゃあ、僕とエレンが決闘するから、待たせちゃって悪いけどみんなはこの後で——」


「いや、みんなまとめてやればいいんじゃないか?」


 リヒトが俺以外の三人に説明をする途中で、このように提案した。


「え? この人数じゃやりにくいと思うし、そもそもここに来たのは僕とエレンの決闘をするつもりだったんだけど……」


「そもそも論で言えば、この時間は明日のオリエンテーションに向けての擦り合わせが目的だろ? 移動だけで結構時間を使ったし、全体練習の時間も欲しい」


「それはそうかもしれないけど、やっぱり二対三じゃやりにくいと思うんだけど……」


「ん、一対四じゃないのか? 俺と、みんなで」

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