第34話:問題解決

「……っ⁉︎」


 俺の返答が意外なものだったのか、リヒトは衝撃を受けたらしい。


「なるほど……確かに、エレンにそう思われるのも仕方ないのかもね」


 しかし、リヒトは俺を責めるわけではなく、素直に聞き入れたようだった。


 プライドだけが高いその辺の貴族なら怒りそうなものだが、こいつは一味違うらしい。


「ということで、俺たちも周りと同じ感じで——」


「分かった。つまり、エレンが本気で戦っても僕が死なない状況なら、決闘に応じてくれるってことだね?」


「え?」


 まあ、都合良く解釈すればそうなるのか……?


 とは言っても、すぐに強くなれるわけではない。


 『大人になったら結婚しようね』とか『今度ランチ行こうね』並みの実現可能性だろう。


 将来的にいつか——ということなら、否定する必要もないか。


「ああ、その時はもちろん」


「よし、じゃあ今から先生に事情を話してくるよ」


「ん?」


 先生に事情を話す……?


 今の会話の流れで、何か先生に話すことで進展しそうな要素あったっけ?


 などと思っていると、リヒトは生徒たちの様子を見守るオスカ先生の前までスタスタと歩いていき、早速事情を話し始めた。


「先生、少しお話が」


「ん、なんだ?」


「パーティでの練習に当たり、安全のために今から闘技場を使います。申請しておいていただけますでしょうか?」


 闘技場?


 何だそれ? という俺の疑問は当然ながら解消されることなく話は進んでいく。


「闘技場は公式戦以外では基本的に使用禁止なのは分かっているか?」


「ええ。でも例外はあるでしょう? 僕は王太子ですし、父が許してくださいます」


「……分かった。学院には俺から伝えておく」


「助かります」


 リヒトはオスカ先生に頭を下げてから俺たちのもとへ戻ってきた。


「闘技場の使用許可が取れた。今から向かおう」


「闘技場って何なんだ?」


「え、知らないのか? 対人戦用に開発された特殊な魔導技術で、どれだけのダメージを受けても死なない場所だよ」


「そんなものがあるのか⁉︎」


「え、うん……。結構昔からあるよ?」


 知らなかった……。


 いや、そんな技術があるなんてド田舎育ちの俺に分かるわけないじゃん⁉︎


「ということで、闘技場なら安全に戦えるし、エレンも問題ないよね?」


「……まあ、うん。そうだな」


 別の場所に移動するということなら、他のクラスメイトには見られないだろうし、そういう意味でもそれならダメージは最小限になる。


「じゃあ、早速行こう」


 闘技場の場所を知るリヒトの案内で俺たちは移動を始めた。


「っていうか、リヒトがあんな態度取るなんて意外だな」


「え? 僕なんかしたっけ?」


「あんまり王族ってことをひけらかしたくないと思ってたから、結構強引だなって」


 会話を聞いた印象では、本来は自由に使えない場所なのに父親である国王の影をつらつかせて許可を取ったように感じた。


「ああ、そういうことか。確かに僕は王族だから偉そうにしたいとは思わないし、そういうことをする貴族が嫌いだよ」


「だよな」


「でも、使えるものは使わないと損でしょ?」


「……まあ、それは確かに」


 合理的ではあるし、俺も同じ立場なら使うかもしれないが……う〜む。


 やれやれ。なかなか都合が良い主義だな。

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