第19話:残酷な現実

 ◇


 時は遡り、入学式後の昼。


 この時間は、講堂から出てきた新入生を狙ってたくさんの部活動や研究会が勧誘を行なっており、かなりこの一帯は活気付いていた。


 部活動と研究会はどちらも特定の課外活動を行うことを目的とすることは共通しているが、明確な違いがある。


 部活動は学院自らが設置・運営しており、いわばオフィシャルな組織。


 対して、研究会は学院生らが自由に活動しており、プライベートな組織である性格が強い。


 この違いにより、部活動はガチな雰囲気、研究会は緩い雰囲気になっている。


「えっと、シーシャも研究会希望ですか?」


「ええ」


「Sクラスは勉強厳しいですもんね」


「そうね」


「……」


 ……会話が続かない。


 エレンがいない二人の間には、地獄のような空気が漂っていた。


 ついさっき出会ったばかりであり、お互いのことをまったく知らないので探り合いになってしまっているのだ。


 各々で行動したくくらいだが、クラスメイトということもあり、後々のことを考えるとできるだけ仲良くしておきたい。


 そんなところで、とりあえずここにきた目的である研究会の紹介ビラを次々と受け取っていく。


「見学だけでもして行きませんか〜!」


「うちは緩くやれますよ〜」


「兼会もできるから気になったら声かけてね!」


 勧誘文句はこんな感じで、気軽に入会できるような印象を受ける。


 しかし、二人はビラの内容を見て唖然とした。


「えっ……なんですかこれ」


「なるほどね。……まあ、研究会は悪い意味でも自由だものね」


 研究会は学院生自らが自由に活動しており、学院からの介入がない。


 故に、入会に対してどんな条件を定めることも可能なのだ。


「子爵以上とか、平民は認めないとか……そんなのばかりですね」


 一応は貴族である男爵家ですら、貴族にあらずといった感じで加入できない研究会が目立つ。


 ましてや、平民を受け入れる研究会は皆無だった。


 おそらく、貴族特有の選民思想によるもので下級貴族や平民を排除しているのだろうと二人は一瞬にして悟ったのだった。


「私、部屋に戻るわ」


 シーシャは拗ねたように口を尖らせ、踵を返した。


「えっ⁉︎ ちょ、ちょっと待ってください! 私も帰ります!」


「いや……ユリアは一応受け入れてくれてくれるところもあるんだし、話だけでも聞いた方がいいんじゃない?」


「でも……」


 確かに、男爵位限定の研究会など少しばかり受け入れてくれる研究会もあったが、あまりにもシーシャを不憫に感じたユリアは、一人だけで話を聞きに行く気になれなかった。


「私のことなら気にしなくていいから。別に、絶対どこかに入りたかったわけじゃないし……」


 シーシャもシーシャでユリアに気を遣う。


 その時だった。


「お嬢ちゃんたち、どうしたのォ〜?」


 二人の前に、いつの間にかチャラい雰囲気の男子生徒が立っていた。


 朝黒い肌をした金髪の男は心配そうに二人を見つめる。


「新入生だろ? 何か困ったことがあるのか? 俺で良かったら、話聞くぜ?」

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