第6話:実質主席

 ◇


 そして、合格発表日がやってきた。


 学院内の掲示板にて合格者の名前と点数が発表されることになっている。


 ドキドキドキドキ……。


 心臓が脈打つ音が聞こえてきた。


 あれだけ神様にお願いしたことだし、お願いします! どうか奇跡が起きて不合格——ニートへのプラチナチケットをください! と気合を入れて確認した俺だったが——


 うん、普通に合格してた。


 やれやれ。現実は無慈悲である……。


 ——————————

 *合格者*

 一位:リヒト・セントリア 850/600(+300)

 二位:エレン・ウォルクス 600/600(+0)

 三位:ユリウス・ストウン 554/600(+250)

 四位:ユリア・シルヴァーネ 529/600(+50)

 ………

 ……

 …

 ——————————


 というか、まさかの次席だった。……マジかよ。


「エレンさんも合格されていたんですね!」


 ん?


 女の声がして、振り返る。


 そこには、嬉しそうに笑顔を咲かせて俺を見上げる金髪の美少女がいた。


 入学試験の時にユリウスとかいう面倒くさい貴族に絡まれていた子である。


「ああ、まあな。ユリアも合格したんだな。おめでとう」


「ありがとうございます。エレンさんと一緒に合格できて良かったです!」


「ハハ……」


「あの後、エレンさんと学院に通いたいって思うと私すごく頑張れたんです。エレンさんのおかげですよ!」


「いやいや、そんなことは……」


 確か、ユリアは四位での合格だったよな?


 マグレで取れる順位ではないだろう。


 俺のおかげではなく、単にユリアの実力でしかないと思うのだが。


「それにしても、エレンさんはやっぱりすごいですね。まさか主席で合格されるなんて……」


「ん? 俺は次席だろ?」


「順位はそうですけど、試験の成績を見ればみんなそう思っていますよ! 満点なんて史上初じゃないでしょうか? 貴族だと加点されるので、素点だとエレンさんが主席ですよ!」


「え、そういう感じなのか⁉︎」


 もう一度掲示板を見てみる。


 確かに、点数の後に+の表記があった。


 なるほど、これが貴族に対する加点なのか。


「公爵が+250点、侯爵と辺境伯が+200点、伯爵が+150点、子爵が+100点、男爵が+50点、その他の貴族が+25点、平民が+0点……ですね。もちろん知っているかとは思いますが」


 まったく知らなかったのですごく助かる。


 合格する気がなかった俺は、入試要項すら読んでいなかったのである。


 一般枠での合格が難しいというのはこういうことだったんだな。


 前世では大学入試を受けたことがあるが、確かに合格ボーダー付近の50点はかなり大きかった。


 ただでさえ教育格差により平民は不利な状況でこれなのだから、俺の想像以上にこの学院に平民が入学することは難しいのだろう。


 俺にコテンパンにされたユリウスが貴族加点により三位で合格していることからもよくわかる。


「ん、そういえば一位の+300点っていうのはどういうことなんだ? 最大250点なんだろ?」


「えっ……ご存知ないのですか⁉︎」


「……う、うん」


 どうやら常識っぽいのだが、あいにくずっと山奥に住んでいた俺は世間の常識に疎いのだ。


「そ、そうですか……。リヒト殿下は、セントリア王国の第一王子なのです。他の貴族と比べても特別な措置が取られているようです。まあ、素点でも次席ですし文句のつけようがありませんが」


 なるほど……そういうことなのか。


 王子様も通う学校……気を使うことが多そうだ。


 ああ、さっさと実家に帰りたい……。


「では、寮の鍵を受け取りに行きましょうか!」


「そ、そうだな……」


 どうやら、腹を括ってしばらくニート生活はお預けにするしかなさそうだ……。

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