第4話:決闘

 ◇



 時は流れ、俺とユリウスの決闘の時間になった。


「こちらをお使いください」


 と、試験官からボロボロの剣を渡された。


 そういえば、カカシを破壊した後くらいから言葉遣いが改善されている気がする。


 まあ、だからどうしたという話ではあるが。


 それはともかく。


 この剣はユリウスが準備させたものらしい。中身が入っているのかと疑いたくなるくらい軽く、刃は紙のように薄く頼りない。


 訓練用にすら使えなさそうな代物だが、こんなのどこから持ってきたんだ?


 気になる部分はあるが、よく考えれば俺が不利になる分には構わないか。


 ふと後ろを振り返ると、父さんが両手の拳を握ってファイティングポーズをしている。


 やれやれ、手加減でもしようものなら一発で見破られそうだな。


 ユリウスに頑張ってもらうよう祈るしかなさそうだ。


「では、始めてください!」


 試験官の合図で決闘が始まった。


「おりゃああああああああ‼︎」


 開始と同時にユリウスが大きく地を蹴り、斬りかかってくる。


 だが……遅い。遅すぎる。


 俺の目には、ユリウスの剣は止まって見えてしまっていた。


 スピードだけじゃなく、経験不足からくる判断力の低さもノロさに拍車をかけている。


 一つ一つの動きに無駄がありすぎるし、『型だけ覚えました』と言わんばかりの意味を理解していないであろう剣技の連続。


「な、なぜ俺の剣がこういとも容易く躱されるんだ⁉︎」


 それは俺が聞きたい。


 いくらこちらの剣が粗悪だとしても、これでは自然に負けられる未来が見えないな……。


 キン! キン! キン!


 何度かの剣の衝突を経て、俺は別の作戦に切り替えることにした。


 決闘のルールは、どちらかが降伏するか、戦闘不能になった時点で勝敗が決する。


 さすがに俺が降伏するのはわざとらしすぎるため、戦闘不能を狙おう。


 もしこのペラペラの剣が折れて使い物にならなくなったら、戦闘不能として俺の敗北が決定するはずだ。これに賭けたい。


 そうと決まれば、攻勢に出るとしよう。


「じゃ、行くぞ」


「……⁉︎」


 俺は小声で合図を送り、ユリウスが俺の攻撃を剣で受け止められる状況を作った。


 ユリウスの剣戟をギリギリのところで避け、守備姿勢に入ったところで思い切り俺は剣を振るった。


 カキン!


 金属音が鳴り響き、剣が折れる音が聞こえた。


 ただし、折れてしまったのは俺の剣ではなかった……。


「あ、あれ?」


 ユリウスの剣が折れてしまい、宙を舞う。


 そして、五メートルほど離れた地面に刃が刺さったのだった。


「しょ、勝者——エレン・ウォルクス!」


 試験官が、決闘の勝敗を告げた。


 ……ああ、やっちまった。


 いや、まさかあんなにユリウスの剣が脆いとは思わないだろ⁉︎


 絶妙にユリウスの受け止める角度が悪かったことで、この結果になってしまったようだ。


「ユ、ユリウス様が負けた……⁉︎」


「そ、そんな……あ、ありえない……」


「な、なんてことだ……!」


 決闘を見物していた他の受験生や学院の職員たちをかなり驚かせてしまった。


 これは、さすがに合格か……?


 いや、でもまだユリウスが弱すぎたせいで決闘で勝っても大した評価にならない可能性もなくはないよな……?


 頼む、そうであってくれ……。


 俺は、実家でゆっくり気ままにニートライフを満喫したいだけなんだ……。

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