恋物語知子編
ひじり
恋物語
序章「知子への恋慕」
去年の夏ごろに大きなターニングポイントがあった。劣情に苛まれて何度も何度も死んでやろうと思った。今日はそんな劣情に話をしよう。
日が暮れて、人工の灯りによって僕の影が薄く広がった。まるで僕の心のように。薄いかもしれないが確かにそこにあるものだ。そこは公園でシンボルのタコ型の遊具が一人悲しくたたずんで見えた。
「お待たせ!待ったよね?」そこに軽装の彼女が現れた。薄いワンピースによく似合う薔薇色のカバンを持っていた。高々としたハイヒールを年甲斐もなく履く姿にうっとりしてしまった。彼女の名前は知子、僕が愛してやまない彼女だった。こんな公園に彼女と2人で何をするんだと疑問を持つかもしれない。
僕はここでプロポーズをしようと考えているのだ。二人でひとりぼっちのタコ型の遊具の方へ行った。「えらいね、ちゃんとSkyWord提出してて。」彼女は英語の教師でしっかりと僕たち生徒を見てくれている。
「今日は知子ちゃんに渡したいものがあってここに呼んだんだ。」そう言って僕はポケットから小さな箱を渡した。その中には彼女と対比的でよく映えるサファイアのような石が埋め込まれている指輪が入っていた。僕は溢れる恋情を抑えてあくまで、真面目な顔をして手渡した。「ごめんね、私クロスビウム提出してない人とは結婚できないの。」彼女は呆れを隠せないような表情で繰り返した。
「私、もう夫がいるの。」そう言って左手のメディシンフィンガーにはめられている、黒ずんだ銀の指輪を見て、僕の恋情は劣情に変わった。
「知子おおおおおおお!」僕はもう一つ隠していた、包丁をつかって彼女の胸にぐさっと突き刺した。何度も彼女の名前を叫び、突き刺し続けた。その後彼女の亡骸を抱えて、知恩院へ行った。そうして、僕と知子は最後のハネムーンをしたのだった。
二章「僕の思い出」
知恩院からこんにちわ、今日は彼女との思い出を発表しちゃうよ。彼女はもう亡き者だけど、僕は語らなければならない。
「細く長く。」それが彼女、知子の語り草だった。なんでも、教え子にもそう伝えているらしく、英語教諭として仕事をまっとうしていると雄弁した。
「知子ちゃん、細く長くってどういうmeanなの?」僕は純粋な疑問を彼女に投げかけた。彼女はポケットに入ってある伸縮自在の指揮棒を取り出して、説明した。
「人生とはね、、LEAPが重要!」三〇分近く熱弁していたようだが、うつらうつらとしていて、どうも何を話していたか覚えていない。
彼女との初デートなわけなのだが、人生を語って終わるなんて嫌だ。そう思って僕は近くのオーケストラ店へ入った。「imagine 〜All the people 〜」中では何やら曲が流れているようだ。鬱蒼とした店内に忌避感を覚えながらも、進んでいく。店員らしき人影が見えて声をかけてみる。
「すみません、一番早く見られるオーケストラはありますか?」僕は店員の肩を優しく叩いて呼びかけた。「じゃあ私の歌を聴いていく?」そう自信勇剛と放つ彼女は、いつしか一目惚れした八重子だった。
彼女と僕は顔見知りではなく、人伝いに聴いた女性だった。彼女も知子と同じく英語教諭をしているようで、洋楽の見識が深いみたいだ。それから六時間彼女の演奏を聴いていた。僕の知子もノリノリだった。その姿を見て柄にもなく照れてしまったと記憶している。
「良い発表をありがとう八重子さん。」知子は礼儀正しく世辞を言った。
その後八重子さんと秘密裏に連絡先を交換した僕は、家に帰り電話をかけた。
「八重子、こんな夜遅くにごめんなどうしても伝えたいことがあったんだ。」そういう僕は彼女、知子との未来に不安があった。その不安を彼女、八重子にぶつけてしまった。
「imagine 〜」彼女はその言葉を僕にくれた。その言葉の本当の意味は、『気にしなくて良い。何かあったら、私が守ってあげる』そう言った意味が内包されているようだ。僕は八重子のことが好きだ。知子よりも、files のテストはよくないけれど、更年期の知子よりも話が通じるし、歌も上手だ。
「八重子おお!愛してる!!」僕はスマホに向かって叫んだ。喉が不安と恋で満ちてどうにかなってしまいそうだった。けれども何度も何度も迷っていた。その決断をしたのだ知子との決別を決めたのはこの時だった。
知子ちゃん大事な話がある、渡したいものもあるんだ。そう言って僕は彼女に電話をかけた。
三章「罪と向き合うとき」
僕の思い出はこんな感じだったよ、けれども今は彼女と永遠にいられるし八重子とも一生いられる気がする。今から八重子のところに行ってくるね。
月が南中した頃、京都市に住む八重子の家のチャイムが鳴った。彼女はすでに眠りについていたが。予想外なことに来客は家に入ってこれた。後から知った話だけれども、ドアは見事に潰されていてドアノブには血痕がついていたらしい。さらに不気味なことに血で紫黒くなってしまった指輪のようなものまで発見されたという。
僕は全く動かなくなった二人の彼女を連れて、東大阪へと出向いた。移動は原チャだが、三人で乗るには少し狭いので、半分こにした。
ちょうど二人になったので、風に飛ばないようにくくりつけて走行した。途中サイ
レンの音が聞こえたが気にせず進む。暗がりの水溜まりに反射するサイレンはとても綺麗だ。
「知子、八重子、もうすぐ着くよ。」僕は優しく二人に話しかける。返答はない。最近本当に寒くなってきた、人肌恋しくなって2人の腕をマフラーがわりにしてみたりした。細く長い彼女の腕は生前彼女が残した言葉のようだった。
「止まりなさい!!」警官たちが僕たちを囲んだ。切なく降る雪に薔薇色の勇気が溢れた。
もう、終わりなんだな、嫁二人との新婚旅行はここで終わりを告げるのだった。三人で夜空を見て、指で空に文字を残した。
その情景をいつまで経っても忘れない。
「sky ward 」
恋物語知子編 ひじり @sho4168
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