第7話 離さないで

「ど……どういうこと?」


 和泉の発した言葉の意味がわからず、三奈子の頭の中ははてなマークでいっぱいだった。

 いや、意味はわかるのだが、それは本当にそういう意味なのか?ということが判断がつきかねている状態だった。

 そんな三奈子に、和泉はたどたどしく事の経緯を話す。


「3か月前……バレンタインデーの日に、キョウちゃんが告ってきたの……付き合ってほしいって……友達じゃなくて……その……恋人として……」


 ええええええ……


 三奈子の驚きはもう声ににならなかった。


「びっくりした……最初、どうしていいかわかんなかった……でも、しばらくして、自分がすごく喜んでることに気づいた……知らないうちに私もキョウちゃんを恋愛対象として見てたんだよ……」


 和泉の表情はそのときの気持ちを再現するかのように、不安げになったり、喜んだり、微かに赤らんだりところころ変わる。


「自分が同性に恋愛感情を抱く種類の人間なんだって認識して、かなり悩んだけど……でも、相手がキョウちゃんだったら大丈夫かなって……それでOKしたの……それなのに!!」


 そこでまた和泉はキッと恭子の方を睨んだ。


「優しかったのは本当に最初だけ!! 平気で約束をすっぽかすようになった!! 結局、キョウちゃんはそこら辺の性根の悪い男と同じ!! ブランド品か何かみたいに、私を手に入れた満足感が欲しかっただけだったんだよ!!」


「違う!!」


 和泉の糾弾に、恭子は拳を握り締めて全力で否定した。


「ごめん……和泉にそんな思いをさせてるなんて思わなかった……私は自分のことしか考えてなかった……和泉に対しても、和泉が好きだっていう自分の気持ちにしか目が向いてなかった……」


 恭子は持ってきていた鞄の中から、プレゼント用にリボンがかけられた小箱を取り出す。


「私、和泉と付き合い始めてからすぐバイト始めたんだ……それで部活とバイトでいろいろまわんなくなっちゃってたんだけど……私たちの関係ってなかなか周りに言いにくいヤツじゃん……だから、周りに見えないけど、形のある絆の証明みたいなモノが欲しかったんだ……」


 恭子はリボンをほどき、箱を開けて中を和泉に見せる。

 そこにはペアのネックレスが入っていた。

 リングに細いチェーンを通しただけのシンプルな物だったが、静かで優しい光を放っていた。


「受け取ってくれるかな?」


 和泉は差し出された箱の中のネックレスを見ながら、ぽろぽろと泣き出していた。


「バカ!!」


 和泉はそう叫んで恭子の胸に飛び込む。


「ごめん……」


 恭子は静かにそう呟いて和泉の小さな体を抱きしめた。


「もう…………」


「うん……離さない……」


 抱きしめあう二人の横で、一人置いてけぼりにされていた三奈子は思い切り息を吸いこみ、全力で叫んだ。


「ちょっと、待たんかあああぁぁぁいっ!!」



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