第5話 より深い闇

 日曜日の朝、三奈子は木場のショッピングモールの前にいた。

 このショッピングモールに併設されている映画館は比較的知名度が低く、都内の映画館としては人が少ない方で、いわゆる穴場なのである。

 ショッピングモールのメインエントランスの前はかなり広い広場になっており、その北側の通りはかなり豊富な種類の植物が植えられている。

 三奈子はその木々の間のベンチに座って、和泉が来るのを待っていた。

 5月半ばの木々はとても青々としている。

 三奈子が空を見上げると、今日も三奈子の気分をあざ笑うかのように青かった。


 空……

 クソ青い……


 三奈子は性格上、約束の時間にはかなり余裕を持って来るほうだが、今日は気が重いあまり輪をかけて早く来てしまっていた。

 時間を持て余した三奈子は今回の和泉と恭子の冷戦を時系列にふりかえっていた。


 まず、最初に恭子が和泉との約束を何度もすっぽかした……

 それに怒った恭子が報復で何度かすっぽかし返した……

 そして、そんなことになっていったのは……

 あまり考えたくないけど、和泉も恭子もお互いのことを疎ましく思っていた……


 何度思い返しても、胸がズキズキと痛くなるばかりだった。


「あんなに3人で仲よかったのに……」


 その言葉を声に出して、三奈子は「あれ……」と違和感に気づいた。


 3人……

 恭子が約束をすっぽかした……

 和泉がすっぽかし返した……


 なんで私、そのこと今まで知らなかったの?

 いつも3人で一緒に遊びに行ってたのにそんなことあった?

 もしかして、そのすっぽかされた約束のときに私一度も呼ばれてない……

 3月4月は卒業と入学のシーズンで生徒会の仕事が忙しくて全然気づかなかったけど……

 振り返ると3か月前から3人で一度も遊びに行ってない……

 でも、その間、和泉と恭子は遊びに行く約束をしていた……


 私を誘わず……

 私に何も言わず……

 私に内緒で……


 もしかして……

 今までハブられてたのは……

 私のほうだったの?


「みーなちゃん♪」


 唐突に目の前からそんな声が飛んできて、三奈子はびくりと体を震わせる。

 三奈子がより深い闇に気が付いて、思考の沼に嵌っている間にいつの間にか和泉が前に立っていた。

 和泉はいつも同じようにアイドルのような可愛らしい笑みを浮かべていた。


「和泉……」


 三奈子は絶望した表情で和泉の顔を見上げた。

 和泉の笑顔はいつもと同じはずなのに、今はまるで意思のない仮面のように見えた。


「どうしたの? 顔真っ青だよ?」


「和泉……アンタと恭子……今まで私をハブにしてたの?」


 三奈子の声は、まるでサイコパスの殺人鬼を前にしているかのように震えていた。


「え、何言ってんの? そんなわけないじゃない」


 三奈子の尋常ではない様子を見ても、和泉はその笑顔を崩さなかった。


「だったら、3か月前からアンタたちだけで遊びの約束して、私を誘わないようになったのは、いったいどういうことなの!?」


 そこでようやく和泉の表情が変わる。


「それは……」


 顔から笑顔が消え答えに窮している和泉に、三奈子は追い打ちをかける。


「答えて!!」



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