第4話 平行線

 和泉のセリフに三奈子は頭を抱えた。


 コイツら、揃いもそろって同じことを……


 その後、三奈子はより詳しい話を聞き出そうとしたが、和泉は「もうこれ以上アイツの話はしたくない」と他の他愛のない話をするばかりだった。




 翌日、三奈子は少し早めに学校に来た。

 席に着き、じっと恭子が来るのを待つ。

 和泉からはもうこれ以上情報を得られなそうなので、次は恭子から聞き出そうというわけだ。

 程なく、恭子が教室に入ってくる。

 恭子は無言で席に着き、三奈子は恭子の背中に向かって静かに語りかけた。


「昨日あのあと、和泉からいろいろ聞いたよ……」


 その言葉に、恭子はびくりと体を震わせる。


「何を?……どこまで?……」


「まあ、細かいことまで教えてくれなかったけど、アンタたち、私の知らないところでケンカしてたんでしょ?」


「それだけ?」


「それだけって……えーと、恭子が和泉との約束何回かすっぽかして、仕返しにあの子もすっぽかし返したって……」


「そう……あれは、そういうことだったんだ……」


「ねえ、なんでそんなことしたの?」


「それは……」


 そこでようやく恭子は三奈子の方に振り返った。


「和泉ってさ……誰かれかまわず媚売るじゃん……特に、アイツがサッカー部で男子部員の機嫌とってるところとか見ると……虫唾が走るんだよ……」


 恭子は苦み虫を嚙み潰したような顔で、そんな言葉を絞り出した。


 三奈子はまたも愕然とさせられた。


 和泉だけじゃなく、恭子までもそんなことを考えていたなんて……


「そんな……たしかに和泉は八方美人なとこあるけど、そんな言い方しなくても……」


「これは、私の主観の問題だから……どうしようもないよ……」


 恭子はその言葉を最後に前を向いてしまい、そのあと三奈子が何を言っても、「もう放っておいて」と取り合わなかった。




 その後一日、三奈子と恭子は一言も言葉を交わさなかった。

 6限が終わり、二人は無言のまま席を立ち、三奈子は生徒会に、恭子は部活にそれぞれ散っていった。

 三奈子が生徒会室に向かう道すがら、廊下の進行方向から和泉が歩いてくる。


 う……

 和泉……

 今はあんまり顔を合わしたくないんだけどなー……


 三奈子の憂鬱をよそに、和泉は満面の笑みで手を振ってくる。


「やっほー、ミナちゃーん!!」


 三奈子は苦笑いしながらも手を振り返す。


「日曜日、楽しみにしてるからねー」


 和泉はそれだけ言い残して、三奈子の横を通り過ぎて行った。


 結局、和泉に押し切られてあの映画には一緒に行くことになってしまっているのだ。


 まずいなー……

 恭子はあの調子で取り付く島もないし……

 和泉は和泉でこの状況にお構いなしで引っ張りまわしてくるし……

 このままだと、私が和泉に取り込まれて、恭子をハブにしちゃうような形になる……


 三奈子は廊下の窓ガラス越しに、空を見上げた。

 三奈子のどんよりとした心中とは対照的に、今日の空はとても青かった。


 それはイヤだ……

 中学1年からもう4年以上ずっと3人で仲良くやってきたのに……

 こんな形で関係が壊れるのはイヤだ……


 三奈子は鞄から携帯を取り出した。

 そして、画面を操作しメールアプリを開く。


 かなり乱暴なやり方だけど……

 でも、このまま終わるよりはいい……


 三奈子はフリック入力ですばやくメールを作成し、送信ボタンを押したのだった。



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