第2話 板挟み

 とんでもない要求に三奈子は絶句し、かわりに心の中で叫んだ。


 私を巻き込まないでーっ!!


 三奈子が返答に窮している間に、天の助けの如く5時限目のチャイムが鳴り、その時間の担当教諭が教室に入ってきてくれたおかげで、三奈子はなんとか難を逃れた。

 その次の休み時間は、生徒会の用事があるふりをして、休み時間中教室を離れていた。

 そして、放課後……


 さすがに、逃げ続けるわけにはいかないかなー……


 三奈子は意を決して恭子に声をかける。


「あのさ、恭子……」


「ごめん、今日の部活、ちょっと早めに行かなきゃいけないんだ……」


 恭子はそう言って立ち上がり、ショルダーバッグを肩にかける。


「いや、その、和泉のことなんだけど……」


 三奈子の言葉に立ち止まることなく、恭子はさっさと教室を出て行ってしまう。


「恭子、ちょっと待ってよー」


 恭子を追いかけて、三奈子は慌てて教室を出る。

 が、教室をでたところ、出入り口の扉のすぐ横に立っている人物の姿が目に飛び込んでくる。


「い、和泉!?」


 そう、そこに立っていたのは篠原和泉だった。


「あ、ミナちゃん、やっほー」


 和泉はそう言って、にこやかに手を振る。

 どうやら和泉は三奈子のことを待っていたようだった。


「今日、サッカー部練習休みなんだー。それでー、もしよかったら、この後、どっか行かない?」


「いや……生徒会の仕事があるから……」


 今日は大した仕事があるわけではなかったが、恭子からあんなことを言われた手前、ほいほいと和泉についていくわけにはいかなかった。


「うん、じゃあ、終わるまで待ってるね」


 和泉はそう言ってにっこりと微笑む。


 その笑顔に三奈子が困りながら苦笑を返すと、どこからともく殺気に満ちた視線が飛んできた。

 慌てて、感じた視線の方に目をやると、少し離れたところに恭子が立っていて、凄まじい眼光で、三奈子と和泉の方を睨んでいた。


 う……

 恭子……


 三奈子は蛇に睨まれ蛙状態だったが、そこでさらに怖いことに気づく。


 あれ……

 私、恭子と同じ扉から出てきて、恭子があそこにいるってことは……


 位置的に恭子は和泉の前を通っていることになる。

 そして、時間的におそらく恭子と和泉は全く口をきいていない。


 もう……完全に戦争状態ってわけ?


 縮みあがる三奈子をよそに、和泉はにこにこと話を続ける。


「今度の件のお礼をしたいから、なんか奢らせてよ」


 和泉はそう言って、両手で三奈子の右手を握ってきた。

 そして、ごくわずかにだが、ちらりと恭子の方に視線を送った。


 あてつけに私を使うなー!!


 三奈子は心の中で絶叫するが、和泉と三奈子のやりとりを見て、恭子は無言で踵を返し、どこへともなく去って行った。




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