第14話 乱暴者の再来
「うう……まだ頭がくらくらします……」
予定よりも早く、僕らは夕方にはミルガの谷からベルヴィオに帰ってきた。
もちろん、頭をさすってふらふらと歩くコートニーも一緒にね。
てっきり今日一日は眠ったままかと思ってたのに、アクラの背中でぱちくりと目を覚ますのを見た時は、意外なタフさにも驚かされたよ。
「さっきまで魔力切れで気絶してたからね。むしろベルヴィオに戻ってくるまでの間に目が覚めたことに、けっこう驚いてるよ」
「ジャッカロープを討伐できたんだって気持ちの方が大きくて、嬉しくって……私、やっと討伐クエストをクリアできたんですよね! 夢じゃないですよね!?」
「もちろんだよ。君がモンスターを倒したんだ」
僕でもなく、アクラでもなく、コートニーだけの力で倒した。
これできっと、彼女も冒険者ギルドで相応の実力者だと認められるだろうし、何より彼女自身が自分を認めてあげられる。
とはいえ、あんまりほめるとまたはりきり過ぎちゃうかも。
必要な事実だけを告げてあげると、彼女はまたぴょんぴょんと跳ねた。
「やった、やりました! これで私も、冒険者に……あれ?」
ところが、またもコートニーは足を止めた。
今度は体力切れで倒れたんじゃない。
自分でぴたりと動くのをやめ、代わりに少し離れたところに見える冒険者ギルドを指さしたんだ。
「ユーリさん! あそこにいるのって、まさか!」
指先に視線を向けた僕らの視界に入ってきたのは、ギルド前で
そして、昨日僕らともめた冒険者――オーガスタスだ。
「オーガスタス!」
僕が叫ぶと、彼は首根っこを掴んでいた冒険者を乱暴に突き飛ばして、こっちを睨んだ。
「おうおう、やっと戻ってきやがったか。待ってたぜ、クソガキども」
ギルド前まで走る僕を見て、あいつはなぜかにやりと笑う。
まだ怪我が完全には治っていないのか、傷が額や手足に残ってるのが見えるけど、周りの人を殴って倒せるほどの体力はあるみたい。
ジョブのおかげで簡単に
「イマドキの診療所ってのは便利なもんだな! 所属してる【治癒士】のスキルのおかげで、町を歩き回れるくらいには回復するんだからよ!」
「その割には、パーティーメンバーがいないみたいだけど?」
「あいつらならビビって、診療所で大人しくしてるよ! あの根性なし共が!」
で、その代わりに用意したのが、彼の隣にいる人か。
黒いマントとフードのせいで、性別すら分かりやしないけど、きっとろくなやつじゃない。
「まっとうな判断だね。で、君は僕らがどこに行ったのか、乱暴なやり方で他の冒険者に聞いてたの?」
「そうだよ、テメェに仕返しするためにな! どいつもこいつも、テメェには何もさせないとか、町から出ていけとかナメたこと言って、口を割ろうとしなかったがな!」
なるほど、それで。
それで――周りにいる冒険者が、怪我をしたり、倒れたりしてるんだね。
もうすでに、何があっても君を許す気にはなれないよ。
「特に受付嬢のやつなんざ、自警団を呼びやがった! だからこうやって、ベルヴィオの町で最強の冒険者に逆らったらどうなるかを教えてやってるんだよ!」
しかも、受付嬢に至っては、ギルドの入り口で腕を押さえて
戦闘能力がない彼女を、【重戦士】のジョブの持ち主が殴りつければどうなるか分からないほど、頭に何も詰まっていないわけじゃないだろうに。
「皆さんがケガしてるのって……そんな、ひどいです!」
「マジのクソヤローじゃん。おこってレベルじゃねーぞ」
コートニーだけじゃなくて、アクラも怒りを隠せていない。
地獄の獄卒の如く、オーガスタスという罪人に罰を与える気満々だ……前世の日本で、自分もとんでもない数の人間を殺しているのは、いったん棚に上げておこう。
「言っとくけど、命乞いなんて聞かんから。骨をバッキバキにへし折って、ぶっ殺す――」
僕がストップをかけなければ、あの間抜けな冒険者は確実に死ぬ。
「――いいよ、僕がやる」
でも、それじゃあ気が済まない。
僕らを探すためだけに人を傷つけた外道には、死よりも恐ろしい罰を与えるべきだ。
「ユーリ!」
「ユーリさん!」
「ベルヴィオの冒険者ギルドの皆が、町に来たばかりの僕らを守ってくれたんだ。今度は僕が、皆を守る番だよ」
しかもギルドの皆は、貴族の世間知らずの子供を守ってくれたんだよ。
そんな人達を傷つけられて、はいそうですか、で終わらせるわけがないだろう。
「……ユーリさん、気を付けてください……!」
「心配しないで、コートニー。あんな連中、簡単にやっつけちゃうからね」
コートニーに微笑みかけてから、僕は前に出た。
「それで、君と隣にいるお友達、どっちから痛い目に遭いたい?」
「ハッ、後ろの女に守ってもらわねえと何もできねえガキが、何言ってんだ!」
オーガスタスがゲラゲラと笑う。
折れた武器すら持っていない彼に、何ができるのか。
「本当なら俺がぶちのめしてやりてえところだが、今回はそれじゃあ物足りねえからな! 人を
「の、呪いだって!?」
「まさか、【
オーガスタスの隣の人物は、受付嬢でさえ青ざめるほどの力を持っているらしい。
「おい、任せたぜ。あいつら全員、散々苦しめてから殺してやれ!」
背中を叩かれた
現れたのは、
僕よりずっと年上らしい彼女は、舌なめずりをして僕を指で挑発してきた。
「こんな子供に呪いをかけるだなんてねぇ。まあ、金を積まれた以上はやらせてもらうよ」
呪いか。
このユーリ・アシュクロフトに呪いをかけるのか。
ならば。
「そうか」
僕は頭の中のスイッチを切り替えた。
「……呪い勝負なら、受けて立つよ」
敵を倒すんじゃなく――
それが、僕を呪おうとする相手に対する、陰陽師としての礼儀だよ。
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