第10話 →だから鑑定はちょっとマズい!

「――それでは、冒険者登録はこちらのステータスボードで行います」


 次の日、僕達はコートニーに連れられて、冒険者ギルドに来ていた。

 目的はもちろん、冒険者の資格を手に入れること。

 てっきり課題をこなしたり、試験をパスしたりといった難題が用意されるかとおもってたけど、とくにそんなものはなかった。

 代わりに、僕は受付嬢の指示で、テーブルの上の灰色の板の前に立たされた。


「ここに、手のひらを置くだけでいいの?」

「はい、【鑑定士】のスキルと同じ力を持った特殊な石板で、あなたの過去の経歴やジョブ、スキルなどをギルドに情報として提供してもらう必要があります」

「じゃあ、この後に用意してる履歴書とかを書く意味はないんじゃないかな?」

「それはまあ、昔からの決まりですので……」


 こういうところは、悪い意味で現代と変わらないんだなあ。

 なんて苦笑いしながら、僕はステータスボードの上に手を置いた。

 すると、1秒も経たないうちに、紫色に光る文字群が浮かび上がってきた。


「ユーリ・アシュクロフト、15歳、男性、ジョブなし、犯罪歴なし……と」


 表示されるのはすべて、当たりさわりのない情報ばかり。

 というのも、僕は霊力で自分の能力をカモフラージュできるんだ。

 元居た世界じゃあ、僕の正体がバレるのは超危険だったからね。

 どこからどう見ても一般人だと思われるようにしておくのは、戦闘技術より大事なのさ。


「改めてお聞きしますけど、ジョブなしで、本当に冒険者としてやっていけますか?」

「うん、ちょっとした秘密の力を持ってるからね!」


 心配そうな受付嬢にサムズアップで返事をするけど、やっぱり信用はないみたい。


「秘密って、それが表示されないと意味がないんですけど……まあ、犯罪歴がないのなら問題はありませんね。メイドさんも、ステータスボードに手を当ててください」


 続けてアクラも、僕のとは別のボードにそれぞれ手をあてがう。

 彼女は霊力による情報のカバーはできないけど、秘密を隠す別の方法を持ってる。


「……あれ?」


 ほどなくして、ふたりのステータスボードに異変が起きた。

 アクラのボードが、みしり、と大きな音を立てて、ぴくりとも反応しなくなったんだ。


「お、おかしいですね……ステータスボードが壊れるなんて……」


 受付嬢と、妙な音を聞いた同僚がボードを点検するけど、うんともすんとも言わない。

 3分ほどわちゃわちゃとステータスボードをいじくり回した結果、受付嬢はとんでもなく大きなため息をついた。


「もう、今回ばかりは仕方ありません! メイドさんは書類手続きだけで済ませます!」


 再検査でもさせるかと思ったけど、あっさり諦めてくれたみたい。

 けっこうガバガバなのも、なんだか役所仕事って感じだなあ。


「アクラ、何をしたの?」


 こそこそとアクラに話しかけると、彼女がこっそり耳打ちしてくれた。


「別にー? ちょっちステータスボードを内側からぶっ壊しただけ☆」


 やっぱり。アクラの鬼の力なら、ボードをどうにかするなんて造作ない。

 僕は感心しながら、渡された書類の必要事項をすらすらと書き終えて、受付嬢に渡す。


「はい、書類は確認できました。本来なら資格証はギルドマスターを通して発行するんですけど、今回は特別に、即時発行しておきます」

「どうして?」

「そりゃあ、ギルドマスターにこんな話をしたら、面倒だからに決まってるじゃないですか。私、勤務歴が長いので、これくらいの権利はあるんですよ」


 履歴書をさっさと回収した受付嬢は、あっけらかんとそう言った。

 現代で言えば、保険証の発行を窓口の相談員が全部やっちゃうようなものかな。


(ありがたいけど、このギルド、ほんとに大丈夫……?)


 あまりに登録がとんとん拍子に進むのがちょっぴり怖くなってきた僕に、受付嬢は冒険者としてのルールを説明してくれた。


「王国内のギルドで登録した冒険者は、最初は銅5等級から始まります。そこから――」


 ええと、ごめんなさい。

 長いので割愛――簡単にまとめると、覚えておくべき内容はこんな感じ。



 ①冒険者資格証は、発行した町と近隣の町でのみ有効(王都のもののみ全域有効)。

 ②ランクは銅5~1、銀5~1、金5~1とランクアップ。

 ③ギルドや王国への貢献に応じてランクアップ、もしくはランクダウン。

 ④クエストは契約金前払い制、ギルドで受注して目的を達成して報酬をもらう。

 ⑤クエスト中の怪我、事故、死亡については一切関与なし。



「――というのが、主な説明です。再度説明が必要なら、また声をかけてください」


 受付嬢はこう言ってくれたけど、他も簡単な説明ばかりだった。

 本当にありがとう、ファンタジー小説。

 冒険者がどんなものかちっとも知らなかったら、もっと理解に時間がかかっただろうね。

 それにこっちにはコートニーって冒険者の先輩もいるし、今の説明になかったものは彼女に聞けばモーマンタイだよ。


「さて、それではコートニーさん。ユーリさんとは別で、新しく手に入れた武器のをしましょうか。うちの鑑定士にそれを渡してください」


 そう、たとえば武器の鑑定とかね。




 ――え、鑑定?

 俱利伽羅剣くりからけんを?


「はいっ!」

「……え?」


 コートニーが俱利伽羅剣を取り出すのを見て、僕どころかアクラまで慌てた。


「ちょちょちょ、ちょっと、コートニー!? 冒険者って、武器を鑑定するの!?」

「もちろんです! 【鑑定士】のジョブを持ってる方は、『鑑定』スキルが熟達じゅくたつすれば、武器のスペックだけじゃなくて盗品かいなかも判別できるんですよ!」


 百歩譲って鑑定するとしても、とにかく他人があれに触れないようにだけしないと。

 ギルドの奥から出て来た【鑑定士】らしいおじいちゃんを、不動明王様の炎で燃やすのは流石にシャレにならない。


「なんだかすごい雰囲気の剣だけども、いつも通り鑑定するからねぇ」


 そう言って鑑定士のおじいちゃんは、コートニーが差し出した剣に手をかざした。

 よかった、直接触ったりはしないみたいだ。


「じゃあ、早速『鑑定』と……武器のランクは、とぉ……」


 あとは、この世界で俱利伽羅剣がほどほどの評価をされるだけ――。


 ●俱利伽羅剣

 ●総合ランク:SS+

 ●物理攻撃力:SS+

 ●魔法攻撃力:EX

 ●耐久性:SS

 ●稀少度:EX(神具・入手不可能)

 ●特殊能力:『俱利伽羅龍王解放』『肉体強化++』


 あ、そうですよね。

 大日如来だいにちにょらいの化身の武器が、ほどほどで収まるはずないですよね。


「「……はいいいぃぃーっ!?」」


 案の定、ギルド中に冒険者やスタッフの驚愕きょうがくの声がこだました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る