第11話 冒険者、最初のクエスト

「な、ななな、何なんですかこの剣は!?」

「SSぷらすランクだってぇ!? こんなの、一度も鑑定したことがないよぉ!?」


 受付嬢や鑑定士の驚きの声が、ギルド中に伝播でんぱんする。


「どうしてコートニーがこんな武器を持ってるんだ?」

「まさか、盗品とか?」


 そりゃそうだ。

 これまで討伐クエストに成功したことのない冒険者が、超々高ランクの武器を持っていれば、普通は何かしらのトラブルや事件を疑うよ。

 もしもSSランクってのが、この世界で大したことのないランクならともかく。


「ゆゆゆ、ゆゆゆ、ユーリさん! わ、わわわ、私、とんでもない武器をもらったんじゃないでしょうか~っ!?」


 まあ、そんなわけないよね。

 コートニーが信じられないほどうろたえてるんだから、SSランクってのはとんでもない激レア品なんだろう。


「こんなことなら、結界でコーティングしておけばよかったね……」


 僕の霊力で疑似的ぎじてきに封印をかけて、見た目だけのスペックを下げるのは簡単なんだから、万が一のことを考えてそうしておくべきだった。

 どこからどう見ても一般人だと思われるようにしておくのは、戦闘技術より大事なのさ――ついさっきドヤ顔で説明してた自分を、蹴っ飛ばしてやりたくなる。

 ひとまず、どうにかして場を収めないと。


「鑑定士のおじいちゃん、これは僕がコートニーにプレゼントしたものだよ」


 さらりと俱利伽羅剣をコートニーに返しつつ、僕が受付嬢達の間に割って入った。


「僕も一応アシュクロフト家の出身で、珍しい武器を持っていて……彼女がまだ剣を買ってなかったから、プレゼントしたんだ。盗品じゃないなら、登録には問題ないよね?」

「うーむ、確かに『鑑定』スキルじゃあ盗まれたものでも、呪われたものでもないと出ているよぉ。受付嬢や、どうしますかねぇ?」


 鑑定士がちらりと受付嬢を見ると、彼女はちょっぴり悩んでから言った。


「ギルドマスターに報告すると面倒ですし、さっきの鑑定は、なかったことにしてください」


 え、いいの?

 ここまであっさりと納得してくれるのは嬉しいけれど、本当に大丈夫なの?


「言っておきますけど、本当ならNGですからね! 皆さんはオーガスタスさんと、その仲間を診療所送りにしてくれたから、今回だけ特別ですよ!」


 受付嬢がそう言うと、周りの冒険者達が不思議と「それならいいか」「仕方ないか」と口々に話して去ってゆく。

 これじゃまるで、怪物を倒したから多少の犯罪は認められる、英雄みたいじゃないか。

 今回の場合、怪物というのはあのオーガスタスだ。


「そんなに嫌われてたの、オーガスタスって?」

「当然です! 他の受付嬢にセクハラするわ、銀等級だからって威張り散らかして他の冒険者に暴力を振るうわ、いつか追い出してやりたいって常々思ってました!」


 頬を膨らませる受付嬢の後ろで、同僚や冒険者がうんうん、と頷いてる。


「あの人達をやっつけたんですし、皆さんも内心、感謝してると思いますよ」


 やっと、さっきから受付嬢が好意的に登録作業を進めてくれる理由が分かった。

 厄介払いをしてくれた、お礼のようなものなんだ。


「いいことするのって気分がいいね、ユーリ☆」


 アクラと僕が顔を見合わせて笑っていると、受付嬢が紙を何枚かテーブルの上に置いた。

 ついでに、いつの間にか作ってくれた2枚の資格証も一緒に。


「では、皆さんは銅5等級ですので、こちらから受注するクエストを選んでください!」


 そうして受付嬢は、他の仕事をするためにカウンターに戻っていった。

 クエストの目標や受注金、報酬金や目的地が書かれた紙を1枚、また1枚と手に取って眺めてみるけど、内容はだいたい同じだね。


「ふむふむ、『三つ首リンゴ』の採取に『ハルメント結晶』の運搬……一番下のランクだけあって、ほとんどアイテムをギルドに納品するクエストばかりだね」

「あたしらって冒険者1年生だし、とりまこーゆーのを受けときゃいんじゃね?」


 アクラの言う通り、現代最強の陰陽師でも、冒険者としてはひよっこだ。

 まずはちょっとした採取クエストを、チュートリアル代わりに――。


「――いえ、ここは討伐クエストに挑みましょう!」


 ――しようと思ったんだけど、コートニーの一言でさえぎられた。

 しかも彼女は、自分ひとりじゃ達成したこともない討伐クエストが記された受注用紙を掴んで、天井に向かってかかげたんだ。


「コートニー!?」


 驚くぼくらが止める間もなく、彼女はどたどたとカウンターに向かい、紙を突き出した。


「受付嬢さん、私とユーリさん達で『ジャッカロープ5匹』の討伐クエストを受注します!」

「えーと……他の人と一緒なら、まあ、いいでしょう」


 ジャッカロープといえば、角の生えた兎のようなモンスターで、ファンタジー小説だと基本的にザコ敵として扱われてる。

 それこそ、受付嬢があっさりと討伐クエストを認めるくらいにはね。


「ありがとうございます! 私は冒険者の先輩ですし、ユーリさんからもらった剣で、きっと討伐クエストを成功させてみせますよ!」


 手続きをしながら、ふんす、ふんすと鼻を鳴らすコートニー。

 やる気満々な様子は、遠足前日の小学生みたいだ。


(もしかして、ちょっぴり空回りしてる?)

(ユーリに勇気づけられて、舞い上がってるのかも☆)


 こそこそと話す僕とアクラの結論は、同じだった。

 そういうわけなら、仕方ない。

 ちょっぴり気が早いけど、コートニーと俱利伽羅剣の相性を見るいい機会と思おうか。


「まずは道具屋で必要な薬とアイテムを揃えて、ユーリさんと出会った森にゴー! そこでジャッカロープをやっつけて、皆さんにカッコいいところを見せれば、ギルドの皆さんも私を認めてくれるはずです!」


 クエストの受注を済ませたコートニーは、意気揚々とギルドの出口に向かう。


「目指せ、夢の金等級! コートニー・グリム、いざ邁進まいしんですーっ!」


 大きな夢があるのはいいことだ。

 あんまりにも猪突猛進ちょとつもうしんなところだけは、玉にキズだけど。


「ま、いざとなれば、ね?」


 アクラの耳打ちに、僕が頷く。


「うん、僕達がきっちりフォローしよう。コートニーに自信を付けさせながら、ね」


 にっと笑って、僕と鬼コンビはコートニーについていった。

 どうしてかは分からないけど、彼女が僕達の役に立つって言ってくれたように。

 夢に向かって一直線に駆け出すコートニーの支えになりたいって、僕らはすっかり思うようになってたんだ。

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