第8話 超爽快、鬼のチカラ☆
ギルドの外に出て向かい合うオーガスタス一行とアクラ。
こんな騒動はめったにないのか、冒険者だけじゃなくて、町の住人達も野次馬になってる。
ちなみに僕とコートニー、受付嬢はギルドの出入り口から見守ってるけど、ギルドマスター的な人ってここにはいないのかな。
「オイ、一応言っとくがな、俺らは女だろうとボコボコにするんだぜ?」
「ワビ入れるなら今のうちだぞ、ぎゃはは!」
「笑い声、キモ。フツーにひくんですケド」
軽口をたたくアクラとは裏腹に、コートニーはいよいよ不安がピークに達してる。
「ユーリさん、やっぱり……!」
「大丈夫。決着はすぐにつくよ」
彼女をなだめていると、アクラが一歩前に出て、指で
「とりま、ハンデのひとつくらいはあげてやんないと話になんないっしょ。ほら、先手はあげるからさ、好きに攻撃してきなー?」
くたばりやがれ、のサインは全世界共通らしく、とうとう相手の血管が切れた。
「……とことん舐めやがって! 生意気なガキと一緒に後悔させてやるぜ!」
「おい、魔法をぶち込んでやれ!」
「任せて!」
最初に動いたのは、狐顔の女性。
アクセサリーで装飾されたローブの中から取り出したのは、木製の長い杖。
彼女はそれを構えて、むにゃむにゃと何かを呟き、杖を振り下ろした。
「スキル『
すると、目が眩むほどの光と共に、雷撃がアクラめがけて解き放たれた。
なるほど。彼女はさしずめ、【魔法使い】のジョブの持ち主なんだろうね。
「あはははは、魔法を見るのは初めてかしら? 【魔法使い】のジョブを得た私なら、これくらいの魔法発動は造作もないのよ!」
屋敷ではちょっとした魔法しか見なかったし、確かに強力無比な技だ。
――まあ、相手がアクラだったのが運の尽きなんだけど。
「あー、そういうのいいって」
「へ?」
アクラが腕を軽く振るうと、雷は一撃で
「雷を操るとか言ってるけど、陰陽師とか
もっとも、アクラの技がこれで終わらせるわけがない。
彼女の目がぎらりと光った瞬間、アクラの姿が魔法使いの視界から消えた。
「オラァッ!」
そしてまばたきの間に、メイド服をなびかせ、鬼が魔法使いの顎を蹴り上げた。
「ぶがばぁッ!?」
魔法使いの体が宙に浮き、顎の骨が砕けるどころか、歯が全部吹き飛ぶ音がした。
今更説明するまでもないけど、アクラ――
単純な身体能力は人間の遥か上で、黒く染まった腕と足は一撃で岩を砕き、相手が生き物なら骨を粉々にして内臓を引きずり出すのも造作ない。
「な、なんだあの速さは!?」
「くそ、叩き潰してやる!」
襲い掛かってきてる【戦士】ふたりだって、鬼の腕力なら3秒で肉片にできるよ。
彼女は冒険者達の頭をむんず、と掴むと、力任せに地面に叩きつけた。
「「ばぼぎょぼげべええええッ!」」
地面にひびが入り、男達は
「よっわ。
はっきり言っておくと、ステゴロなら僕より、鼻を鳴らすアクラの方が強いね。
なんせ現代じゃ、12.7×99ミリの銃弾の掃射を受けても無傷だったんだから。
鬼を殺すって豪語してた
「オーガスタスの仲間を一撃で……」
多分だけど、隣で目を見開いてるコートニーと同じ顔をしてたはずだ。
ああ、ついでに口をあんぐりと開けてるオーガスタスも、だね。
「う、嘘だろ……あいつら、ふたりとも【戦士】のジョブで……頭突きで岩を砕けるほど頑丈なんだぞ!? 魔法だって、リザードマンを簡単に仕留められるくらい……」
「あのさー、そこで自分達がザコだからって結論が出ないの、マジヤバくね?」
「ぐ、ぐぐぐ、舐めやがってえええッ!」
アクラの心底つまらなさそうな顔が、彼を破れかぶれな行動に
背負っているハンマーをブンブンと振り回して、オーガスタスが突進してくる。
「俺のジョブは【重戦士】! 頑丈さと腕力の強さはさっきの【戦士】の比じゃねえぞ!」
ほうほう、血走った眼と筋骨隆々の体つきは、【重戦士】のジョブにふさわしいね。
「しかもスキル『
おまけに腕力を強化しているなら、ハンマーで人の頭をかち割るなんて造作ないかも。
一応言っとくけど――相手が人間なら、の話。
まったく避けようとしないの頭を叩き潰すように、信じられない速度で振るわれたオーガスタスのハンマーが直撃した。
「……あれ?」
直撃しただけ。
アクラは無傷で、逆にハンマーの方がひび割れて粉々に砕け散ったみたい。
「あの、えっと、あれ……?」
「つまんねーしさ、さっさと終わらせちゃうよ、っとォ!」
アクラがぐっと拳を握り締めて――オーガスタスの腹を、思い切り殴った。
彼は突風に吹き飛ばされるカエルのように転がっていった。
「おんぎゃあああああああああー……ッ!」
通りを突き抜け、見えなくなり、やがて声も聞こえなくなる。
静寂だけが残るギルド前の光景を目の当たりにして、受付嬢は
「……あ、あんなのを従えるって……あなた、いったい……」
「ええと、受付嬢? 僕達の冒険者資格、準備してもらっても――」
「は、はいっ! 明日には用意しておきますっ!」
受付嬢は慌てた様子で、どたばたとギルドの中へと駆けていった。
それを引き金に、野次馬達が大騒ぎする。
やれあいつらは何者だ、やれとんでもないのが現れた、とか。
そんな中、コートニーは不安から一転、目をキラキラと輝かせてアクラを見つめてた。
「すごいですね! アクラさん、あの人達を倒すくらい強いなんて!」
「でしょ? 僕の自慢の、最高にカッコいい鬼だよ」
僕はコートニーに笑いかけてから、とアクラに親指を立てる。
「ウェイウェーイ☆」
日本で最も恐れられた鬼の一角は、裏ピースで応えてくれた。
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