第14話 訃報
アイガ先生に再び修行を頼んだ僕だったが、リルムをかばって怪我をしたことで、あきれられてしまった。
まあ、仕方ないね……。
僕だって、リルムを殺そうとするような人からは、教われない。
アイガ先生はきっと、僕のためを思ってそうしたのだろうけど……。
どうにも、アイガ先生とは考え方が合わなかったな……。
ラインハルトさんに教われれば一番いいんだけど……。
ラインハルトさんは王都一のテイマーだし、忙しいよね。
そんな人に修行をつけてもらえるわけもない。
御父様に代わりの先生を見つけてもらうように、一応頼んではみたけど……。
御父様は母さんを失ったショックで傷心の身だ。
あれからすっかり弱ってるし、変な占い師にが出入りしているし……。
あまり期待はできないな。
僕は今のうちに、自分でやれることをやっておこう。
まずは、僕自身がもっと強くならないとな。
リルムは大事な友達だけど、スライムはあまり強くはない。
昨日アイガ先生がリルムを攻撃したときみたいに、これからもリルムが危ない目に合うことはあるだろう。
そういうときに、僕もリルムを守れるようになりたい。
そのために、僕は身体を鍛えることにした。
僕には恵まれた体格も、筋肉もない。
けれど、なにもやらないよりはましなはず。
僕はその日から、毎日身体を鍛えまくった。
とにかく筋トレをかかさずにこなす。
毎日腕立て腹筋、スクワット、何百回でも、倒れるまでやり続ける。
それから持久力をつけるために、庭を何週もマラソンした。
剣の才能だってないけれど、少しでも剣を身体になじませるため、僕は毎日何百回も素振りした。
最初はどれも、全然できなかった。
だけど、日に日に、こなせる練習量が増えた。
最初は僕の剣では訓練人形に傷ひとつつけることができなかった。
けれど、数か月で、訓練用の人形を何体も破壊できるまでになった。
僕はそれこそ必死で努力した。
リルムを守るため、家を守るため、お母さんを取り戻すため。
そのためなら、僕はなんだってできた。
あまりに根を詰めすぎて、姉が心配してくれた。
「ティム……。あまり、無理はしないでね。ティムまで倒れたら……私……」
「大丈夫だよ。ありがとう、おねえちゃん」
姉はもともと、活発でやんちゃなおてんば娘だったが、母を失ってからは、どこか落ち着いた感じで、おしとやかになったと思う。
年々、母に似てきている。
母は穏やかで、優しい性格だった。
兄のローランは学院に通っていて、たまにしか会えないが、暇があるときは、僕の修行を見てくれるようになった。
父は相変わらず、臥せっていた。
一種のうつ病のような感じだったのだと思う。
僕もいろいろ、父にしてやれることはないかと画策したが、どれもあまり効果はなかった。
そうやって日々は過ぎていった。
僕は10歳になった。
アイガ先生が去ってから、父が代わりに何人かの師匠を用意してくれた。
けど、どの先生もみんな僕の才能に失望して、あきらめて、そう長くは続かなかった。
そんな中、僕の修行に根気強く付き合ってくれたのは、レイン・クロスフォードという先生だった。
レイン師匠は、とてもやさしくて、僕のことを長い目でみてくれた。
メガネをかけた穏やかな性格の好青年、それがレイン師匠だった。
僕は師匠にしたがって、剣術や魔法について理解を深めていった。
もちろん、どれも大したことはないのだが……。
レイン師匠に教わって、リルム以外のモンスターをテイムしようともしてみたが、どれもうまくはいかなかった。
そもそも、リルムをテイムできたのだって、偶然、奇跡みたいなものだ。
僕にはそもそも魔力が足りないし、これ以上のテイムは不可能なのかもしれない。
アイガ先生が言っていたとおり、僕はいくら修行しても、たいして強くはなれなかった。
剣術だってせいぜいがFランク冒険者程度だろうし、魔法だって、知識はあれど、魔力がないから使えない。
テイマーとしても、リルム以外はテイムできないまま……。
肝心のリルムも、いっしょに修行してはいるものの、あまり強くはなってない。
やはり、スライムという種族の限界なのだろうか。
リルムに命令をしても、倒せるのはせいぜい、同じくスライムくらいのものだった。
ゴブリンに挑んでは返り討ちに会う、そんな日々だ。
そんなある日、兄が死んだとの知らせが入ってきた――――。
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