第11話 決意
「ところでティム。その手に持っているのは、もしかしてミネージュ草か?」
「え……? そうですけど。なんでわかったんですか……?」
「そうか……手に入れられたんだな……!」
あれ、そもそも僕って名乗ったっけ。
それに、ミネージュ草のことも知っているなんて。
もしかしてラインハルトさんは、僕を助けに来てくれたってこと……?
「ああ。俺はお前さんの父親に言われて、やってきたんだ。事情は全部きいている。まったく、無茶するやつだよ、ほんとに。みんな心配してるぞ」
「そ、そうだったんですか……。すみません……」
「こんな危険な森に子供一人で入るなんて……。まあ、気持ちはわかるけどな。けど、無事に手に入れたんだな……! これで、お母さんが助かるといいな」
「はい……!」
「じゃあ、とっとと帰るか」
そういって、ラインハルトさんはレオンに跨った。
そして僕の手をとって、僕もその後ろに乗せてくれる。
「レオンの上に乗っても大丈夫なんですか?」
「ああ、こいつは丈夫だからな。人二人くらいなら、余裕で乗せて走れる」
「すごい……!」
馬の上に跨ったことはあるけど、ライオンの上に乗るのは初めてだ。
僕とラインハルトさんを乗せて、レオンは走り出す。
レオンはものすごいスピードで森の中を走り、あっというまに抜けてしまった。
この調子だと、30分くらいで家に着くだろう。
レオンの上に乗りながら、ラインハルトさんと話をする。
「ラインハルトさん、ひとつ疑問が」
「なんだ?」
「どうしてラインハルトさんは魔族をあんなに簡単に倒せたんですか? たしかにレオンは強い。けど、ただのモンスターが魔族を倒せるなんて……。普通に考えたら、あり得ないですよね……」
僕の中で、ずっとそれが引っ掛かっていた。
たしかにラインハルトさんは王都で最強のテイマーかもしれない。
だけど、だからといって魔族を瞬殺なんて、普通はありえない。
魔族といえば、普通は軍隊を動かしたり、Aランク冒険者が束になってようやく敵う相手だ。
そんな魔族を、いくらS級冒険者だからといって、瞬殺するなんて……。
そこには、なにか強さの秘訣があるのだろうと僕は考えた。
それをきけば、僕が強くなるためのヒントが得られるかもしれない。
「ああ、それか。レオンはな、特別なんだよ」
「特別……?」
「こいつは今ままでに、魔族を3体喰らってる」
「3体も……!?」
「そして、グレートレオの種族特性は【暴食】。捕食した相手の力をすべて自分に吸収するというものさ。つまり、魔族3体分の力を持ってるも同然。魔族の1体くらい、どうってことないのさ」
「すごい……。そういうことだったんですね……でも、魔族を3体もって……」
「俺は魔族狩りをしているからな」
「魔族狩り……?」
「王様に言われてな。魔族を殺すように言われている。魔族は放っておくと、国の脅威になるからな。S級冒険者の何人かはそうやって王国から依頼されているんだ。それで、俺は常に魔族の情報を探っている。ちょうどナラワシノ森のあたりで魔族の反応があったからな。それで、俺はこの地方を訪れたんだ。そしたら、ちょうどお前さんの父親につかまってな。ついでにお前を助けたってわけだ」
「そうだったんですね……」
「ま、なんにせよ、お前は運がいい。魔族に会って生きて戻ったんだ。それに、ミネージュ草も手に入れた。お前は冒険者に向いてるよ」
「僕が……冒険者に……。あ、ありがとうございます」
「さ、そろそろ家が見えてきた」
屋敷の前まできて、レオンが足を止める。
僕は真っ先にレオンから飛び降りて、お母さんのいる部屋を目指した。
「お母さん…………!!!!」
お母さんが寝ている部屋に飛び入ると、父が僕のことを抱きしめて出迎えた。
「おお、ティム……! 無事だったか……! 心配したんだぞ……お前が無事で本当によかった…………。お前まで失ったら私はもう…………」
「ごめんなさい、御父様。でも、無事にミネージュ草を手に入れました……!」
「そうか………………そうだったか……」
僕はミネージュ草を手にもって、母さんのベッドに駆け寄った。
「お母さん、ほら。ミネージュ草を手に入れたよ……!!!! これで助かるんだ……!!!!」
しかし、母からの返事はない。
「お母さん! 返事をしてよ! なにか言ってよ!」
「ティム……。その……。母さんはな……もう…………」
どうやらお母さんの様子がおかしい。
顔色が悪いし、寝ているのかな……?
僕は必死に呼びかける。
「ティム……やめるんだ……。母さんは……もう…………死んだ」
「嘘だ……!!!!」
だってせっかくミネージュ草を手に入れたのに……!
これがあれば、母さんの病気は治るはずだったのに……!!!!
なんで……。
そんな、なんで…………。
「ティム……。残念だが、もうどうしようもない。母さんを見送ってやろう」
「うああああああああああああああああああああ!!!!」
「ティム…………」
僕は間に合わなかった。
それを自覚した瞬間、涙があふれ出す。
号哭。
僕の中でなにかが崩れ落ちる感覚があった。
足元がぐらつく。
嘘だ……!
こんなの絶対嘘だ。
なにかの間違いだ。
だって、ひどすぎるよ……。
僕がなにをしたっていうんだ。
母さんがなにをしたっていうんだ。
なんで……こんな…………。
「うあああああああああああああああああああ!!!!」
「ティム……すまない。父さんが力不足だった…………」
母さんのベッドに向かって泣きじゃくる僕を、父は後ろから優しく抱きしめる。
僕にもっと力があれば……。
僕がもっとはやくミネージュ草を手に入れて、戻っていれば。
そんな後悔が、いくつも頭に浮かぶ。
そもそも、僕に魔法の才能があれば……。
もっと物語の主人公みたいに、かっこよく母を救えたかもしれない。
僕には、力も才能もない。
ほんとうに無力だ…………。
せめて、最後にお母さんと話がしたかった。
もっと、いろんな話がしたかった。
もう一度だけでいいから、あの母の優しい笑顔が見たい。
とてつもない後悔が僕を襲う。
「お母さん…………会いたいよ…………」
そのとき、僕の中にある考えが思い浮かぶ。
いや…………ある。
一つだけ、もう一度お母さんに会う方法が……。
それは、テイマーになること。
レティが言っていたこと。
テイマーになって、全種類のモンスターをテイムすることができれば、なんでも一つ願いが叶うという。
それは、文字通りなんでも、神様が叶えてくれる。
神様なら、人を生き返らせることも可能なんじゃないのか……!?
実際、僕はこうして、異世界に転生して、生きている。
神様なら、もう一度お母さんに会わせてくれることも可能なんじゃないのか……!?
そう、できる……!
だったら。
やるしかないでしょ。
僕は、テイマーになって、全種類のモンスターをテイムする。
それは、不可能かもしれない。
僕には才能がないし、才能があっても、そんなのは夢物語だ。
だけど、やるしかない。
僕はスライムすらテイムできないって言われた、落ちこぼれだ。
だけど、こうしてリルムと友達になれた。
不可能だって、乗り越えられる可能性はゼロじゃない。
だったら、僕はやる!
「僕は……テイマーに、なる…………!」
そして、願いを叶え、お母さんを蘇らせるんだ。
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