第10話 憧れの人


「俺のこと知ってるのか?」


 僕を助けてくれたラインハルトさんは、そう言う。

 ラインハルトさんのことは、友達のレティが教えてくれた。


「その、友達にきいたことがあるんです。王都で最強のテイマーがいるって」

「そうか。まあ、最強なんて言われてはいるけど、みての通り、ただのオッサンだ」


 ラインハルトさんはそうやってにこっと、人懐っこい笑顔を見せる。

 あれだけの強さを持ちながら、謙虚な人だ。


「ほんとうに、助けてくれてありがとうございました。あなたは命の恩人です」

「まあ、お前さんが無事でなによりだ。じゃあ無事に魔族も倒したことだし、さっさと帰ろう。おっと、その前に、お前さん、怪我をしているようだな」


 魔族にムチで打たれ、僕は多数の打撲と骨折を受けていた。

 正直、立ち上がるのもやっとなくらいだ。

 するとラインハルトさんは、グレートレオに命令をした。


「レオン、この子の傷を治してやってくれ」

「ガルル」


 するとレオンは僕に近づいてきて、僕の傷口をペロっと舐めた。

 その瞬間、僕の身体が緑色の柔らかい光に包まれる。

 アイガ先生にヒールしてもらったときと同じ光だ。

 これは……回復魔法……?

 光が治まると、まるで嘘のように、僕の怪我はすべて回復していた。

 どこも痛みを感じない。


「すごい……! すさまじい威力の回復魔法ですね……」


 回復魔法といっても、その威力はさまざまだ。

 こんなふうに全身の怪我を一瞬で治してしまうだなんて……。

 レオンの使った回復魔法は、そうとうの魔力量と熟練度だ。

 レオンはあれだけの戦闘能力を持ちながら、こんな強力な回復魔法まで覚えているだなんて……。

 いったいS級テイマーってのはどれだけすごいんだ……!?


「今のはエクストラヒール。レオンの得意技だ」

「すごい……ありがとうございます」


 命を助けてもらった上に、怪我まで治してもらった。

 おっと、僕の怪我は無事に治ったけど、まだリルムが弱ったままだ。

 僕を守るためにリルムは瀕死の怪我を負った。

 リルムのことも、回復してあげたい。

 僕はリルムを抱きかかえて、ラインハルトさんのもとへ差し出した。


「あの……お願いします。この子のことも助けてやってください……」

「スライムか……。これは君がテイムしているのか?」

「はい。リルムっていいます。僕を守って怪我をしたんです」

「そうか。よし、レオン。治してやれ」


 するとレオンはリルムのことをペロっと舐めた。

 リルムも僕と同じように、すっかり回復する。


「ぴきゅい!」

「よかった……。ありがとうございます」


 お礼を言う僕に、ラインハルトさんは微笑みを浮かべる。


「君は……優しいんだな」

「え……?」

「そのスライムを大事にしているんだろう? テイマーの中には、スライムごとき回復するほうがもったいないと、雑魚モンスターは怪我をしても見殺しにするやつもいる。だけど、君は違う」


 そんな人もいるなんて……。

 それは酷いと思った。

 そんなのまるで、モンスターを駒や道具にしか思ってないような。

 当たり前だけど、僕は絶対にそんなことしない。


「当然です。リルムは僕にできた初めての友達ですから」

「ふふ、モンスターと友達か……。面白いことを言うな」

「……おかしい、ですか?」

「いや。昔君と同じことを言っていたやつがいたな、と思ってな。別に、俺は否定しないさ。多くのテイマーは、笑うだろうがな。君もそのスライムに好かれているようだしな」


 ラインハルトさんはリルムを指さした。

 リルムは言葉の意味がわかっているのだろうか、僕にすりすり身体をすりつけて、大好きアピールしている。


「きゅいきゅい~♡」


 ほんと、リルムは可愛いな。

 僕もリルムのこと、大好きだ。


「いいテイマーはモンスターに好かれる。その絆、大事にしろよ」

「はい……!」


 ラインハルトさんは、めちゃくちゃいい人だと思った。

 アイガ先生やお父さまは、モンスターと心を通わせるなんてできないって言っていた。

 だけど、ラインハルトさんはレオンと心を通わせあっているように見える。

 それに、僕がモンスターと友達だっていっても、笑わない。


「ラインハルトさんは、モンスターと心を通わせることは可能だと思いますか?」

「……さてな。それはどうだろうな。俺にはなんとも言えない」

「え……?」

「俺は少なくとも、レオンの気持ちをわかってやっているつもりだ。こいつも、俺の気持ちは汲んでくれている。だけど、だからといって気持ちが通じ合ってるとは言えないだろ? こいつはただテイムされているから、俺に従っているのかもしれないし」

「けど……」

 

「人間同士も同じさ。心が通じ合ってると思っていても、すれ違いは起こる。そんなのはただの勘違いかもしれないんだ。だから大切なのは、実際に通じ合ってるかどうかよりも、行動なんじゃないのかな」

「行動……ですか」

「レオンは俺のために命を懸けて戦ってくれる。だから、俺もそれに見合うだけの主であろうとする。乗り越えた戦いの数だけが絆なんだ。行動で示すってのは、そういうことかな」

「なるほど……なんだかわかったような気がします」

「はは、まあ子供には難しい話だったかな」

 

「あの……僕、ラインハルトさんみたいな強いてテイマーになりたいんです! なれますか……?」

「さあな。それはわからない」

「え…………」

「だけど、俺は君のような優しい子にこそ、テイマーになってほしいと思う。だから、少なくとも、向いてるとは思うぜ。まあ、そのために今から頑張ることだな」

「はい! ありがとうございます」


 レティから最初にきいたときも、僕はラインハルトさんに憧れを抱いた。

 だけど、今はその気持ちがさらに高ぶっている。

 僕は、ラインハルトさんのような強くて優しいテイマーになろうと思った。


 その前に、まずはこの森を抜けて、お母さんのためにミネージュ草を届けるんだ……!

 

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