第9話 伝説のテイマー
突然、魔族の触手が切り落とされ、地面に落ちた。
いったい、なにが起こったのだろうか。
魔族の触手からは緑色の血液が噴き出し、痛そうに悲鳴を上げている。
「ギァアアアアアア!!!? わ、私の触手がッ……!?? な、何ごとです!?」
そして、僕らの目の前に現れたのは、大きな獣モンスターだった。
よく見ると、ライオンに似ている。
僕は、その姿に見覚えがあった。
モンスター図鑑にのっていた「グレートレオ」という種類のモンスターだ。
「グレート……レオ……?」
このモンスターが助けてくれたっていうのか……!?
だけど、いったいなんで……!?
するとその直後、僕の後ろから人間の声がした。
「どうやら、間一髪、間に合ったようだな」
振り向くと、そこにはまるでライオンのたてがみのような金髪をたくわえた青年が立っていた。
青年はグレートレオに近づくと、そのたてがみをまるで猫のように撫でた。
「よくやった。レオン」
「くぅ~ん」
グレートレオのほうも、まるで子猫のように鳴く。
っていうことは、この人はテイマー……!?
触手を切り落とされ、悶絶していた魔族が青年のほうをにらみつける。
「な、なんなのです、あなたは……!? いきなりやってきて私の楽しみを邪魔するなんて……!」
「楽しみだぁ? 子供とスライムをいじめるのが楽しみとは、魔族ってのは話にきいていたよりも、ずいぶんちんけな連中なんだな」
「ま、魔族を愚弄するとは……! あなた、ゆ、ゆるせません……!」
「許せないってのは、こっちのセリフだ。子供に手を出すやつは、俺が許さねえぜ」
すると、青年はポケットから、骨のついた肉を取り出した。
そしてそれを空中に放り投げる。
――ガブリ。
グレートレオは肉を空中でキャッチすると、それをむしゃむしゃとほおばった。
「ガルルルル……!!!!」
肉を丸のみして、パワーを得たのか、グレートレオはさっきまでよりひときわ大きく見えた。
「よし、レオン。やっちまいな」
「ガルルルル……!!!!」
グレートレオが魔族に牙を剥いて激しく威嚇する。
しかし魔族は余裕の表情だ。
「ふん……さっきは油断しましたが……。もう二度は喰らいませんよ。グレートレオ、たしかに強力な幻獣種のモンスターです。ですが、しょせんは卑しい獣。高貴なる魔族である私にはかないませ――」
魔族の言葉は、途中で遮られた。
魔族が喋っている途中で、グレートレオが一瞬にしてとびかかった。
そしてグレートレオの牙は、魔族の右半身をそのまま食いちぎったのだ。
――ガブリ。
「ギァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?!?!?!?!?」
魔族は体の半分を、グレートレオの一口で
僕も一瞬、なにが起こったのかわからなかった。
ありえないことが、目の前で起こっていた。
それは、圧倒的な力の差。
あれだけ強く思えた魔族が、今や蛇に睨まれた蛙だった。
「わ、私の腕がああああああ……!!!!?」
しかし魔族は尋常ならざる生命力を持っているようで、その半身をもがれても、息をしているようだった。
「お、おかしい……! どういうことなのです! 魔族である私が、こんな獣に負けるなど、あり得ない……!!!!」
「おいおい、俺のレオンをそんじょそこいらの獣と一緒にしてもらっちゃあ困るぜ? こいつはなぁ。俺のテイムしているモンスターの中でも最強。なんせ、百獣の王だからなぁ」
「獣風情がああああああ!!!! 死になさい……!!!!」
すると、魔族はのこった左腕を大きく空へと掲げた。
そして、手のひらの中に魔力を集中させ、魔法でできた球体をつくり上げる。
禍々しく蠢くそれは、すさまじいパワーを持った魔法球と化した。
「もう遊びはおしまいです。そこにいる少年もろとも、皆殺しです。死になさい。第4階位闇魔法――ダークネスアブソーブ!!!!」
やばい、あれを喰らったら、さすがのグレートレオでもひとたまりもないんじゃないか……!?
だが、僕の心配は杞憂だった。
テイマーの青年は、魔族の繰り出す魔法になど見向きもせずに、冷たい口調で言い放った。
「レオン。とどめだ。喰らえ――――」
「ガルルルル……!!!!」
次の瞬間、グレートレオはさっきまでとは比べ物にならないほど、巨大化し、その大きな口で、魔族を魔法球ごと丸のみにした。
「グオオオオオ!!!!」
――ガブリ。
そしてグレートレオは一瞬で元の大きさに戻る。
な、なんだったんだ今のは……。
僕はすっかりあっけにとられてしまった。
あれだけ強かった魔族が、ほとんどなすすべなく瞬殺なんて……。
いや、そもそもおかしい。
魔族といえば、A級冒険者でさえ、束になってもやられてしまうほどの強敵だ。
魔族が出現すれば、それは国家レベルでの対処が必要になる。
ふつうのテイマーが倒せるような相手ではないのだ。
それこそ、魔族を一対一で倒せるのなんて、S級冒険者くらいなものだけど……。
まさか……。
驚いて腰を抜かす僕に、青年が手を伸ばす。
「よう、少年。無事だったか?」
「あ、あの……助けてくださって、ありがとうございます。あ、あなたは……」
「ん? そうか。自己紹介がまだだったな。俺は――――」
僕はその手をとり、立ち上がる。
青年は名を名乗った。
「――――俺は、王都中央冒険者ギルド所属。S級テイマーのラインハルト・ローゼンブルームだ」
その名前に、僕はなんとなく聞き覚えがあった。
「ラインハルト…………あ…………!」
「なんだ? 俺のこと知ってるのか?」
ラインハルトといえば、そうだ。
レティが僕に教えてくれた、王都で最強だというテイマーの名前。
王都最強のテイマー、ラインハルト。
じゃあ、この人が……史上最強のテイマー、その人だっていうのか……!?
僕の中で、熱く滾るものがあった。
憧れの最強テイマーが、今目の前にいる――!
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