第7話 ミネージュ草
僕はテイムしたスライムにリルムと名を付けた。
さっきまでひとりぼっちで、怪我もして、打ちひしがれそうだったけど、仲間ができて、なんだか元気が湧いてきた。
リルムが一緒にいれば、なんとかミネージュ草を手に入れられそうな気がする。
休憩し、気を取り直して、僕は再び歩き始めた。
だけど、やっぱり道に迷ったままなのは変わらない。
さっきから森の同じところをずっとぐるぐるしているような気がする。
「はぁ……どうしよっか……このままじゃ時間が過ぎていくだけだ……」
家を出る前の母さんの様子からして、タイムリミットまではそう長くはなさそうだぞ。
僕が立ち止まってキョロキョロしていると……。
かばんの中からちょこっと顔を出しているリルムが、僕の方を見て鳴いた。
「きゅ~?」
「え……? 『どうしたの』って……?」
僕はなぜだか、リルムの言っていることがわかるような気がした。
なんでだろう、テイムしているからかな。
アイガ先生は、モンスターと心が通うことなんてないっていっていたけど、たしかに僕はリルムの気持ちがわかる。
もしかしたら、リルムだけは特別なのかもしれない。
それか、僕の気のせいか。
「それが……実は僕、迷子なんだよね」
「きゅい~?」
「うん、そう。お母さんのために、ミネージュ草って薬草が必要なんだけどね」
「きゅいー!!!!」
「え……? 知ってるの……?」
「きゅいきゅいーーーー!!!!」
するとリルムは、かばん中から勢いよく飛び出した。
そして森のある方向へと、僕を導くようにして駆けていく。
出会ったときはあんなにノロノロだったのに、いまやリルムは超元気だ。
とにかく、リルムが元気になってよかったよ。
「こっちなの……?」
「きゅいー!」
とにかく、今はリルムを信じて行ってみるしかない。
他に手がかりはないんだから。
僕はリルムに案内されるまま、森の中をひたすら進んだ。
数時間歩くと、さすがにへとへとになってきた。
泉できれいにしたとはいえ、怪我をした足がまだ痛む。
疲れも溜まってきて、僕自身限界だった。
「はぁ……はぁ……どこまで歩けばいいんだ……」
「きゅいきゅいー!」
「え……? もうちょっとだって……?」
リルムに励まされて、僕は残りの力を振り絞って、歩みを進めた。
すると、ついにその場所へとたどり着いた。
森の中に、木のない部分があって、そこを進むと、切り立った崖に出た。
「ここが……目的の場所だ……!」
すごい高さだ……。
崖の下を見下ろすと、足がすくむ。
こんなところから落ちたらひとたまりもないな……。
「きゅいきゅい……!」
「この下に、ミネージュ草があるんだな……」
僕は崖から落ちないように気を付けて、その下を覗き込んだ。
すると、たしかにそれらしい草が生えているのが見えた。
「これか……! だけど、どうやってとろうか……」
「きゅいぃ……」
「そうだ……! なにかロープ代わりになるものが……。あった……!」
僕は森の中で見つけた丈夫そうなツタをもってきた。
異世界のツタだから、なんていう種類の植物なのかはよくわからないけど……とにかく丈夫そうだ。
これを命綱にしよう。
僕はツタを近くの木に括り付け、もう一方を自分に括り付けた。
リルムを肩の上にのせ、僕は崖の下へといざ進む。
命綱をつたって、慎重に崖の下へと降りる。
そしてついに、ミネージュ草をこの手に手に入れた。
「やった……! ミネージュ草! これで、お母さんはなんとかなるかもしれない!」
そのときだった。
――ミシミシ。
――ブチン!
ツタが僕の体重に耐え切れず、ちぎれてしまう。
「そんな……!」
僕は崖の上から、地面へと真っ逆さまに落ちる。
「うわあああああああ!!!!」
やばい、死ぬ……!
地面にぶつかる直前、肩の上に載っていたリルムが、急に僕の身体を下につたっていった。
「きゅいいいいいい!!!!」
リルムは僕の下になると、空気を大きく吸い込んで、風船みたいに膨らんだ。
そして、地面に激突する寸前で、僕のことをクッションのように包み込む。
――ぱふん。
リルムが下敷きになって、僕はみごとに怪我なく着地した。
「すごい……! リルムにこんなことができたなんて!」
しかし、リルムはそれなりの衝撃を受けたようで――しゅるるるとしぼんでしまった。
「きゅぴぃ……」
「リルム……! 大丈夫なの……!?」
僕は倒れたリルムに駆け寄った。
リルムはすぐに起き上がると、なんでもないという風にふるまった。
「きゅいきゅい!」
「っほ……大丈夫そうならよかった……」
どうやらスライムはちょっとやそっと高いところから落ちても平気なようだ。
出会ったときはあんなに弱って死にそうだったリルムだけど、すっかり元気みたいだ。
僕がテイムしたせいなのだろうか……?
それとも、これがリルム本来の実力なのかな……?
どちらにせよ、今回はリルムに助けられたね。
「ありがとう、リルム。君のおかげで助かったよ。君は命の恩人だ!」
「きゅいきゅい!」
リルムは胸をはって、ほこらしそうな顔をする。
「それに、目的のミネージュ草も手に入ったしね! これも、リルムのおかげだね。ありがとうね」
「きゅい~♪」
本当にミネージュ草が手に入るなんて……。
やっぱり、あの本に書いてあることはおとぎ話なんかじゃなかったんだ。
でも、まだ安心はできない。
これを無事に持って帰らないといけないし、そもそもこれが本当にミネージュ草なのか、本当に病気を治す効果があるのか、それはまだ使ってみないとわからない。
今はただ、無事に解決することを祈るだけだ。
「さて、じゃあ目的のものも手にはいったことだし、帰ろうか」
「きゅい~」
「え? 森の出口まで案内してくれるの? それは話がはやい」
やっぱりリルムはめちゃくちゃ優秀だな。
さすがは僕の最初の友達だね。
リルムと出会って、リルムが助かって、ほんとうによかった。
あとはお母さんさえ助けられれば、なにもいうことはない。
僕はリルムに導かれて、帰りの道についた。
……そのときだった。
――ゾゾゾゾ。
「…………!?」
なにか、ものすごく嫌な感じがする。
これは、殺気……?
とにかく、気持ちの悪い雰囲気が伝わってくる。
そしてだんだん、近づいてくる……!?
「リルム……! 伏せて……!」
僕は言うと同時に、伏せた。
――ズドーン!!!!
僕の頭上を、強大な衝撃波が襲う。
そして、それは突然現れた。
「おやおや……あまりにも微量な魔力のせいで、気づきませんでしたよ……。思わず踏みつぶすところでした。まさかこんなところに、子供とスライムとは……。クックック……おもしろい」
人語を話し、翼をと角を持ち、膨大な殺気と魔力をまとうそれは――。
「ま、魔族…………!?」
「そのとおりです。人間」
魔族はにやりと微笑んだ。
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