第6話 きみの知らない物語
「私はそうね…あなたの幼馴染かしら」
「そりゃそうだけどさ」
いたずらっぽく笑う彼女に思わず苦笑いを浮かべる。
「でもあなが聞きたいのはそこじゃないわよね」
缶ビールをグイっと煽ると床へ目を向ける。
「…事実だけを言うね、私は…琴音は1度死んでるの」
「だけど訳があって今も形を変えて生きている、それが私」
「どうゆう意味だよ」
「そのままの意味、琴音は死んでいるし生きてもいる」
「哲学的な話は辞めてくれ」
「哲学的な話はしてない、そのままの意味よ」
いきなり死んだなんて言われても訳が分からない。
少なくとも僕の記憶の中では彼女は一度も死んでいない。
「もっと分かりやすい説明をしてくれないか?」
「私は物語は人に正しく伝わらないし誤解されるものだと思ってる」
「いいからどうゆう事か教えてくれ」
心の中のモヤモヤが形となり言葉が強くなる。
「ごめんね、でも聞いて欲しい」
右肩に暖かく、柔らかい感覚がする。
不意を突かれ頭が一瞬真っ白になる。
肩を見るとソファーの隣に座っている琴音が肩に寄りかかっていた。
「この世界の残酷さと美しさを伝えたい作品が、争いはよくない物だと解釈されることもあるし、よくある恋愛映画だと解釈される事もある」
「私は私にとって最もよい決断をして来たと思うし、どうすればあなたが幸せになれるか考えたつもり」
彼女は寂しそうに話を続ける。
「それは私の視点の話で他の人にとってはどうかは分からない、だからこの説明はあなたがみんなと関わって、みんなの物語を知って最後に私の物語を知ってほしい」
手に持っていた缶ビールをまた強く煽る、沢山入っていたはずのビールを飲み干す。
「文化サークルにいる人達は一人一冊物語を持ってるの」
そう言うとキラキラと光る一冊の文庫本をどこかららか手の出して僕に見せる。
「これは私の物語、文化サークルのみんなも自分の物語を持っているから、それを全部読んで誰かと付き合って文化祭を回れたらゲームクリア。あなたは生きれるし琴音の物語を知ることができる」
そう言うと本を上に投げて握り、本を消してしまった。
「何か質問は」
「僕と琴音と付き合うルートはないのか?」
正直に言えば僕は琴音以上に好きな人なんていないし、誰かと付き合いたいとも思わない。
彼女が明日死ぬのであれば僕の命も明日まででいいと思うし、それより先の未来は見たくない。
「優柔不断で、格好つけで、誰にでもいい顔して、泥臭い人なんて好みじゃないの」
「そっか」
聞きたいことはいっぱいあったし、納得出来ないことも沢山ある。
ただ今は微かに震えた声と、僕の濡れた服だけで十分だ。
昔みたいにそっと彼女の頭をなでる。
彼女は僕の為に、頑張ってくれている今はそれだけでいい。
どうかこの時間が永遠であって欲しい、その為であれば僕はなんだってしよう。
手の平から伝わってくる温もりが確かに彼女は生きているのだと実感させてくれる。
どうか彼女にこれからも幸せな生活が訪れますように。
ただ静かで優しい時間の中に身をゆだねた。
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