交差する想いの果てに

龍神雲

第1話 交差する想いの果てに

 話さないで、離さないで、放さないでと言われるも、現実は空虚で残酷だ。あの甘やかな時間は何だったのか――? それ程までに城塞から見下ろす彼の視線は冷たく鋭い。

 以前と違い、暖かくも優しくもない。彼に愛されていた期間がまるで幻想だったように、私を滅ぼす為の標準と殺意を向けていた。

「もう愛してくれないのね、残念」

 重い感情は握った愛剣のにのせ、次にはすらりと引き抜いた。光る白刃は彼の喉元を貫き、斬る為だ。

 サヨナラは言わない、言うならば"ありがとう"だろうか。芽生えた感謝の気持ちを向け、彼がいる城塞の天辺を目指す。


     †


 重投射兵器を城塞の上で構えるエリオット。城塞の下では兵士達が殺気立ち私に斬り掛かってきたが、剣一本で斬り伏せて走破した。

「レニエ、それ以上近づくな!」

 愛しかったエリオットの声と砲弾が木霊した。まだ情念があるのか、哀愁さえ感じた。だが私にとってエリオットは恋人でも親しい愛柄でもなく、ただの敵だ。敵の一人に降格したエリオットに最期の謝礼を剣で貫き渡すのだ。

 築いた関係性も時分も全て、今日で終わらせる為に。


     †


 エリオットは照準や殺意を向けるも、本気で狙いはせず全て外した。躊躇いは僅かな情念なのか、それとも彼の美徳なのか、こうして対峙しても窺い知れない。

「最期の仕上げよ」

 私はエリオットを、エリオットは私を、この関係性を絶つことで勝敗と一国の命運が決まる。

 一国の王女と一国の王子、どちらか一方が途絶えれば事なきを得る契約の戦争だ。ただエリオットの一目惚れが原因で無駄な時間を費やしていた。

 私が一歩を踏み出せば、エリオットは重投射兵器から離れその場に座った。

「来世は君と幸せな世界で築きたい」

 今後を譲った彼の最期は優しく、赤黒い涙と共に散った――


     †


「馬鹿なエリオット」

 全ては計画の内なのに自死を選び、命を手放した。

「私なら放さないわ……」

 彼の愛は苦い記憶として刻まれ、何度も回顧することになった。


 了

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