2章
五月にもなれば大分、学校にも部にも慣れた。最初は一音への興味だけで入部したのだが、やってるうちに部員としての意識も生まれてくる。元々堤井は真面目な性質だ。この頃になると、なんだかんだで真剣に部活動に取り組むようになっていた。
「堤井くんは、音程は言うことないかな。後はもう少し声大きくできる?」
「は、はい」
石爪の柔らかい指摘に背筋を伸ばす。この部は基本的に彼が部長として指揮していた。というのも音楽教師は吹奏楽部につきっきりで、代わりとして入った数学教師は音楽の素養などひとつもないからだ。その上で顧問を引き受けてもらえたのは彼の人望とも言えるだろう。
石爪は部長らしく、人に指導するのが上手かった。しっかりリーダーとしての役割を果たしつつも無駄な威圧感がない。今まで部活動をしてこなかったからどうしても先輩という存在に身構えてしまうが、それでも彼が理想的な先輩だということは十分に伝わる。まして、一音があんな感じであるから尚更だ。
そんな彼も今日は珍しく部活に来ている。石爪と堤井のやり取りを見て彼は笑い声を上げた。
「あはは! 堤井ぃ、もっと声出せってさ」
嫌味ったらしい彼の微笑が譜面台の裏から覗く。むかつくが返す言葉もない。
この合唱部はとにかく人が少ないのだ。だから一人一人の声の大きさがそのまま合唱のクオリティに関わる。そんな中で声が小さいというのは致命的だった。分かってはいるが、歌いながら大きな声を出すことは思っていたより難しい。
何も言えずうなだれていると、それを見かねた正見が彼に異を唱えた。
「あのね。堤井くんが練習遅れてるのは、新川くんの代わりにピアノやってくれてたからなのよ」
「そうだぞ一音。最近、前にも増して練習来なくなってないか?」
呆れる彼女に便乗して、石爪も彼に詰め寄った。一音は少し悩むような素振りを見せたかと思うと、ふいにこちらを向いた。
「堤井がいるからね」
「ちょっと、どういう意味ですか」
今更堤井が嫌いだから避けているとでも言うつもりだろうか。あれからそこまで数は多くないものの、一音のピアノ指導を何度か受けてきた。彼のことだから嫌なら嫌だと正直に言うと思っていたのだが、そんなこともなかったのかもしれない。だとしたら結構落ち込む。
そんな堤井を見て、彼は面倒くさそうに頭をかいた。
「違うって。頼れるって意味」
そう言う声はちっとも本気じゃなさそうで腹が立つ。でもこちらを窺う表情は本気で困っているように見えて、年上っぽさの垣間見えるそれに絆されてしまう。我ながらチョロいと思うが、一音にこんな顔をされても水に流さないというのは無理な話だった。
「お前ピアノ伴奏やりたいのかやりたくないのかどっちなんだよ」
「やりたいけど〜、堤井は俺の弟子だもん。弟子に経験積ませてやるのも師匠の仕事かなと思ってさ」
理解に苦しむ石爪に、彼は思ってもいなさそうな言葉を並べた。そこにすかさず正見が口を挟む。
「私としては堤井くんにもそろそろ、歌の練習に集中してもらいたいんだけどね。結局大会で伴奏するのは新川くんでしょ?」
「ん〜、わかったよ。できるだけ来るようにする」
拍子抜けするほど軽くあしらわれ、本当にわかっているのかと問いたくなる。
そもそも彼はなぜ合唱部に入ったのだろう?以前石爪が「俺が無理に誘ったようなもん」だと言っていた気がするが、彼がしたくないことをやるような人間だとはやっぱり思えない。一音自身がやりたいと思っていなければ彼はこの合唱部にいないだろう。けれどそれならもっとやる気があっても良いはずだ。
こんなことを考えてしまうのは、一音のオルガンを聴いたせいだった。彼のピアノだって好きだ。しかし他にやるべきことがあるんじゃないかという思いがどうしても頭をよぎる。ピアノについては天才じゃないと言った彼の言葉は本当だった。素晴らしいピアノの腕なのは確実だが、あれが彼にしかできないことだとまでは思わない。対してあのオルガン演奏は正真正銘、新川一音にのみ与えられた才だ。彼の戦場はここじゃない。それなのにどうして彼がここにいるのか、一音を知った今だからこそわからなかった。
金曜日の放課後。田中が委員会の集まりに呼ばれたとかで、堤井は一人で部室に向かっていた。今日はテスト前にある最後の部活だ。これから二週間近くは部活が休みで、その間歌うことはない。
そう思うと少し不安だった。ピアノだったら一日触らないだけでも腕が鈍る。合唱もそうだろうか?発声練習ぐらいなら一人でもできるけれど、合唱そのものは部活じゃなきゃできない。ままならないなと思う。ずっと一人でピアノをやってきた堤井にとって、一人でできない合唱は不自由極まりなかった。それでも始めたからにはちゃんとしたい。そうでないとただの時間の無駄になってしまう。ピアノの練習時間を割いてまで合唱をやっているのだ。一音にピアノを教えてもらうこと以外の合唱部に入った理由を見出したかった。
部室のドアを開けると、待っていたのは石爪だけだった。壁の向こうからは女声の歌が聞こえるため、彼女たちは奥の部屋でパート練習をしているのだろう。ひとまず石爪にあいさつする。振り向いた彼はパッと顔を明るくして応えた。
「今日人少ないですね。樹原先輩は?」
「樹原も委員会だよ。多分田中くんと一緒」
「そうですか。一音先輩は、安定に来ませんしね」
「今週はよく来てたのにな。あいつ絶対一週間のうち一日は休むんだから」
困ったように肩を竦める彼は、一音のことを一体どう思っているのだろう。そもそも彼の来歴を知っているのか、なぜ一音を合唱部に誘ったのか。幸か不幸か、この場には堤井と石爪だけだ。聞くなら今しかない。堤井はそれとなく彼に尋ねてみることにした。
「あの、一音先輩ってなんでこの部に入ったんですか? あんまりやる気があるようには見えないんですが」
「あー……。あいつオルガン弾けるだろ。だからピアノも弾けるんじゃないかって、俺がスカウトしたんだよ」
逡巡の後、彼はそう言った。特に変哲もない予想出来た答えだ。しかしいつも朗らかな彼の表情が一瞬曇ったことを堤井は見逃さなかった。どことなく嫌な予感がする。堤井は更に質問を重ねた。
「へぇ。じゃあ来ない日はオルガンやってるんでしょうか」
その問いに石爪は迷いながらもはっきりとした、よく通る声で告げた。
「いや。あいつはもうオルガン弾かないよ」
「え?」
驚き発したその声が石爪に届いたかすら分からない。耳を疑う隙もなかった。歌を歌うことに慣れた石爪の声は宣告のように明瞭に響く。
「俺が合唱部に誘った時にはもう辞めてた。というか、辞めようとしてたのかな」
続けて彼の言葉が紡ぐ一音の実態に、唖然としてしまう。彼がオルガンを辞めたという事実はそれほどに重かった。失望、という二文字が脳内を過ぎる。
けれどそう簡単にこれまで描いてきた至上の新川一音の像は消えない。きっと何か理由があるのだ。辞めるに至るやむを得ない事情が。そうでなければ自分は一音を許せない。一音のオルガンを奪うのは罪だ。それが彼自身のしたことであれ、許してなるものか。だから必死な気持ちで理由を求めた。彼を罪人にしたくはないから。失望してもなお、堤井は彼に期待していた。
「なんで、辞めたんですか」
完全に尋ねるべき人間を間違えている。そんなこと聞かれても石爪だって困るだろう。分かっているのに聞かずにはいられなかった。
「俺もそこまでは。中学の時にオルガン留学してたとは聞いた。そこでなんかあったんじゃないかと思ってるけど、ただの憶測だよ」
石爪も知らない、一音がオルガンを辞めた理由。ありがちな天才の挫折というやつなのだろうか。再起不能なぐらいに壊れてしまっているのであれば諦めがつく。彼は病んだ姿ですらきっと美しい。感傷的でドラマチックな想像は〝天才〟新川一音の幕引きによく似合う。
それじゃあ今の一音は一体なんなんだ?結局はそこだった。どんな気持ちで彼はオルガンに似た、しかし全くの別物であるピアノを弾いているのだろう。ピアノが弾けてオルガンが弾けない理由など存在するのか?
「まぁあんな感じでも、完全にやる気ないわけじゃないんだよ。あいつのことだ。やる気ないならとっくに辞めてる」
明るくそう言った石爪の気遣わしげな態度に申し訳なくなる。やる気がなくなったら辞める。石爪はオルガンのことを言っているわけじゃないのに、やけにしっくりきてしまう。
大層な理由なんてないのかもしれない。だったらどうしよう。堤井は未だに、ない「理由」に囚われている。
耳に流れてくるのはあの日聴いたのと同じ曲。初めて聴いた新川一音のオルガンの音だ。部活終わりの誰もいない音楽室の中、彼の《パッサカリアとフーガ》をイヤホンから流しながら、堤井は課題に取り組んでいた。
中間テストも終わり、今日は久しぶりの部活だった。やっと部活とピアノだけに集中できる。そう思っていた矢先に出された課題だ。テスト直しとかいう一番やる気が出ないそれを、わざわざ家に持ち帰ってまでやりたくない。そのために普段はピアノ練習のために使わせてもらっているこの部活後の第二音楽室を、私的な自習室として利用しているのだった。
梅雨にしては珍しく空が晴れていて、この時間でもまだ明るい夕日が窓から差し込んでいる。課題はちょっといただけないがロケーションは悪くない。穏やかな気持ちで堤井はシャーペンを握る手を動かした。
どれだけ時間がたっただろう、気付けばもうすぐ完全下校時刻になろうとしていた。窓から見えるグラウンドでは、いつも最後まで部活をやっている野球部が片付けを始めている。
堤井もそろそろ帰ろうと課題用紙を鞄にしまおうとした、その時だ。目の前の机に自分のものでない影が落ちていることに初めて気付いた。
「部室の私物化はいかがなものかな、堤井」
「一音先輩!?」
慌ててイヤホンを耳から外す。見上げた先にあったのは約二週間振りに拝む一音の顔だった。見ると少し前髪が伸びているのがわかる。当たり前だけれどこの人も生きてるんだな、と奇妙な実感が湧いた。
「よっぽど集中してたみたいだね。何聴いてたの」
「あっ、ちょっと待ってください!」
止める声も聞かず、彼は堤井の外したイヤホンをひょいとつまみ上げ耳にあてる。まずい。血の気が引き、冷や汗が背中を伝う。彼の顔をまともに見ることができない。
今まで一音とオルガンについて話したことはなかった。ピアノを教えてくれたらそれでいい、過去にやっていたオルガンなんかには興味無い、というふりをしていたのに。実はコソコソこうやって聴いていたなんて、まるでストーカーみたいだ。お願いだからバレないでくれ。
そんな祈りも虚しく、彼はあっさりと解答を見つけてしまう。
「ん〜?オルガンじゃん。てかこれおれの音だね」
「……すみません」
最悪だ。絶対からかわれる。いや、からかわれるぐらいならまだいい。彼は理由がどうあれオルガンを辞めているのだ。それを掘り起こされるのってどうだろう。傷付いたりされたらもう本当に耐えられない。
「なにが?おれもおれの音が好きだよ」
しかし彼はあっけらかんとそう言った。身構えていたのが馬鹿らしいほどで、力が一気に抜けていく。その顔に嘘はなさそうだった。彼にとってオルガンが忌むべき記憶でないことにひとまず安堵する。
「それはなんか……。いや、そうですか……」
「うん、おれの音は常に最高だから。好きにならない方が無理だろ。苦しゅうないね」
いつも通りの自信過剰さで彼は笑う。だがどこか他人事のようなその言い方は、今ここにいる一音とオルガニストだった新川一音との明確な区分とも取れるものだった。
彼の中でオルガンは完全に終わってしまっているんだろうか?一音には才能があり、彼もそれを自覚している。そして何より彼は彼自身の演奏が好きなのだ。だったら辞める理由がどこにある?
やる気がないから辞めたわけじゃないなら、他にどうしようもない理由があったと考えるのが妥当だ。ぱっと思いつくのは身体上の問題だが、ピアノは弾けるのだからそれは考えづらい。彼は手も足も耳も目も健常で五体満足だ。そこまで考えて、これは思っていたよりも複雑で根深い問題なのだとようやく痛感する。
「あなたは、オルガンを辞めたんですよね。なんでですか?」
堤井は慎重に尋ねた。どうかこの質問が彼の重荷になったりしませんように。そう願ってはいても、彼を責める気持ちが透けていそうで嫌だった。
「う〜ん。みんなおれを観たがるけど、おれに見られたいやつなんかいないんだよ。だからかな」
少し考えてから彼が口した理由はかなり漠然としたものだった。訝しげな堤井の様子を見て、彼は悩みながらも言葉を重ねた。
「暴風警報が出たらみんな喜ぶよね。でもそれを口に出すのは不謹慎でしょ?そういう感じ」
なんとなく分かる気がするけれど、それと一音がオルガンを辞めた理由との関係性が上手く掴めない。はぐらかしているというわけでもないんだろう。堤井はそうですか、とだけ言って、その答えを見つけるのは保留にすることにした。
「ところでなんでここに来たんですか? もう部活とっくに終わってるし、今日はもう来ないもんだと」
さっきのものと比べるとたわいも無い疑問だ。だがずっと気になっていたことではある。なんでこんな時間に彼はわざわざ音楽室に足を運んだのか。彼がそんなことしなければ堤井が一音のオルガンを聴いていたことなどバレずに済んだのに。
「さっきまで向かいの教室で補習受けさせられてたんだよ。そしたらここに堤井がいるのが見えたから」
そう言って向かいに立つ普通教室の棟を指さした。確かにあそこからなら音楽室が見える、けれど。
「……それだけですか?」
「それだけだけど?」
何か問題でも?といった風に彼は首を傾げた。
「いえ、なんでもないです。帰りましょうか」
淡々と話を切り上げるも、その内心で堤井はむず痒い思いに襲われていた。大した用事もないのに自分の姿を見つけたというだけで彼はここに来たのだ。それはなんというか、普通の仲のいい先輩後輩同士みたいに思えてしまう。
こんなに憧れを通り越した執着じみた感情を抱いているのにも関わらず、堤井はいつの間にか彼の身内になっていたのだ。その事実がどうにも照れくさくて、同時に恐ろしいほど後ろめたかった。
夏が近付くにつれて、合唱部も本格的に秋のコンクールへと動き出していた。コンクールは九月だから、もうあと三ヶ月を切っている。運動部の大会ほどではないかもしれないが、それでもあっという間だ。
幸浜高校合唱部にとっては初めて参加するコンクール。右も左も分からないまま時間が過ぎてしまった気がするが、着実に練習は進んでいく。堤井たち一年生もとりあえず基礎中の基礎を修め、ようやく合唱としての形ができつつあった。
しかし難しいのはここからだ。何事も八割ぐらいまではとんとん拍子で進む。問題はそこから後の二割である。ピアノだって間違えずに弾けるようになっただけではコンクールで勝てない。間違えないようになってからが本当の本番なのだ。
合唱コンクールでは課題曲と自由曲の二つを歌う。自由曲の曲数に制限はないが、少人数かつ短期間で仕上げるには一曲に徹底して取り組んだ方がいい、というのが部長である石爪の方針だった。
そしてその唯一の自由曲に選ばれたのが混声四部の曲だ。女声のソプラノとアルト、男声のテノールとバスの四部構成。これは初心者が少人数で歌うものとしてはかなり難易度が高い。というのもこの合唱部の人数は十人、伴奏を除けば九人となる。つまり各パート最大でも三人しか居ないわけだ。
これの何が大変かというと、とにかく別パートの音につられやすいということだった。ある程度の人数がいれば周りを同じパートで固めることができるため、多少歌いやすくなる。だがこの人数だとそれができない。加えて、つられないように無駄に大きい声を出したりすると全体のハーモニーが崩れてしまう。合唱に慣れている人なら上手いこと調節できるのだろうが、あいにくこの部の合唱経験者は石爪ただ一人だ。
それでも彼が混声四部合唱を選んだのは、複雑なハーモニーなだけに華やかであるからだろう。少人数でインパクトを残すにはうってつけだ。そしてそれを歌いきるためにはひたすら個人のレベルを高め、全体で細かく調整していくしかない。
堤井は改めて合唱の難しさを思い知らされたような気がした。
「堤井、これはひまわりだよ」
「なんですか急に」
唐突にそんなことを言い出した一音の手にあるものは、ひまわりの花ではなくその種だった。透明のジップロックに十粒ほどが包まれている。
「人に花の名前教えたら、その花を見る度思い出して貰えるって言うじゃん?」
「それ、相手が知らない花じゃなきゃ意味なくないですか。ひまわりなんてあんたに教えてもらうまでもなく知ってるし。あとそのセリフ、何人に言いましたか」
ろくでもない予感がした堤井はそう尋ねた。なんだか調子のいいことを言っているが、騙されるつもりはなかった。
こう見えても一音は友達が多い。この人はその容姿も相まってとにかく目立つ。だから校内でも一際目に入るのだが、見かける度に彼は多くの人に囲まれていた。音楽を抜きにしたって新川一音という人間は魅力的なのである。
「え〜なんでそんな節操なしみたいな……。三、四人ぐらいだよ」
「結構な数じゃないですか」
案の定だ。彼の言葉をいちいち真に受けていたら身が持たない。咎めるような堤井の口調に、彼はむっとして唇を尖らした。そういう仕草が嫌味なくかわいいから全く癪だ。
「じゃあ代わりに堤井もおれに何か教えてくれていいよ」
「それも全員に言ってるんでしょう。誰に何教えてもらったか、あんたちゃんと覚えてます?」
「……忘れちゃった!」
さすがにそれは罪だろ、と堤井は思う。けれど彼の無邪気で尚かつ極悪な笑顔を見ているとその価値観すら揺らぎそうだ。
絶対に許せないことでも、この人にだけなら許してやってもいい。一体どれほどの人間の「この人にだけなら」が、一音に捧げられているんだろう! こいつ甘やかされすぎなんじゃないか。かくいう堤井も、一音を許してしまう数多の人間の一員である。これ以上一音を手放しで許す馬鹿を増やしたくないのに、それでも抗えないのが悔しかった。
さすがにこのままでは置けない。せめてこの麗しき大罪人に一矢報いなければ。彼を許すのはそれからだ。
一音が持つひまわりの種が入った袋を、彼の手からそっと取り上げる。そしてこう言い放った。
「でしょうね。……一音先輩、これはひまわりです」
すると彼は一瞬意表をつかれたような表情を見せた。その顔を見れたことの満足感といったら!
この花を見て一音を思い出す人間は堤井だけじゃない。だったらその仕打ちとして、一音がこの花を見て思い出すのは堤井ひとりにしてやろう。なんていう矮小な魂胆だったが、そんなの最早どうでもいいぐらいに彼の驚く顔はたまらなかった。
堤井は一音にとっての特別になんかなりたくはない。彼ほどの人間が自分ごときを特別に扱うというのが割と興醒めな話だと思っている。しかしこれから何度も過ぎる夏の中の、この花を見る回数のたった一度ぐらいなら。
ひまわりは堤井がこんな呪いをかける前からずっとひまわりだ。だからこの花を見る度に毎回堤井のことを思い出すなんてことは絶対にないだろう。そのぐらい緩い、もしかすると一生発動しないかもしれないささやかな呪いだ。凡人の堤井が天才にかける呪いとしてはこれぐらいが限度だった。これ以上は望んでもいない。
完全に自己満足な堤井の想いをどう受け取ったのか、一音は苦々しく笑った。
「お前って時々よくわかんないことするよね」
「あんたの方がよっぽどでしょう。なんでこんなもの持ってるんですか、悪質だな」
「園芸部の人から貰ったんだよ。おれが通りかかった時に丁度、余った種を処分するとこだったらしくて」
彼にこれを渡した園芸部の人は何を考えていたのだろう。本当にたまたまだったのかもしれないし、堤井と同じようなことを期待して、だったのかもしれない。
どちらにせよ、選ぶのは一音だ。この種が育つことはきっとない。彼が花の世話をするところなんて想像もつかないし、持ち帰る頃にはもう忘れていそうだ。
そしてそれは願望でもあった。彼には、決して誰からも影響など受けてほしくない。堤井からもだ。
彼は堤井にとって自然遺産のようなものだった。周囲の草花の栄養を奪って育った巨大な幹も、捻れて欠けている枝も、そのままに彼の歴史である。そこに人が手を加え、形を変えるなんてことは言語道断だ。だから堤井は彼の人生に一切影響したくない。
だというのにあんな呪いをかけてしまったのは、ただの人間でもある一音への甘えだった。
夏休みの午後の電車は驚くほどにすいていて、常にこうであればいいのにと思う。車内にはこれからどこかへ出かけるのだろう人がぽつぽつと居るのみだ。
堤井は部活に出るため、いつも通り制服を着てその中に座っていた。隣の田中は普段よりずっと遅い時間だというのに眠そうだ。休みだからって夜遅くまで起きてるせいだろう。
休みの日も学校に行くなんて面倒くさいなと思っていたが、かえって良かったかもしれない。家にいたらずっとピアノで、それも悪くはないが気分転換はやっぱり必要だ。とはいえこの暑さでは自主的に外に出る気も起きない。だから強制的に外へ足を運ばせてくれる部活はありがたいものだった。
「女子、ってかソプラノはいいよな〜! 俺のパートなんかお経だよ、お経」
そんな不満をたれる田中のパートはバスで、大抵の曲で一番起伏が少ないパートだった。お経と言いたくなる気持ちは正直わかる。
「主旋律ほとんどないしな」
「そ〜そ〜! でも堤井のとこはまだマシだって。石爪部長がいるから音程迷わないじゃん」
「まぁ、確かにそれはあるな」
堤井は石爪と同じテノールパートで、彼の声を頼りに歌っていればなんとかなった。対して田中のバスは樹原と彼の二人だが、樹原も先輩とはいえ高校から合唱を始めた初心者である。さぞかし難航しているだろうことは普段の練習を見て読み取れた。
「あ〜あ、一音さんがバスに入ってくれたらな! そんなことしたら伴奏がなくなっちゃうけど。いや弾き語りって説もあるな」
名案だ、みたいな顔をしているが全く名案ではない。伴奏者が歌ってる合唱ってあるんだろうか? あったとしても一音は絶対やらないだろうが。
「ないだろ。……あのさ、お前はあの人のピアノどう思う?」
ふいになんとなく気になって尋ねてみる。田中は堤井よりも前から一音のオルガンのファンだ。その彼が今の一音をどう思っているのか知りたくなったのだ。
「どうって、流石だよな! オルガンが上手い人はピアノも上手いんだな〜って思ったよ」
「それは俺もそう思う。けどオルガンとピアノは違うだろ?」
「楽器が違うのはそりゃわかってるよ」
馬鹿にされていると思ったのか、田中は不貞腐れ気味に言った。そんなつもりじゃない、堤井は慌てて言い直す。
「そうじゃなくてさ。田中はあの人のオルガンのファンだったわけじゃん」
彼はしばらく不思議そうにこちらを見ていた。しかし堤井の言いたいことを理解すると、ああ! と声に出して頷いた。
「まぁな。でもピアノも元を辿ればオルガンだし。一音さんは何やっても最高なんだわ」
その瞬間、カーブに差し掛かった電車が大きく揺れた。
田中の理屈は理解できる。だが堤井にはどうしても、彼のようにピアノとオルガンを同一視することはできなかった。田中はこのまま一音がピアノを続ければ、そちらでもオルガンと同等の才能を得ると思っているのかもしれない。そんなことはないと言い切ることはできないが、明らかにピアノの才とオルガンの才とでは別格だった。
一音は何をやっても最高なわけじゃない。――そんなことも分からないんだな。――あまりにも醜い軽蔑の心を抱いたことに堤井は愕然とした。新川一音という才能に出会ってから、自分の汚い感情がどんどん浮き彫りになっていく。
「一音先輩がもう二度とオルガンはやらないとしても、そう言えるか?」
「……なんだよそれ?」
意地の悪い堤井の質問に、彼はあからさまに顔を顰めた。
「もしもの話だよ。本気にすんな」
嘘だ。しかしそれを聞いた田中はほっとした顔で穏やかに言う。
「な〜んだ。ん〜、別にそれならそれでいいんじゃね?新たな可能性って感じで俺は嬉しいよ。一音さんの演奏自体が無くならないならそれで!」
その言葉に嘘があるようには思えなかった。堤井も本気でそう信じられたら幸せだっただろうか。なんてことを考えていると、車内アナウンスが学校の最寄り駅への到着を告げた。
「インベンションを弾いてみろ」
今日で七月も終わり。そんな日に、堤井のピアノを聴いた一音はこう言った。
インベンションとは、バッハが作曲した十五の曲からなる二声の練習曲集である。ポリフォニーの基礎的な力が養えるため、ピアノをやっていれば必ずと言っていいほど通る道だ。堤井も実際に小学生の頃に弾いた。小学生、というところからも分かる通り、インベンションはそこまで難易度の高い曲集ではない。だからなぜ突然それを弾くように言われたのか疑問だった。基礎力をはかりたいという意図なんだろうか。
とにかく堤井は言われるままにインベンションの1番を弾き始めた。
一分半にも満たない短い曲だ。特に大きく躓くことなく弾き終える。随分久しぶりに弾いたが、ギリギリ覚えていて良かった。
けれど一音の表情は演奏前と変わらない。緊張しながら彼の言葉を待っていると、ようやく一音は口を開いた。
「やっぱり、若干偏ってるね」
「偏ってる?」
意味を図りかねて問い返す。続く彼の声はいつになく静かなものだった。
「堤井はさ、感情はひとつで、その大きさの違いが全てだと思ってるだろ。というか無理やり、ひとつに押し込もうとしてるのか?矛盾を認めて成立させなきゃポリフォニーは弾けないよ」
矛盾を認めて成立させる。それは堤井が彼のオルガンに抱いた印象と同じものだ。そして今の一音が、かつてのオルガニスト新川一音と地続きであることを示す言葉でもあった。堤井は息を呑んで彼の話に耳を傾ける。
「対話が下手なんだよ。お前のピアノは独り言になってる。最初から二人の会話を総括して語るんじゃなく、二人の会話そのものを語れ。結論だけに囚われるな」
その指摘は堤井の胸に深く突き刺さった。ピアノだけじゃない、これは堤井という人間そのものの傾向だ。
堤井は常に何か一つを選び、それ以外は捨ててきた。でないと凡人の自分には何も得られないからだ。
堤井が一音に惹かれたのは、だからなのかもしれない。二兎を追って二兎を得られる者。彼のように生きることができたら、いちいち取捨選択する必要はなかっただろう。
堤井は自分のピアノが好きだ。しかし同時に大した才能がないことも自覚している。そんな自分が数ある天才と渡り歩いていくためには時間を捧げるしかなかった。その捧げてきた多くの時間が、今更他の道を選ぶことを許さない。
では一音は? 一音ほどの才能があれば、他に歩きたい道があったとしてもオルガンを捨てる必要まではなかったはずだ。堤井が一つしか選ばないのは、決して一途であるためなんかじゃない。何も捨てずに歩けるのならそれが一番だ。それができるくせに、一音はオルガンを捨てた。許せないのはそこだ。
堤井が一音のオルガンに執着する理由は彼の演奏が素晴らしく失い難いからだけじゃなく、自分にできないことへの嫉妬心ゆえのものだったのだ。
「動物はどうしてもひとつにピントを合わせたがるけど、二つのものを同時に見ていたっていいと思うよ。せっかく二つ目があるんだからさ」
彼はそんな堤井の気も知らずに言う。いい言葉だ。その言葉が彼がオルガンを捨てるのを止めてくれたら良かったのに。
彼は今でもポリフォニーを弾けるのだろうか。あるいはもう弾けないから、合唱の伴奏という全体の中の一声に彼はなったのかもしれない。
ピアノの練習後はいつも一音と帰るようになっていた。途中まで道が同じなのだから、わざわざ別々に帰る方が不自然だ。それはそうなのだが、落ち着かないのも事実だった。
こうして隣に立ってみると彼の造形の美しさがよくわかる。同じ制服を着て同じ道を歩いているというのに、彼は堤井と違ってこんなにも優雅だ。
ただ意外なことに、一音は堤井よりも数センチ身長が低かった。恐らくは一七〇センチに届くか届かないかぐらいだ。常にピンと伸びた背筋とその小さな頭が実際よりも長身に見せていたために、並んで気付いた時は驚いた。
きちんと比べてみたことはないけれど、多分その手だって堤井よりは小さい。しかし演奏の中では一切そんなことを感じさせないのだから流石だ。
半袖の白いシャツから伸びた細長い腕が、歩くのに合わせてゆらりと揺れる。その滑らかな動きになぜだか目が離せないでいると、急に彼は足を止めた。
「ちょっとそこのコンビニであんまん買ってきてよ」
「え」
一音は鞄から財布を取り出し、そのまま堤井に押し付けた。
困惑して彼の顔を窺う。しかし彼の目は別の方向を見ていた。その視線の先を追うと、校門の前に三十代ぐらいの夫婦らしき男女が立っている。一音の知り合いだろうか。
「あっ、一音くん! 待ってたのよ」
二人のうち女の方が一音を見つけて声を上げた。
「どうも。ご無沙汰してます」
彼はにこやかに挨拶しつつ、こちらに軽く目配せをしてくる。
どうも席を外させるのが目的のようだ。察した堤井は、気は進まないながらもその場を離れた。
校門を出て五十メートルほど歩いたところで、近場にコンビニが無いことに気がついた。何がそこのコンビニだ、ふざけんな。
そう心の中で悪態をつきながら、スマホのマップでコンビニを捜索する。一番近いのは歩いて十五分の所だった。往復で三十分、簡単にパシらせる距離じゃない。
というか堤井を追い払うだけなら先に帰してしまえば良かっただろうに。今から無視して帰ってやろうかとも思うが、手には彼の財布が握らされている。帰るわけにもいかない、かといって今からUターンして校門に戻るのも癪だ。結局は彼に言われた通りコンビニに行くしかなかった。
彼らの話はどうせ三十分もかからないだろう。話が終わり暇になってもまだ戻ってこない堤井に、パシったことを後悔すればいいのだ。
堤井は電車通学のため、この辺りの土地勘があまりない。幸浜高校の近辺は主に住宅地が広がる郊外だ。目立った看板なども少なく、時折立ち止まって地図を見ながら歩く。
夕方でも容赦のない日照りに額から汗が流れた。風すらも全く吹かず、じっとりとした熱気が地面からも昇ってくる。
それでも無心で足を動かしていたその時、かすかに〝風の音〟がした。
実際の風ではない。それは管に空気を通して鳴る音――パイプオルガンの音だった。思わず音がした方へ目を向けると、そこは小さな教会だった。閉じられた扉からわずかに漏れて聴こえるのは賛美歌だろうか。
オルガンといえば一音だったせいでそういった印象は薄れていたが、確かにオルガンは教会にあるイメージが強い。幸浜高校にあるオルガンも、そういえばキリスト教由来だったなと思い出す。
扉の前に立てられた看板には、「どなたでもお入りください」との張り紙があった。しかし堤井にはこれといって信仰する宗教はない。神社などのように鳥居をくぐるだけならまだしも、扉で隔てられた建物内に足を踏み入れるのは躊躇われる。
心惹かれる思いを振り切って、堤井は再び歩き出した。
堤井が学校に戻ってきたのは、校門を出てから五十分ほど後だった。知らない道だったというのもあり、思ったより時間がかかってしまった。
一音はもう帰ったかもしれない。財布を堤井に渡したままなのに?とも思うが、彼ならば有り得る話だ。彼は時間にもお金にもあまり頓着しない。いかにも天才っぽい弱点である。だから彼が堤井を待たず帰ったとしても不思議ではなかった。
けれど彼はそこにいた。例の知り合いがいつ立ち去ったのかは分からないが、一音は一人で校門の前に立っていた。一切重心の崩れないその立ち姿は、整いすぎていて逆に合成画像か何かに見える。
「遅かったね」
こちらに気付いた彼に声を掛けられ、堤井の脳が作り出した合成の幻覚ではないのだと知る。
「すみません、でも仕方ないでしょ」
「この辺全然コンビニないもんね」
悪びれもなく言う彼を責める気にもなれない。一音はこういう人だ、もう諦めている。
「知ってたんですね。はい、これ」
レジ袋と財布を渡す。袋の中身を見ると、とたんに彼は訝しげな表情を浮かべた。それもそのはずである。
「――どらやきだ」
そういうことだった。堤井はあれだけ時間をかけてコンビニに行ったものの、あんまんを買うことはできなかったのだ。しかしこれには事情があった。堤井としても、というか誰にとっても、どうにもできない事情が。
「今は夏なんです! この時期にあんまんは売ってません! だからこれは……代替案です」
「餡だけに?」
「殴っていいですか」
くだらない洒落を言う一音にわりと強めの殺意が湧く。だが言われた通りのものを買ってこれなかったことへの申しわけなさもあり、複雑な気持ちだった。
彼はそんな堤井に呆れて笑う。社会不適合の天才様のくせに、こういう時の一音の笑顔はちょっとだけ先輩っぽいから困る。
「なにも買ってこないって選択肢はなかったの」
「小麦粉で餡を包んだものだから一緒かなと思って」
「絶対に違うでしょ」
「あんたが正論言わないでください」
堤井だって、あんまんとどらやきが違うことぐらい分かっている。何も買っていかないことも考えた。それでも頼まれた以上、何か持って帰ってやりたかったのだ。彼をがっかりさせたくない。こんなちょっとしたことでも、堤井は一音に対して必死だった。
「暴論じゃん。てかこれつぶあんじゃない? おれつぶあん食べれない」
「はぁ? 先に言ってくださいよ」
今度の言い分はさすがに絶句だった。あんまんを買うにしてもそこは重要ポイントだろう。これに関しては堤井は悪くない。
「連絡くれたら良かったじゃん、買う前に」
「俺あんたの連絡先なんか知りません」
「そうだっけ?」
「そうですよ! これどうするんですか」
少し考えてから、彼はどらやきの入った袋を堤井に突き返した。袋を握る手は心なしか名残惜しそうだ。それでも無理して食べる気はない辺りが一音らしい。
「お前にあげるよ。奢りね」
「確かにそうなんですけど、納得いかね〜……」
渋々それを受け取る。腑に落ちないが、食べ物に罪は無いのだ。
「ごめんて。ありがと、堤井」
そう言って彼は麗しく笑ってみせる。これだから一音はずるい。
彼が帰らずに待っていた、ただそれだけで堤井は一音のどんな我儘も許容できていた。それなのに加えて「ごめん」と「ありがとう」まで貰ってしまったら、いよいよ採算が合わない。
「あんたこそ、待たせちゃって平気でしたか。夕方だけどまだ暑いでしょ。顔、ちょっと赤くなってます」
そんなことを言われるとは思っていなかったのか、一音は一瞬ぽかんとした後、居心地が悪そうに頬をかいた。
「堤井ってほんとに、おれのこと好きだね。この期に及んでおれの心配とか」
「茶化さないでくださいよ」
堤井が咎めると、彼はゆるく眉尻を下げた。その微笑みが死ぬほど甘ったるくて駄目だ。全くもってこの人に適う気がしない。
「ん、平気だよ」
「ならいいです」
無愛想に返事をしたこの時の堤井は多分、人生で一番幸せだった。
だから考えもしなかったのだ。一音に会いに来たあの男女二人は誰だったのか、彼が堤井を待っていた間に何を考えていたのか、なんてことは全く気に留めていなかった。
「もうあと一ヶ月ぐらいだね、コンクール」
歩きながら一音がぼんやりと呟く。珍しく感傷に浸ったような声色だった。彼もコンクールが近いと流石に気合いが入るのだろうか。そんな風には見えないけれど。
「忘れてなかったんですね。意外です」
「部員なんだから当たり前でしょ。ねぇ堤井、」
「なんですか」
堤井の名を呼んだ一音はやはりどこか様子がおかしかった。堤井が問いかけると、少し間を置いて彼が言う。
「……あ〜、どらやき。ちゃんと食べろよ?」
はぐらかされたのはすぐにわかった。けれど本当は何が言いたかったのか、そこまではわからない。だから堤井も、彼が結果的に放ったどうでもいい仮の言葉に返答するだけだった。
「言われなくても食べますよ。俺はつぶあん嫌いじゃないんで」
「あっそ。好き嫌いがなくて偉いですこと」
ぶすくれる一音はいつも通りの放漫さを取り戻していて、堤井は密かに安堵する。
この時だけは堤井も、彼のオルガンに対する執着など忘れていた。だがこのまま忘れていられるほど根は浅くない。むしろただの一音との時間が大切になればなるほど、根付いた執着は腹の底で色濃くなっていくのだった。
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