13「料理」

ホテルに着くと、早速、社長室へと向かう。

社長は、何事かと思ったが、一瞬、そこには赤野きつめと赤野夏也がいるのではないかと、疑った。


社長は、この二人を、父である裕から聞いて知っていた。

姿形も、雰囲気も、そして、まなざしも知っていた。


温水が社長に向かうと。


「赤野夏也と、赤野きつめが使っていたロッカーの鍵を貸してください。」

「それよりも、説明をしてくれないか。」


社長は、説明が必要といい、納得出来るなら、ロッカーの鍵を渡すと言った。

温水は、全てを話した。

ただ、信用したのは、ゆかりの持っている前世の記憶、きつめが知っている裕の情報だった。


「信じられないが、その父の情報は知っているし、合っている。しかし、前世だったとは、驚きだ。ロッカーの鍵は渡そう。だが、その前に、やって欲しいことがある。」


やって欲しい事とは、このホテルの目玉料理を、全料理スタッフに一度料理教室を開いて教えて行って欲しいだった。

それ位の時間ならある。


何故なら、寒水が連れて行った妖精、ドクの国が再建するには、あの物語の量からして、もっと先だろう。

妖精の国にある力を使おうとするには、ドクの国が完璧に再建しないといけない。

それにキルの力は、温水が現実化した包丁で料理をしていくと強化される。

だから、寒水は、温水の力も欲しかったのだ。

だが、説得何出来なかったから、キルを人質にした。


ドクの妖精の国とキルの妖精の国は、違う世界だと思われる。

似ている様で似ていない、妖精の世界。

同じ世界なら、ドクとキルは会話をしているはずだ。

だが、今までの生活の中で、二人は会話をほとんどしなかった。

しても、初めて聞く内容だと認識していた。


だとすると、今は、準備段階と認識する。


「料理教室は、今からですか?」

「休憩中だから、今からでも構わない。」

「でしたら、もう一人、誘いたい人がいるのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ。誰なんです?」




「なんで、俺が、ここに?」


秋谷満がいた。

満は温水に呼ばれて、あこがれのホテルに来た。

ホテルに着くと、ドアマンがいて、調理室へ案内された。

服を渡され、急いで着替えると、調理室には、温水とその母、ゆかりがいた。


料理長にも、真実を話しており、他の調理スタッフは料理長が納得しているならと考えて、違和感なく、料理教室に参加している。

料理長の信頼度は、すごく高いのである。


「満、少しだけ、ここで習っていけ。」

「温水、これは一体。」

「いいから。」


社長は、温水が呼び出した満がどんな人物なのかと思った。

料理教室が始まり、ゆかりが教え、温水は補佐をした。

その情熱は、包丁さばき、食材や調理道具などの使い方を見ると、とても素人でなく、料理を長くしてきた人の手つきだった。


初めはどうなるかと思ったが、何も問題なく料理教室が行えている。

社長は、満を見ていた。

少しぎこちないが、とても、スムーズにできている。

周りのプロ料理人に着いていけてる。


「ほう。」


関心していた。

温水が連れて来ただけある。

料理教室が終わり、満は温水に声を掛けた。


「なあ、どういう事だよ。」

「えーと、早い話が、俺の前世が赤野夏也で、俺の母が赤野きつめなんだよ。で、さらに、俺は最高神の右腕で、母も最高神の右腕なんだ。だから、俺は、今から、倒しに行かないといけない人がいて、それには、この地上にはいられないんだ。」

「は?情報が多すぎて、整理しきれない……そういえば、寒水は?」

「寒水こそ、俺が倒さなくてはならないんだ。」

「え?倒すって、まさか。いやだよ。寒水は、俺の料理を認めてくれた最初の友達なんだ。そんな事しないでくれ。」

「したくないんだ。だから、話しに行ってくる。」


温水は、満の頭を撫でた。


「俺の弟を友達って言ってくれて嬉しいよ。ありがとう。」

「絶対に、ここに戻ってこいよ。兄弟そろって、俺の料理食べに来い。」

「出来れば。」

「違う。必ず、絶対に、決定的に、そう確実に、俺の所に戻って来い。」


その会話を訊いていた社長は、満に声を掛ける。


「秋谷満君だったね。私は、このホテルの社長です。是非とも、このホテルに料理人としてスカウトしたい。君さえよければ、どうかね?明日からでも、見学や体験に来ないかな?」


満は、驚いていたが、自分の家庭を話すと、説得するといい、今日でも秋谷家へ向かう準備を始めた。

この社長、やり手だから、きっと、満はこのホテルの料理人になる。


「さて、これがロッカーの鍵です。」


社長は、温水とゆかりに渡した。

早速、温水とゆかりは、自分のロッカーへと向かい、鍵穴に鍵を差した。

誰も近寄らない様に監視をしつつ、社長と料理長と満は、二人の行動を見守った。


更衣室の扉は開かれたままで、大きな声を出して、タイミングよく声を掛ける。


「行くよ。母さん。」

「ええ。」

「「いち、にいの、さん!!」」


鍵を開けて、ロッカーを開いた。

すると、ロッカーの中から青白い光が飛び出してきた。

飛び出したと思ったら、青白い光が二人の身体を包み、ロッカーへと誘った。

二人の身体がロッカーへと消えると、光も消えて、ロッカーは何事もなかったようにキイキイと音を立てて、扉が動いている。


三人は、まず、温水が吸い込まれた赤野夏也が使っていたロッカーを見ると、そこには、赤野夏也の物と思われる私物が入っているだけで、光る物などなかった。

女子更衣室に入るのは、少し曳いたが、確認をしないといけない。

社長だけで確認をしに行くと、そこにも、赤野きつめの私物が残されているだけであった。


なぜ、私物が残されたままなのは、きっと、神聖な物として保管しておくというのが、暗黙の了解として、伝わっていたと思われる。

そして、二つの私物における共通点があった。

一枚の写真であり、同一人物である。


写真に名前が書いてあり、名前は「赤野春樹」だった。


この赤野春樹は、二人にとって、どんな人物なのか、わからないが、とても特別な人なのは分かる。

三人は、赤野春樹に「温水とゆかり、そして、天地家が無事に帰って来てくれる」ように、祈った。


一方、春樹は、目の前にある最高級の生地を見て、輝かせていたが、何かを感じて、急に作業を止めて、祈り始めたのを、アカは見ていた。




「さて、秋谷満君。明日から大変になるよ。こちらの料理長に、料理を教えてもらうんだ。」

「え?」

「ビシバシいくから、覚悟してな。」

「ええ?」

「早速だけど、秋谷君の家に案内してください。両親を説得してみせますよ。」


野田明社長は、とても、優秀な人材を見つけたとして、喜んでいた。

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