12「真相」

温水は、赤野夏也が残したレシピを見て、作っていくと、段々と思い出してきた。

そう、自分は赤野夏也の生まれ変わりだ。

はっきりしてきた。

料理をしていると、自分が分かるとは、やはり、赤野夏也だ。


ただ、厄介なのは、赤野夏也の記憶と天地温水の記憶が、混在している事だ。


今は、高校一年生だが、この時の赤野夏也は、自分の好きな春樹が、母親を亡くした後の夏休みで、ひたすら、春樹に食べさせる料理に打ち込んでいた。

だが、現実は、自分が残したレシピを、再度作って、自分の物にする。


それと同時に、本来の姿を思い出した。


自分の最初はこの世の全てを管理している最高神の右腕であった。

地球を見ると、争いが続いており、それを見た最高神が頭を抱えた。

人の歴史は争いだらけなのは、心を痛めていた。

右腕を地球に送り込んだのだが、最高神の右腕としての記憶を消していた。


ただの人間として、地球を見てきてほしかったのだ。


人間と同じく、転生、誕生、成長、老い、亡くす。

それらを輪廻を繰り返す設定にした。


で、今、右腕として、この地球の何をしないといけないかというと、今から起こす争いを防ぐことである。


そう。


「寒水。」


寒水の部屋を訪れた。

寒水は、パソコンで物語を書いている最中であった。

それを見て、温水は、寒水とパソコンを離し、寒水の所にある光、ドクに声を掛ける。


「ドク、俺の弟を使って、何をたくらんでいる。」

「何のことですか?」

「物語を書く度に、ある国が滅びていくのだろう。その国とは、この現実世界にある国だ。寒水の能力を使って、物語という攻略方法を得て、国に攻撃を仕掛ける準備をしているのだろう。」

「本当に何のことですか?」


ドクは、何も知らないようだ。

本当に、妖精の世界があって、国同士の争いで、寒水の物語が必要と言っている。


「だったら、この、地球にある争いは。」


温水の後ろにいた寒水が、温水の口を塞いだ。

その時、キルが包丁を持って、温水を助けようするが、たかが光の玉だ。

寒水はキルを払い、床へと落ちてしまい、動かなくなった。


包丁が宙を舞っていて、それを空中で受け取り、寒水は温水の目の前に出す。


「本当に、兄貴は感がいいね。」

「んん。」

「地球の争いは、妖精の世界は関係ない。だが、妖精の世界にある力を使えば、争いを続けられる。なあ、兄貴、俺達の力で、地球を作り替えよう。」


温水の塞いでいた手を外す。


「何をいう。」

「だって、この地球、争いが絶えない。争いのない世界にするには、他の世界の知識も必要。だから、妖精の世界であり、ドクの国が復活出来れば、知識を得て、地球の争いを止められるかもしれない。」

「だからといって、争いを止めるなんてこと。」

「俺と兄貴なら出来る。」


最高神からの命令は、地球の争いを止める事。

だが、寒水がいうやり方は、とても賛同できない。

力で押さえつけて、その後に、世界を再度構築しようとしている。


まさに。


「天地創造。」


すると、父である天地総蔵が、寒水の部屋に来た。


「ようやく、温水を説得したか。」

「はい。我が主。」


寒水と総蔵の話を訊いて。


「どういうことだ。」


温水は、混乱していた。

総蔵は説明をする。


「この地球は、争いが絶えないのは知っているな。」

「はい。」

「だからこそ、一度、まっさらにしてから作り直す必要がある。だが、そんな力はこの地球上にはなく、他の世界に頼もうとした。それが、突然、寒水と繋がった妖精の世界である。繋がった意味は、「是非ともこの力を使ってください」と言っていると思った。だから、遠慮なく使ってやろうと思った。」


温水は、目の前にいる天地総蔵の正体を知った。

そう。


「天地総蔵、いいえ、我が主である最高神と対であり、逆の力。悪魔の最高位、バエル。」


正体を知られてしまった総蔵は、バエルへと変化した。

変化したといっても、猫耳と尻尾。

手足が蛙の、人間の姿をしていた。


この世界に従順な姿になっていた。

その時、力の解放により、温水は床に押し付けられ、身動きが取れなくなっていた。


「さて、この世界を、滅ぼしてみよう。こい。寒水。」

「はい。バエル様。」


寒水は、パソコンと妖精のドクとキルを持ち、バエルの後を追った。

そんな姿を見て、止められない自分の弱さを知り、悔しかった。

床に押し付けられていた為、耐えられずに、意識を失った。




目を覚ますと、目の前にはゆかりがいた。

ゆかりは、温水をベッドへと寝かせて、頭にぬらしたタオルを置いていた。

とても、心配をしている。


「母さん。」

「ごめんなさいね。あの人が。」

「母さん、俺。」

「いいのよ。間に合わなかった、私も悪いわ。」


ゆかりは、説明をした。


「私も、最高神の右腕。前世の名前は、赤野きつめ。」

「まさかと思ったのですが、きつめさんだったとは。」

「ええ、私も、まさかと思ったわ。料理をしている時の温水は、夏也そっくりだったから、一緒に料理してくれてありがとう。」

「そんな、俺こそ、再び一緒に料理が出来て、嬉しかったです。」


ゆかりは、仕事の話をした。


「私の仕事は、右腕が困っていた時に導く役割です。前世でも、意識はなかったのですが、導けて良かったわ。所で、この世界で、総蔵さん…いえ、バエルを止められませんでした。」

「俺も、止められなかった。」

「貴方には武器があります。」


キルが残した包丁と、かつて自分が残したレシピがあった。

この二つを、ゆかりは温水に渡すと。


「そうだ。俺には、前世も含めて、これしかない。」


ベッドで、身体を起こした温水は、自分の手足が思った様に動くのを確認すると、ゆかりと共に駅前のホテルへと向かった。

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