10「約束」
温水は、ホテルの調理場に来ていた。
調理場では、料理人がいて、温水を見守っている。
今回は、料理人の制服を渡されていた。
真っ白の制服である。
袖を通した時に、手がまるで魔法少女見たいな変身をした光の膜に覆われて、結界が張られた風に感じた。
今日は、キルが用意してくれた包丁を持って来ていた。
キルも一緒に行くと言っていたので、カバンの中でお留守番ならいいとし、今は更衣室のロッカーにいる。
近くにいるからか、包丁が輝いている。
「さて、天地君。君には、この料理を作って貰おうと思う。」
出されたレシピが、赤野夏也が手掛けた料理であり、ファイルから出す。
それは、子供に出すお子様ランチの一つ、エビフライだ。
エビフライは、下ごしらえがあって、レシピの中には書いていない。
下ごしらえの方法は、料理人なら知っていて当然だから、書いてなかった。
温水は、材料を目の前にして、素人の手さばきではなく、軽やかにこなしていく。
この調理室にある道具も、一通り片づけていたのだが、どこに何があるのか分かっているのか、迷いなく、手を伸ばして、調理していく。
調理だけではなく、片づけもスムーズで見ていると、とっても気持ちが良かった。
「出来上がりました。」
温水は、皿にエビフライだけを乗せて、社長の前に出す。
社長は、ナイフで綺麗に切り分け、フォークで食べる。
味も悪くない。
「おいしい。」
料理長も食べてみる。
すると、懐かしい味が、口の中を広げた。
「これ、夏也の味です。」
「だよね。弟子ってわけでもないのなら、彼はどういう。」
「……夏也自信とか?」
料理長は答えを出すと、温水をもう一度見る。
赤野夏也は、もう亡くなっている。
だけど、一緒の味が出せる人が現れていた。
「天地君。」
社長は、天地の肩に手を置く。
「就職は、このホテルの調理室にしたまえ。」
「え?」
「三年後、席は開けておく。今は、この。」
社長は、赤野夏也が残したレシピが収納してあるファイルを天地温水に渡す。
「ファイルにある料理を、レシピなしで作れるようになっていて欲しい。もしも、天地君がやる気があるなら、この三年間、料理の腕を磨くといい。」
「だから、料理の道には。」
「いや、絶対に君は、料理の道に進む。天地温水の魂が、料理を欲していると感じた。」
「でも、期待に応えられなかったら?」
「それでも、君を我がホテルに欲しい。」
すると、料理長も社長の言葉に賛同する。
「天地…いや、温水君さえよければ、料理を極めてくれ。君は、きっと、料理がしたいと思う。私も、三年後、待っている。」
二人に言われ、周りの料理人も温水を歓迎する顔をしていた。
期待している顔。
赤野夏也が残したレシピが入ったファイルを胸に収納して。
「この三年、やってみますが、期待に応えられなかった場合は、その…。」
「前向きに考えてくれ。」
「はい。」
温水は、今日の所は帰っていいと言われたので、帰る。
ホテルを出ると、一度、ホテルを見上げた。
目を瞑り、開けて、家へと帰宅した。
家に帰宅すると、部屋に入った。
今度は、貰ってきたファイルを見る。
一ページずつめくっていくと、丁寧に書かれていて、写真もついていた。
とてもおいしそうに撮ってある。
「赤野夏也…君は、俺のなんだ?」
包丁を手にする。
包丁の手を持つ所を見ると、うっすらと桜の模様が入っていた。
桜の模様を見ると、何か切ない思いが温水を覆う。
「さて、どうしようか。」
包丁を机に置くと、カバンの中からキルを出す。
キルは、寝ていた。
「まだ、食べられるよ……温水様。」
寝言を言っていた。
しかし、このキルは、どんな種族なのだろう。
寒水の所に居たドクと一緒の種族なのだろうか?
そういえば、今の寝言で、キルに食事を与えてなかったなと思った。
そもそも食べるのだろうか?
キルの前に包丁を置こうとする。
「兄貴、昨日の物語、本にしたから……。」
「ノックしろ。」
「ごめん。何しているの?」
温水が、キルを包丁で切ろうとしているようにみえた。
「え、ちが。」
「あー、もう、三度目だから、誤解なんだよな。」
「そう。」
「タイミング悪いね。」
「まったく。」
寒水は、温水のベッドにあるファイルを見た。
「これ何?」
温水は、今日の出来事を話すと、寒水は少し考えている顔をしたと思ったら、本にした物語を置いて、部屋を出て行った。
温水が一息つくと、キルが起きた。
「おはようございます。温水様。」
「おはよう、キル。」
キルに、寝言を話すと。
「私達、種族は食事はしなくて大丈夫なのです。食事といいますか、エネルギーは与えた人が力をつけてくれる事です。上達すればするほど、私達は強くなれます。私の場合ですと、温水様が料理をすればするほど、お腹がいっぱいになるのです。」
「だったら、今、お腹は。」
「恥ずかしいんですが、空いてます。」
温水は、それを聞くと、ゆかりに相談をした。
ゆかりは、温水が手伝ってくれるなら嬉しいと話してくれて、今日の夕食から手伝う。
夕食が終わり、温水は部屋で赤野夏也が残したレシピを見ながら、眠ってしまった。
歯磨きもしずに、風呂も入らなかったから、次の日は、気分が悪かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます