9「復讐」

温水は、これからどうするべきかを、なんとなく道が出来ていた。


寒水はというと、道が出来ていなかった。

物語を書いているが、何処かに投稿するなり、本にして売るなんて考えていなかった。

それに、自分の才能は物語でないと思っていた。


実は、いつの間にか、感じていた。


中学三年の冬休み。


家を出ると、誰かに見張られている感覚があった。

後ろを向いても、誰もいない。

気持ち悪い。

だけど、証拠がなければ、勘違いにされる。


冬休みに出された宿題の息抜きに、コンビニエンスストアまで買い物に行って、帰る途中である。


「天地寒水君だね。」

「そうだけど。」

「ちょっと、話がある。」


目立つのが嫌だったから、見た目、スーツを着こんだ男性に付いて行った。

来た所は、一つのビルだった。

ビルは何も看板がなく、何のビルか分からなかった。

中に入ると、身体が反応した。


そう、膝まづいている人が沢山いたからだ。

目で数えると、ザっと三十人位。


「これは一体。」


寒水は、今まで一緒にいた人に訊くと、その人も膝まづき。


「天地寒水様、貴方をお待ちしていました。」

「説明しろ。」




そのままの状態で、説明される。




「寒水様は、今、物語を作られていますね。」

「…ああ。」

「私達は、その物語を作って欲しいと頼んだ種族なのです。ドクがお世話になっています。」

「で。」


寒水は、温水みたいに優しくはない。

名前の通りに冷えていた。


「そ…それでです。我々の王国は、本があるおかげで栄えていたのです。ですが、一気に火を放たれ、本が無くなってしまいました。」

「ドクも、言っていたな。」

「それで、寒水様を、神様にしたいのです。」

「断る。」


すると、膝まづいていた人は、ドクと同じく丸い光になった。

そして寒水の周りを飛ぶ。


「何故です。」

「こっちこそ、なんでだよ。」

「寒水様が物語を書けば書くほど、私たちの王国は救われるのです。お願いします。私達の神様になって下さい。」

「嫌だ。」

「ならば、こう考えてください。貴方が私達の王国を強くして、他の国を自分の物に出来るのです。神様が嫌だったら、魔王様になって下さい。」

「魔王。」


寒水は、魔王の一言で「物は考えよう」と思った。

そうだ。

神様は嫌だけど、魔王はいいな。


「私達は神様扱いをしますが、他の国からみれば寒水様は魔王です。」

「それって、他の国は滅ぼしてもいいのか?」

「はい。寒水様が物語を書けば書くほど、他の国は滅びていきます。」

「それでいいのか?お前たちの国は。」

「いいのです。相手は、私たちの国に火を放った国です。」


寒水は、少し考え。


「約束事が三つある。」

「なんでしょう。」

「一つ、俺が住んでいるこの世界を巻き込まない。二つ、何があっても俺は責任とらない。三つ、俺に用がある時はドクを通じて行う。この三つを守れなかったら、もう物語は書かない。」

「はい、約束します。」





そんなことがあって、寒水は自分の才能は、物語を書くのではなく、統率力だと思った。

何かを治めたいわけではないが、まとめるのが好きらしい。

だから、温水が既視感で迷っている時、話を聞いて、まとめてみただけだが、温水が助かった顔をしたのを見ると、とても嬉しくなった。


物語も、色々な所から材料を持って来て、それらを自分なりにまとめて、文章にして書く。

才能は物語ではなく、統率力だ。


それから、寒水は、ドクを通じて、周りに魔王になったのを知られなく、ただ単に学校に行っている普通の学生として、物語を書きながら暮らしている。

両親と兄弟は、物語を面白いって、もっと読みたいと言ってくれているが、物語を書けば書くほど、滅ぶ国があるのは、知らないのである。


「あの時は、炎の中逃げるにも逃げられずにいたが、今回は安全な所で変わりとはいえ、復讐が出来る。」


寒水は、歴史の教科書を開いた場所は、戦国・安土時代のページ。

そして、そこに大きく載っていた人物を見て、微笑んだ。


寒水は、魔王と聞いた時に、記憶が蘇ってきた。

何度も違う人になって、今は、天地寒水の姿になっている。

火を放たれた、国を滅ぼされた、それが、魂と共鳴をしたのだろう。


ドクという名前も、読書のドクではなく、毒薬のドクとして付けた。

ドクには、読書という意味でと説明をしてある。


「さて、今度は、どんな物語を書こうかな?」


寒水は、パソコンの前に来て、指をキーボードに沈めた。

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