7「兄弟」
帰宅した後、温水はとても疲れた。
ベッドに寝そべると、枕元に光があった。
「おかえりなさい、大丈夫ですか?」
「キルか。」
「アルバイトっていうの、そんなに疲れるの?」
「ああ、今日は、ちょっとな。」
「そう、なら、今日は、私使ってもらえないんだ。」
「誤解を招く言い方はやめろ。」
話しをしていると、少しだけ気が楽になっていく。
机の上に置いてある包丁を取ると、本当に懐かしい思いが胸をいっぱいにする。
誰かのために作っていた。
だが、それは、思い出せないでいた。
思い出せないなら、身体に訊くまで。
温水は、台所に行くと、丁度、ゆかりが夕ご飯の用意をし始めている最中だ。
「母さん、今日は何を作るの?」
「今日は、ひき肉があるから、ハンバーグにしようと思って。」
みると、材料が全て揃っていた。
「なら、手伝うよ。」
「ありがとう。タマネギをみじん切りにしてくれる?あっ、みじん切りって。」
「分かる。」
温水は、包丁を持ってタマネギをみじん切りにした。
そう、包丁だ。
キルを使っている訳ではない。
言い訳をしないといけないのには、キルが温水の前で嬉しがっていたからだ。
「すごい、全部均等だわ。みじん切りって、所々、大きさがまばらになるのよ。でも、温水の切り方は、プロ並みよ。」
「この包丁がいいんだよ。」
「ううん。これは技術よ。温水がこんな才能があったなんて、今まで私は何を見てきたのかしら。気づけなくてごめんね。」
「母さんが謝るなんてないよ。俺だって、今、混乱しているんだから。」
ゆかりと話しをしながら、夕食を作っていると、この行為も懐かしい思いが心を占める。
この日の夕ご飯は、とても美味しかった。
総蔵も寒水も、いつもより美味しいと言って、とても笑顔でいた。
「しかし、高校を別にして良かったな。」
「そうね。」
食べ終わった時、お茶を飲みながら、総蔵とゆかりは話しをした。
「あのまま、兄弟引っ付いていたら、こんな才能があるなんて気づけなかったし、目覚めなかったと思うぞ。」
「今まで二人でいたから、それが結界の役割をしていて、才能を降り注ぐ神様が注げなかったんだわ。でも、離れたから、温水には料理を、寒水には物語を、ようやく授けられたと思うの。」
「人間は、産まれた時に適切な才能を授かるとか訊くが、それが遅かったんだな。」
訊いていた温水は。
「高校に入った時は、寂しいって思ったけど、今は、無いな。」
すると、同じく。
「俺もそうだ。二人一緒にいるのが当たり前になっていたけど、こうやって離れて見ると、別に一緒にいなくてもいいなって思う。」
寒水も自分の気持ちを言う。
「でも、兄弟仲良くしてね。」
ゆかりは、少しだけ不安になったから、言葉にする。
「仲良いよ。だって、仲良く無ければ、作った料理食べないよ。」
「そうだよ。作った物語、読んで感想言わないよ。」
温水も寒水も、ゆかりにはとても弱い。
ゆかりは、身近にいる女性だし、母親であるし。
「お前たち、母さんを悲しませたら、どうなるか分かるか。」
ゆかりを愛している総蔵がいるからな。
「分かっているって、あっ、そろそろ物語の続き書きます。」
「俺も、包丁を手入れしないと。」
それぞれの光を、肩に乗せて部屋に行く。
その姿を総蔵とゆかりは見て。
「心配しすぎかしら?」
「二人なら大丈夫と思うぞ。」
「そうね。私の心配し過ぎね。」
そんな会話をしていた。
部屋に戻った温水は、キルと話をした。
キルに訊いたのは、既視感の事だ。
「つまり、温水様の前世に関係があると。」
「そうだ。それしかないんだ。」
「でも、今の暮らしも満足いっていらっしゃるのでしょ?」
「さっきは、寂しくないて、平気って言っていたけど、不安でいっぱいんだよ。既視感が取れないし、正体を知ってしまったら、今の家族とは家族と呼べなくなる。けど……心の中のモヤモヤが取れないんだ。」
涙を流しながら、包丁を両手で覆い、目の前に持っていく。
「兄貴、物語、作れたから見てくれ。」
本当に、寒水には見られたくない光景を見せる。
「兄貴?包丁を握って、涙って…。」
「舎弟、ちょっと待て、な、こっちこい。」
「いや、涙流しながら包丁握って、こっちこいって、怖いって。」
「でも、お前、これからどこに行くつもりだ?」
「父さんと母さんの所。」
「だよな。でも、知られたくないんだ。いいから、こっち来いって。」
「え?知られたくないし、涙流しているし、包丁持っているし、これって。やっぱり……、父さんと母さんに言ってくる。」
「わー。」
今度も、あの時と同じく、寒水を止めた。
今度は、涙も含まっており、さらに怖さが増していた。
落ち着かせる為に、キルに包丁を預かって貰い、寒水に説明する。
寒水は、既視感の事を話すと。
「それって、前世で料理人だったんじゃない?」
「そうなのか?」
「そのホテルに勤めていた料理人で、何かで亡くなったとか。それで、近い所に転生して来たって、何か、未練があったんだよ。未練を叶えると、既視感無くなると思うよ。」
寒水の説明に、温水は心の中がすっきりしている。
「すごいな。舎弟。なんか、すっきりした。」
「それはどうも。」
「で、今度からは、ドア、ノックしような。」
「今まで仲良いから、勝手に入っていたからね。ねー兄貴。」
寒水が、少し意味が含まる言い方をすると、高校に入ったばかりの時に、一度、寒水がいない時に入ったのを思い出した。
「あー、あれは、ごめん。」
「いいよ。ドクから訊いただけだから。」
温水は、少し引っ掛かったから、寒水に訊いた。
「パソコンが現実に触れられたのって、中学三年の秋って言っていただろ?」
「そうだね。」
「じゃあ、その時から、舎弟は?」
寒水は、観念して話す。
「実は、高校別にしようって提案したの、俺なんだ。」
「は?」
「俺だって、一緒の高校行きたかったけど、先を見ると、兄弟一緒にずっといるって出来ないと思ったから。結婚するだろうし、亡くなる時は一緒って無理だろ。まだ、修正が利く時にしたかったんだ。だから、父さんと母さんに話しをして、別にして貰ったんだよ。」
先の事を考えて行動に起こしてくれた寒水を、温水は感謝した。
確かに、兄弟一緒だったら、こんな感情は生まれなかったと思う。
「でも、今までと同じに仲良くしたい。」
「そうだな。そこまで俺は考えていなかった。助かったよ。」
「うん。」
温水と寒水は、お互いに微笑み合った。
その顔は、同じ顔をしていた。
「あっ、物語作ったから、読んでみて。」
寒水は、温水に物語が印刷されて、保存されているファイルを渡し、部屋へと戻る。
温水は、ファイルを開けて読み始めた。
「なんで、木刀とミステリーサークルが、こんなに喧嘩しているんだ?」
寒水の部屋をノックしなく、感想を言い入ってくる温水。
「あー、やっぱり、そんな感想持つ。」
「次は?」
「今、執筆中だよ。」
「気になる。」
「気になるのはいいけど、兄貴は、他に読まないといけない本があるんじゃない?宿題、本を読んで、夏休み明けにテストじゃなかった?」
「そうだった。」
温水が部屋に帰ろうとする時。
「兄貴、明日もバイトあるんだろ?社長には気を付けて。」
寒水は、一言注意をした。
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