5「憑宿」

「で、包丁が現実になったと。」


説明をした温水は、持って来てくれた水を飲んだ。

包丁は、枕をクッションにして、机に置いてある。


「なら、その包丁で料理作ってみればいいよ。」

「は?」

「包丁の妖精がいて、兄貴に料理を作って貰いたくて、握らせたと思うよ。」

「だとしても、親にはどう説明するんだよ。包丁なんて、子供には売ってくれないだろ?入手方法を訊かれたら、どうするんだよ。」

「正直に話せば?」

「は?母さんはいいかもしれないけど、父さんは。」

「信じてくれると思うよ。」

「根拠は?」


すると、寒水は、自分の部屋に温水を連れて行った。


寒水の部屋は、温水と同じような間取りだが、違うのは机に置かれたパソコンである。


「俺にとっては、このパソコンがそうだった。」

「は?」






中学三年の秋。


寒水は、受験勉強の為、机に向かっていた。

その時、目の前に薄くパソコンが現れた。

持っていたシャープペンを何故か横に置いて、手をキーボードに置くと、パソコンが現実化した。


「な。パソコンが。」


寒水は、本当にパソコンなのかと思ったが、調べ見てもパソコンだ。

すると、一つの光が目の前に浮いていた。

光の大きさは、野球ボール位だ。


「貴方が、天地寒水さんですね。」


話が出来ていた。

寒水は、自分の名前を言われたので、現実だと認識した。

光がいうには、この世界には妖精がいて、それぞれの物に宿っている。

そこで、見どころがある人物に合う物を与えているという。


「それで、俺にはパソコンを与えてくれて、何を求めている?」

「私は、本の妖精なんです。でも、妖精の世界で物語の本が無くなってしまって、楽しみがなくなりました。なので、作って下さい。」

「は?物語なんて、俺、作った事なんてないぞ。」

「この世界の本を、そのまま書き写したものでもいいのです。ですので、物語の本を作って下さい。」





「ってことで、パソコンで物語を書いているんだ。この事は、父さんと母さんには話をしてある。だから、信じてくれると思うぞ。それと、こちらが、その妖精。」


枕元に置いてあった瓶に入れられた光を、温水に見せると、光が話し出した。


「寒水さんのお兄さんですね。はじめまして、私、本の妖精。寒水さんが付けてくれた名前は、ドク。ドクと呼んでください。」


温水は、常識の範囲を超えた情報に、頭を抱えた。


「ここが痛いのですか?」


頭に触られる感覚があった。

目の前には、寒水がいるし、寒水の手には光があった。

なら、この頭にあるのは?


温水は、目を動かすと、寒水が見せた光と同じ光があった。

怖くて離れると。


「ごめんなさい。私は、包丁の妖精です。貴方に使ってもらいたいなって思ったら、つい姿を現してしまいました。驚かせてごめんなさい。」


すると、包丁の妖精は、温水に近づいて。


「ご迷惑…かな?」


そうだといいたかったが、身体が光りを見ていると、穏やかになっていく。


「迷惑なんて。それよりも、俺、料理の才能なんてないぞ。」

「そんな事ありません。とても才能を感じます。どうか、私を、貴方の手で使ってください。」

「紛らわしい言い方をするな。」


そのように話をしていると、総蔵とゆかりが来て、寒水が状況説明をする。

総蔵は、温水の肩を叩く。


「父さん。」

「夕食、期待しているぞ。」







それで、台所に包丁を持って来ている。

冷蔵庫の中身を見て、他の引き出しや野菜収納箱も見ると、作れそうなものが頭に浮かんだ。


その時である。


作った事がないけど、手が自動的に動いて、初めて使う台所であろうと、何処に何が置いてあるのかを、感覚で分かり、無駄な動きが無く、料理が作られる。


作られた料理は、回鍋肉に、卵スープが出来上がっていた。


我に返った温水は、心にあった曇っていた感覚が無くなっていて、目の前に出来上がった料理を見ると、信じられない顔をさせた。


「これ、俺が作ったのか?」

「そうだよ。」


寒水が答えると、信じられなかった。

食べて見ると、とても美味しい。


「温水に、こんな才能があったとは。」

「ねえ、時々、手伝いしてくれない?」


総蔵とゆかりは、喜んでいた。

寒水も見ると、とても美味しそうに食べている。


「兄貴、包丁の妖精に名前つけてやれよ。」


寒水が言うと、温水の肩付近にいる光が、少し照れているのを感じていた。


「じゃあ、キルで。」

「わかりました。今日から、キルになります。温水様。」

「様はつけなくていい。」

「いいえ、私の相棒です。これから、よろしくお願いします。温水様。」


その日から、温水は、料理の道へと。


「いかないからな。」


解説に突っ込みを入れながらも、包丁を大切に手入れしていた。

手入れをしている時も、自然に動いて、適切な包丁の手入れをした。






「で、舎弟は、どんな物語を書くんだ?」


寒水は、自分が書いた物語を見せた。

本にしてあるから、渡す。

中身を見ると、意外だった。


「これ、絵本か?」

「ドクが、絵本が読みたいっていっていたから、チャレンジしてみた。妖精の世界では、とても人気らしい。」

「ちょっと、よく読みたいから、借りて行っていいか?」

「いいし、返さなくていいよ。だって、父さんも母さんも、それぞれ一冊ずつもっているし、俺は、パソコンのデーターで読めるから。でも、他には読ませないで欲しいな。趣味でやっているようなものだから。」

「わかった。」


温水は、寒水の絵本を読むために部屋に行く。

暫くして、温水は寒水の部屋に来た。


「舎弟、この後の木刀はどうなるんだ?」

「やっぱり気になる?」

「気になる。なんだよ、この展開。」


温水は感想を寒水に話す。

寒水は、とても嬉しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る