3「寒水」

県立流石高校は、入るのに生徒カードが必要で、駅の改札口みたいになっていた。

カードを機械にかざすと、学校に入れる。

カードには指紋データーも入っていて、春休みに父、総蔵そうぞうと登録をしに来ていた。


入ると、敷地が広く、校門から玄関までの距離が長い。

だが、設備は良く、先生も生徒も質がいい。

テストは年に三回、三学期制で学期が終わる時に出される。

そのテストも、先生のお手製だから、優しい時と厳しい時がある。


「ここ、テストに出さないぞ」って所でも出したり、「ここテストに出るぞ」って所でも出さなかったりするので、全部勉強をするのが正解である。


寒水は、身長百七十センチ。

髪は、肩甲骨辺りまでの長さがあり、普段は後ろで髪ゴムで括っている。

髪ゴムの色は、目立たない黒や茶である。

制服はブレザーで、ネクタイは青色、ジャケットとズボンは灰色だ。

カッターシャツは自由。

寒水は、一般的に売られている白にしている。





寒水は、教室へ入ると、知っている人はいなかった。

周りは中学からの持ち上がりが多く、グループも出来上がっている。

だから、気持ち的には転校生だ。


昼休みになり、教室で弁当を食べていると、声を掛けて来る人がいた。

自己紹介されて、名前は、秋谷満あきたにみつる

背は、寒水と同じ位だが、ガッチリとした身体つきをしている。

髪も短髪だが、前髪に赤色のヘアピンを二つつけている。


どうやら、寒水の弁当の中を見て、美味しそうと思い、声を掛けた。


「この、弁当、天地のかあちゃんが作ったのか?」

「そうだよ。」

「すっごくおいしそう。何か一つ交換しよう。」


満の弁当を見ると、とても美味しそうである。


「なら、お互いにある卵焼きを交換。」

「いいぜ。」


交換して食べると、寒水は驚いていた。


「この卵焼き、俺の好みだ。」

「マジ?やったー。実は、俺の手作り。」

「マジ?すごいよ。もう一つ食べたい。」

「ダメダメ。でも、天地の卵焼きも中々だぞ。」

「なら、母に報告しておくよ。」

「……、本当に美味しかった?」

「うん。」


すると、満は嬉しがって。


「明日、卵焼き、多く作ってくるから、食べるか?」

「是非。」


それから、寒水は、満と話をし始めた。

満の話だと、駅前にあるホテルへ就職をしたいと言っていた。


「小学一年の時入学祝いで、ホテルで食事となったんだ。でも、小学生だろ?ホテルの料理なんて大人が主だと思ったんだよ。でも、子供用の料理もあって、それが美味しくてな。それから、料理を習い始めたんだ。最初は親に教えてもらったけど、親にも限界があるだろ?だから、料理教室に通っているんだ。」

「へー、そんなに美味しいなら、一度食べに行きたいな。」

「ホテルの料理って、泊まっている人だけではないから、普通に行って食べられるぞ。そうそう、そのホテルって、伝説の人が二人いたんだよ。赤野きつめと、赤野夏也って名前なんだけど、同じ苗字だから、もしかしたら、親子だったのかな?」

「親子で料理人って、極めてそうでいいなぁ。」

「そうだよなぁ。話、合いそうでいいなぁ。」


寒水は、満が自分の事を話してくれるから、寒水も話す。


「俺は、双子の兄がいて、別の高校に行っているんだ。」

「へー、この顔がもう一つあるんだ。」


満は、寒水の顔を両手で覆う。


「もう一つって……、でも、顔の作りは同じでも、それだけで他は似てないよ。」

「そうなのか。見てみたいな。」

「いつか、家に招待するよ。」

「おう……寒水の家族は、手作りのお菓子って大丈夫か?」

「大丈夫だよ。」


寒水は満と話しているのが、とても楽しくなった。

いつもは温水と話をしていたが、それ以上の領域が広がったみたいだ。


下校時間になった。

満は、寒水が乗るバス停まで一緒に来てくれた。


「じゃ、明日な。」

「うん。またね。」


寒水は、バスに揺られていると、今日の出来事を反芻する。

とても嬉しかったのか、顔が緩んだ。


家に帰ると、温水がいた。

いつもと同じく迎えてくれたが、何かぎこちないと感じた。


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