2「温水」

天地温水は、家から徒歩五分の高校へ通っている。


温水の身長は、百七十センチ。

髪は、短髪で、とても清潔感がある。


制服だが、今の時代からすると、一つ前の時代を思い出させる、学ランだ。

学ランといっても黒ではなく、白である。

ボタンではなく、ファスナーだ。

そのファスナーを隠すように、黒の布で覆われている。


ズボンも白である。

でも、学ランとズボンさえ着ていれば、中は何でもよく、Tシャツや、カッターシャツ、ニット等、自分の身体にあった服でよかった。

それに、集会や式のきちんとした行事でなければ、学ランは前を開けてもいいとされていた。


夏は、材質も薄くなり、袖は、半袖のタイプになる。

ズボンは流石に長いが、材質だけは汗を吸うし、冬よりは薄かった。

高校生になって、半ズボンは少し恥ずかしいだろうと配慮である。


女子も、学ランであり、男子と同じだが、ズボンではなくスカートとなっていた。

スカートは、白に裾には黒のラインが入っている。

丈は、膝が隠れる程度であり、左右にプリーツが入ったボックスプリーツの形をしていた。

スカートも、冬は生地が厚く、夏は薄くなっていたが、裏地はある為、透けるのは防止されている。




県立尊徳そんとく高校は、二宮金次郎の精神を基本にしている。


勉学と労働を兼ね備える為に、生徒にはアルバイトを推奨している。

事情により労働は出来ない生徒もいるから、強要はしていないが、労働していない生徒には学校から学力アップのテキストを渡されている。

無理なく出来るように、学校は他の学校よりは早く終わり、午後二時には下校となる為、部活動は無い。

簡単にアルバイトが出来る情報を、常に発信していた。


校門をくぐると、そこには選挙ポスターが張れる板位の大きさをしたモニターが横に並んで三枚あった。

モニターには、アルバイト一覧が表示されている。

アルバイトをしたい場合は、モニターに映し出されているアルバイトの詳細が書かれている項目に指で触り、詳細が裏返ると、学校から提示されている生徒番号を入れる。

生徒番号は、何年何組何番と、自分が決めた三桁の数字を入力する。

一年一組一番で三桁の数字が123だった場合は、010101123と入力する。

二年三組十五番で三桁の数字が789だった場合は、020315789になる。


入力をして完了を押すと、詳細が表向きに直る。

すると、アルバイトを受ける意思表示をしたと認識される。

自分が決めた三桁の数字は、いたずら防止だ。

入学手続きをする時に、三桁の数字を決めて、記載してある。


知識をむさぼりたい温水は、アルバイトをしない為、先生から学力アップのテキストを貰えるのを楽しみにしていた。

情報を見ずに校舎へ入ろうとすると、声をかけられた。


「温水、アルバイトどれにする?」

「天音、俺はいい。」

「なんだよ。せっかく、バイト許可している学校なんだぞ。勿体ないぞ。」

「働くよりも、知識を深めたいんだ。」

「なら、どうして、この学校に入ったんだよ。」

「じゃんけんで。」


渋沢天音しぶさわあまねは、頭を抱えた。


「いいから、見ろって。」


天音は、温水にモニターを見せる。

仕方なく一緒に見ていると、ふと、気になるアルバイトがあった。

それは、図書館から渡される本を読んで、大人用と子供用に興味をもってもらえる文で感想を書く仕事だ。

何か面白いと思ってしまった。


「良いのあったか?」

「まあ、これなら、俺に合っている。」

「ならそれにしろよ。俺は……この体力使うのがいいな。」


天音は、身体を動かすのが好きで、小学生と中学生は、体育の成績は良く、部活も色々な体育会系に所属していた。

今も習い事の一部で、小学生からやっているサッカーをしている。

走るのは得意だから、新聞社からの夕刊配りにした。


アルバイトを通じて、その仕事の仕組みや、仕事内容を学び、将来の就職を決める見本にして欲しいと願いもある。


温水も天音も、自分が選んだアルバイトを申請して、校舎へと入って行った。


この高校は、地元の生徒が多く入っており、中学の持ち上がりが多かった。

だから、中学の友達がいる。

この渋沢天音もそうだから、気軽に話が出来る。


「寒水はどこに行ったんだ?」

「寒水は、バスで三つ先の高校に行ったよ。」

「三つ先……あっ、県立流石高校か。あそこレベル高いぞ。」

「そうみたいだね。」

「寒水って、勉強は温水と同じ位だっただろう?」

「ギリギリ受かったって感じだな。でも、寒水なら大丈夫だろう。」


温水は、心配はしていなかった。

ただ、産まれた時から一緒だから、いないのが少し寂しい。





家に帰ると、寒水はまだ、学校であった。

今日の帰りは、午後五時過ぎるだろう。

主がいない部屋の前に来て見ると、何故か、胸が空っぽになる感覚になった。

部屋へ入ると、当然だが、誰もいない。


寒水の部屋に、久しぶりに入った。

仲が良いといっても、お互いの部屋には、用事が無い限りは入っていない。

部屋見ると目に入った。

それはパソコンだった。


机の上に、いつの間にかパソコンが置いてある。

しかも、複合機のプリンターもあり、A3まで印刷出来る。


「パソコン買ったなんて情報、無かったぞ。」


温水は、急に、調べたくなった。

パソコンを起動させると、パスワードを訊いて聞いた。

一応、自分達の誕生日を入れて見るが、反応は無かった。

色々と入れて見るが、同じく反応しない。

机の周りやパソコンの底とかを見回したが、メモも見つからなかった。


諦めて、部屋を出て、自分の部屋に付いた。

すると、学校のアプリから、アルバイトの日程が来た。


「明日の午後三時か。」


温水は、メモをした。

寒水が帰ってくると、少しだけ疑問を胸にあったが、いつも通りに接した。


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