第8話 永月ルルカの試練1

 私は今、ダンジョン協会の本部へと呼び出されていた。ここにいるのは私を含めて四人のコレクターと協会の会長と副会長。

 私含め、ここにいるコレクターは、様々なクランから集められた二等級以上の精鋭だ。これだけの人材を招集する、しかも少数ともなると、これから私たちに依頼される内容は大体想像できた。


「君たちには協会から依頼を申し込む。これは現時点で極秘の事項だ。受ける受けないに関わらず、他言無用で頼むよ」


 そう言うのは老練な立ち振る舞いをする好々爺。日本ダンジョン協会の会長であり、日本で最初の特等級コレクターだ。


 優し気な顔つきとは程遠い威圧感。私たちは否が応でも体を強張らせることになった。私も二等級のコレクターとして、未だ若輩者なれど、様々な修羅場は乗り越えてきたと自負している。これでも二年で二等級に上り詰めたのだ。


 だが、私よりも数段実力があるであろう人たちが彼を前に緊張を隠せていないという事実に私は驚きが隠せない。


「君たちに来てもらったのは他でもない、実力を見込んでのことだ。本来ならば俺が行きたいところなんだが、これでも協会を預かる身。安易に行動できないのでな。まあ、さっさと本題に入ろう。本題は、新たなダンジョンが発見されたということだ」


 新たな……ダンジョン。

 最後にダンジョンが発見されたのは二年前のことだったと記憶している。


「まあ、あとは言わずとも分かるだろう」


 そうだ。言われずとも分かる。新たなダンジョンが発生したとなると、そのダンジョンがどれだけの難度で、どれだけの深度なのかを調べる必要が出てくるのだ。

 そうしたことは協会から二等級以上のコレクターの誰かに秘密裏に依頼が来ることになっている。


 未知のダンジョンでも任せられるという信頼と実績を兼ね備えたコレクターに与えられる名誉だ。


 新たなダンジョンの調査は、少なくとも二等級以上に任せられる。理由は単純で、もし一階層から難度が漆や捌だった場合、三等級以下では死ぬ可能性が高い。

 現状、一階層から難度が漆以上のダンジョンは一つしかないが、それでも未知であるならば慎重に行動することが求められる。


 少数で秘密裏に行う理由は簡単で、バレては世間が騒ぐからだ。興味本位で野次馬が出来てしまっては危険であるという理由がある。他にも理由は幾つかあるが、まあ危険だからと言う理由が一番だろう。


 しっかり調査が出来た状態で、協会が管理できる状態としてから世間に公表する必要があるということである。


 未知のダンジョン。この響きはコレクターにとってこれ以上なくワクワクするものだ。コレクターと言うのは程度の差こそあれ誰も彼もが好奇心旺盛だ。そうでなければコレクターなんかにならないし。


「やってくれるかな?」


 私たちは会長の言葉に一二もなく頷いた。





 *





 新たなダンジョンは群馬県のとある山奥にあった。


「とりあえず、俺たちは自己紹介をした方が良いな」


 一人の男性がそう言う。それに対し私たちは誰も異論を唱えなかった。

 臨時でパーティを組むのだ。自分たちが何が出来て何が出来ないのかを共有しておく必要がある。


「俺は三浦直明みうらなおあき。ポジションは前衛でアタッカーだな」


 第一印象は快活なお兄さんと言った感じの男性がそう言う。斧を背負っているためかなりのパワータイプなのだろうと言うことが窺える。


「私は横山有美よこやまゆみです。普段のパーティではバフによるサポートを主軸にしています」


 次に自己紹介してくれたのは私よりも年上であろうお姉さんだ。有美さん。サポートが主軸とは言っていたが、それなりに肉弾戦もできそうである。


「次は俺か?俺は任城雅人にんじょうまさと。防御系のスキルを得意としている」


 恐らくこの中で一番年長であろう背の高い男の人だ。防御系のスキルを得意とすると言うだけあって、仕草に余裕が見られる。


 単純に自分を傷つけられる相手がいないという慢心からか、慢心などではなく実力を明確に見抜く力があるのか。


 自己紹介もいよいよ私の番が回ってきた。私としては本名は言いたくない。配信者として活動しているから。


「永月ルルカです。配信業をしているので本名は言えませんが、主に剣を扱うアタッカーです」


 私がそう言って、全員が頷いた。

 自己紹介も終わり、あとはダンジョンに潜るだけだ。


 即興で組まれたパーティではあるが、誰も彼もが実力者。ダンジョン協会が最適だと判断したパーティ編成となっているはずだ。


 危険があれば即座に逃げる。それはコレクターであれば誰もが共通して持っている認識だ。何かあったら無様だろうと逃げるまで。


 この中で一番弱いのは私であると言うことは何となく分かる。多分、皆さん一等級だ。この経験は今後に生かせる。何が何でも成功させたいという思いが私の中で渦巻いている。



 

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