第7話 本格的に作業しよう

 ヨルとの会話で必要な情報は揃い、決心がついた。これから俺はダンジョンを好き勝手に改造することにする。


「おお、ようやく本気で取り掛かるのか」


「うん。そうする。とりあえず、今考えているのは一般的なダンジョンみたいな構造で、さも普通のダンジョンであるかのように偽装するものを作ろうと思う」


 いずれは一つのダンジョンが至る所にクモの巣状に伸びているというのが俺の理想だ。だが、そんなダンジョンを作るのには時間がかかる。そのため、通常のダンジョンのようなものを一つ作り、世間の目をそちらに向けてやろうという考えだ。


「難度はどうするのだ?」


「一階層で大体参くらいを考えてる」


 上層が参から伍。中層が陸から漆。そして、下層が捌だ。


「少々、難度が高いように思うのだが……」


「問題ない。世間の目を逸らすという役割があるからな、難度が高いほうが都合がいい。それに、話題性としては充分だろ?」


「うむ……。まあそうだな」


 とりあえず、ここは俺の家の敷地内だ。流石にそんなところにダンジョンを作るわけにはいかない。

 地下からダンジョンを広げて、適当に良さそうな場所を見繕う。


「じゃあ、これから地下道を建設していきましょう!」


「我もついて行って良いか?」


「まあ、いいけど体がデカすぎない?そんな大規模な通路を作る気はないんだけど」


 ヨルの体躯は軽く見積もって十メートル近い。そんな竜が通れる道なんて作りたくないのだが。


「ああ、安心せい。肉体の大きさなど簡単に変えることができる。人間サイズにだってなれるぞ」


 そう言うと、ヨルは体を縮め始めた。クソデカい竜が圧縮されていく様子は、なんともコミカルだ。


「人の姿にはなれないんだ」


 よくある人間型のフォルムってやつだ。ファンタジーでありがちだろう?知能がある人外の生物が人型になるシチュエーション。


「ああ、我にはできんな。そんな機能、ダンジョンのモンスターには不要だし」


 それもそうだ。ダンジョンのモンスターが人型になったところでメリットはあんまりなさそうだし。

 大体俺と同じくらいの体長になったヨルは、軽く翼を羽ばたかせるとその場でホバリングをする。飛びながら付いてくるようだ。


「権能の力で、その場から動かなくてもダンジョンは拡張できるけどさ。こういうのはやっぱり生で見たいよね」


「浪漫というやつであるな」


 やはりこの竜、話が分かる。俺の知識を持っているのだから当然と言えば当然だが。

 それでは、突貫工事と行きましょう。


「一気に行くぞ」


 それっぽく壁に手を翳すと、一気に五十メートルほどのトンネルが完成する。

 それで終わりにせず、俺は権能を用いてそのトンネルを一直線に伸ばし続ける。


 


 どれだけトンネルを掘っていたのだろうか、ここでは電波も通じないので今が夜なのか昼なのかすら定かではない。だが、それなりの時間が経ったことは想像できる。


「ここ、どこ?」


「我に聞くな我に。そこそこ長い時間掘っていたからな。それなりに進んでいるのではないか?」


 俺が作り上げた通路には、マナが充満してモンスターがポップするだけの時間が経っている。冥界から横に掘って来ていた物だから、出現したモンスターも一体一体が零等級の化け物たちだ。


 現在地が分からないというのは少し不便だが、ダンジョン内であれば俺の権能で俯瞰して見ることができる。これで、出発点と現在地を見ればどれだけの距離を進んだのかは分かる。


「大体あそこから25㎞くらい進んだな」


 いや進みすぎでは?徒歩だぞ?

 まあ、高速でダンジョンを拡張して俺は瞬間移動を繰り返していたからそれくらいは進むのか。ちなみに、ヨルは瞬間移動する俺と遜色ないレベルの高速移動をして追い付いてきた。やっぱやばいって。


「さて、じゃあここらへんでいいかな。25㎞も進んだら、流石に俺の家との関係性を疑われることもないだろ」


「いや、疑いすらせんと思う。そもそも、主が前代未聞だし……」


 さて、モンスターたちには申し訳ないがここまで作ってきた通路は閉鎖……は、できないのか。ヨルが帰れなくなるし。


 そう思ったのだが、ここの層だけ隔離してしまえばヨルはここで過ごしてもいいらしい。あそこだろうとここだろうとそんなに違いはないのだとか。まあ、ヨルがいいならいいけど、俺的にはあそこに住んでいて欲しいと思う。最初に作ったダンジョンとも言えないような空間だが、少しは愛着があるのだ。

 

 という訳で、俺の我儘が罷り通った。


「まあ、どうせいつかはこの通路も使うかもしれないし」


「一直線のダンジョンと言うことか?それはそれで面白そうではあるな」


 まあ、色々とできそうだ。


 さて、ここから本格的にダンジョンを作り上げるとしよう。


 とりあえず、この冥界は隔離して、下層から作ることにする。

 ダンジョンの層は主に五つに分類され、上層、中層、下層、深層、冥界だ。厳密な深さは協会によって定められているが、大体地下20階層までは上層。50階層までは中層。80階までは下層。100階層までは深層。それ以下は冥界、という認識だ。


 ダンジョンはコアが最奥に設置され、そこから作り出される。だが、俺は階層を指定して作りたいのだ。奥から作って結果的に地面に入り口ができるような作り方ではなく、明確に下層で終わりにしたい。


 そうなると、今自分がどこら辺にいるのかが分かっている必要がある。


「上から作るのがやりやすいかな」


「……主よ。下から作って、後からいらない部分を削除してしまえば良かろう……」


「あ」


 どうやら俺はバカだったようだ。

 視野狭窄。もっと柔軟な考えが必要だな。やはり、日ごろから頭を使わないと鈍ってしまう。気を付けよう。




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