第6話 情報を整理しよう

 ヨルが持っている知識と俺が持っている知識は全く同じものだと言うことが分かった。そうなると、捉えようによっては、俺は俺と会話できるようになったと言える。かなりの誇張表現だが、頭ごなしに否定することは出来ないのではないだろうか。


「と言うことで、俺の情報整理に付き合って」


「それは良いが、その理屈だと別に主一人で十分ではないか?自分が二人いたところで何も変わらんだろう」


「そうでもない。人格が同じと言うわけではないから、全くの同一人物ってわけでもないし、仮に自分が二人いたとして二人とも同時に、全く同じことを考えるとは思えないだろ?」


 自分が二人。なんて言ったが、それは分かりやすく表現しただけで厳密には違う。少なくとも、俺の記憶を知っているヨルだが人格は俺のとは違うからな。


「まあまず、ヨルのレベルは幾つだ?」


「我は、90だな」


「90……。確か、現在確認されている人類最高レベルは……」


「アメリカのコレクター、『トビー・レッドグレイヴ』の86だな。次点で、日本のコレクター『黎明の怪物』の84。次が中国の『無双』彼女のレベルは80」


 控えめに言って化け物である。

 基本的に、レベルはプラスマイナス10くらいであれば格下であろうと善戦できるくらいの差だ。条件次第では格下が勝つことすらあり得る。


 とは言え、善戦できるというだけで勝てるかと言うとまた別問題だ。現在世界で存在しているコレクターの中で、ヨルと戦って勝てる可能性があるのはこの三人だろう。


 改めて聞くと、冥界と言うのは人外魔境であると言うことが身をもって理解できた。難度拾は伊達ではない。


「あくまでこれは、公表されているレベルであって世界にはそれ以上のレベルを持った猛者がいる可能性もある」


 ヨルがそう言う。

 確かに、レベルやスキルは個人情報だ。コレクターにとってはあまり外に漏らしたくない物でもある。万が一ダンジョン内で犯罪者に襲われたとき、情報が相手に渡っていては不利となるからな。


「ただ、世界最高峰のコレクターたちに関してはその三人で確定だとは思うけどな」


「我も同意だ」


 あまりに強すぎるのであれば、情報の開示など痛くもかゆくもないだろう。そもそも、彼らを襲おうとする人が現れない。


「俺が今からヨルと戦ったとして、パワーレベリングは出来ると思うか?」


 ヨルのレベルについて聞いたところで、次は俺のレベルについて聞いてみる。だが、まあ結果は俺も薄々感づいてはいるんだが。


「無理だろう。レベル差がありすぎる。レベル上げどころか、ただの蹂躙で終わりかねない。そも、ダンジョンのモンスターがコアに攻撃できるとも思えん」


「ん?どういうことだ?」


「本能のようなものだな。主には分からんだろうが、我は主に攻撃しようという意思が湧かぬ。人間のような理性を得た故、ある程度は抑え込めるかもしれんが我は気が乗らんな」


「なるほどな」


 コアはダンジョンの生物にとっては命と同義だ。コアを破壊すればダンジョンが崩れる。それは自殺行為だ。そのため、ダンジョンの生物は本能的にコアを守ろうとするのだろう。特にマスターともなれば。


「ヨルで無理なら、他のモンスターはどうだ?浅い層に現れたモンスターなら俺でも対処できるし、何より襲ってこないんだろ?」


 ダンジョンのモンスターとして、俺には逆らえないだろう。ヨルは理性を獲得したため例外だが、他のモンスターはそうではない。


 そう思って聞いてみたのだが、ヨルは呆れたようだった。


「……楽しいか?それ」


「……」


 やめよう。レベルの割に経験が足りていなくて技術も素人同然のなんとも言えない人間が爆誕するだけだ。そんなのただ身体能力が高いだけの人間やん。

 やはり、ズルはいけないということだろう。レベルが高くても宝の持ち腐れとなっては意味がない。


「まあ、いいや。今のところはダンジョンの拡張をメインにするつもりだし」


さて、ヨルの実力は大体分かった。この世界での最強格であるということだ。そんなヨルの主である俺のレベルは1。悲しくなってくるね!


「ダンジョンを拡張するにあたって、気を付けた方が良いことってあるかな?」


「うーむ……。主の見解では、いや、事実としてダンジョンとは異世界なのだろう?ならば気を付けることなど聞かれても、地球の常識は通用しないだろう。ファンタジーに物理法則を適用させるのはナンセンスだな」


「なるほどね。じゃあ、あんまり気にせず拡張しちゃっていい感じかな」


「良いのではないか?どれだけ拡張したところで、物理的な地盤の問題や地下にある建物の基盤や水道管などは権能の力で何とかなるだろう。ダンジョンが存在する次元を弄ってしまえばいい。地下空間の権利関係などは、国が考えることであって主が考えることではあるまい」


 ヨルにある俺の知識は、俺が権能として可能な範囲すら把握しているようだ。正しくもう一人の自分だな。


「じゃあさ、今後のダンジョンはどうすればいいと思う?地下で物凄く拡張した後に入り口を作るのか、それともさっさとある程度ダンジョンとして完成させた後にまだ成長を続けるか」


 俺がそう聞くと、ヨルはなんとも複雑な表情をしている。ような気がする。ドラゴンだから表情の変化とかは良く分からない。だが、微妙な雰囲気であることは察せられる。


「まず、ダンジョンとは突発的に現れる物だという前提が主には欠けておるぞ」


「ん?…………あー」


 あー……。


「ダンジョンは、徐々に成長するものではなく瞬間的に膨張し、自らの成長限界を迎えることで完成する。それが現在の定説であろう。成長し続けるダンジョンなど、異端も異端だ。主がどのようにダンジョンを作るつもりなのかは知らんが、どのみち騒ぎになるのは間違いない」


 そうだな。今の俺の目標は日本中にダンジョンを拡張すること。

 コアとしての権能を手に入れて、自分の力に酔いしれていて忘れていたがそもそも、ダンジョンとはいつの間にか瞬間的に現れる物だった。


「主の力は上限がないのか?」


「なさそう。今のところはね」


「であれば尚更、異常事態だな」


「はあ……。大事なことを忘れてたよ」


 成長限界がないダンジョンなど、前代未聞だ。

 紫色のダンジョンコア。俺と一体化したこの塊は、どうやらとんでもない代物だったようだ。


「まあ良いではないか。主は好きにダンジョンを作ればよいのだ。そんなことは主が考えることではないしな」


「……そうだな。俺は俺がやりたいようにやる。その過程で世間が何を騒ごうが気にしない。うん。ありがとう、おかげで決心がついたよ」


 どうやら、俺はよき理解者を得たようだ。ドラゴンだけど。

 とは言え、孤独ではないという事実は俺の心を軽くしてくれる。


 そうだな。俺は俺のやりたいようにやろう。もう今更だ、身勝手に好き勝手にしてやろうではないか。


「まあ、主がコアであるとバレることは推奨せんが」


「それは、そうだな」


 身バレ、ダメ、ゼッタイ。

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