夢色の君へ

海亀君

第1話 夢色に彩られている

「ちょっと、こんなところでこんなことして楽しい?」


「あぁ?」


 朝、学校へ向かう途中で男女が口論をしていた。 何、朝っぱらからもめ事を起こしてるんだ。頭に響くだろ。そう思いながら佐藤悟は眠い目をこする。

 首を掻きながら、口論を傍目にみてみると、そこにはガラの悪い男子と見覚えのある女性がいた。見覚えのある女性はクラスメイトの清水美志だ。

 正義を貫く彼女は制服の着崩れから男同士の喧嘩など小さいことから大きいことまで、がみがみと愚痴を言いながら怒る。

 はぁ、こんなことでも喧嘩しているのか。つくづく大変な生き方をしているなと感じる。

 最近の人達は触らぬ神に祟りなしと言わんばかり基本的に無視をするが、彼女は違う。まぁ、俺には関係ねぇ話だな。


授業中、陽射しが自分の体を包み込んでくる。その陽射しに応えるように睡魔に身を委ねていると先生に怒られる。こうして、何気ないいつもの学校生活を送る。


 放課後になり、家へと帰る。夕陽を見ながら、帰っているとたまに思う。

 こんな生き方でいいんだろうかと。俺以外のみんなは、きっと自分にはない夢のために明日へと足を運んでいるのだろう。なのに、自分は無気力に空虚の中をさまよっている。んー、何か夢を持てば変わることができるのかな。

 ……そういえば、明日提出の課題鞄に入れたっけ。


 見慣れた学校へと戻り、忘れ物を取ろうとしたとき、教室にはまだ誰かがいた。慌てて、教室のドアからバレないように覗くと、清井美志が机に突っ伏していた。


 「気高い心と行動って何なんだろう。お姉ちゃん。私、もう分からないよ」


 何の話だろうか。それにいつもの気が強くて、正義の仮面をかぶった人じゃない。ただの、か弱い女の子だ。


「こう、なよなよしてちゃ駄目だよね」


 彼女はそう言って立ち上がる。教室の窓から夕焼けが差し込み彼女を優しく包み込んでいる。彼女が夕焼けに身を包んでいるからだろうか。いつもは見ない、少しのあどけなさといつも通りの凛とした姿が見えた。


「誰?」


 やべ、バレた。


「忘れ物を取りに来ました……」


 颯爽と自分の席に行き、お目当てのものを確保するとそそくさと教室を出ようとする。


「見た?」


「な、なにをでしょうか?」


「なら、いい」


ふー。少し盗み聞きをしていたことはバレていないようだ。よかった。


「あ、ちょっと待って」


 ギク。肩が少し上がる。


「な、なに」 


「もー。ネクタイが少し曲がってる」


 そういいながら、ネクタイをピット結ぶ。


「ん、これでよし」


「あ、ありがとう」


 にこにことしながら、腰に手を当てる彼女。

 窓から、さッと生暖かい風が吹く。すると、ふわふわと視界がぼやけてきて、目をこする。そうしたら、なんていうことだろうか。目の前は彼女を中心に夢色へと彩られていた。


 きっとそのときだ。君に恋をしたのは。

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