第3話 バレンタインのお返し
「~~♪」
「えぇー意外だな柊、何気に口笛上手いな」
「意外ってなんだよ」
秘密基地はさておき、コンビニに着くまでの間、くだらない話で盛り上がる。卒業したと言ってもほんの一時間前まで高校三年生だったのだ。頭の中も、心の中も、もちろん見た目も変わってない。まぁ、それは当たり前なんだけど。
ゆっくりと歩いて行く途中で、あるお店のショーウィンドウの前で、僕は思わず立ち止まった。並んだお菓子の美しさになぜか? 目を奪われてしまったのだ。よく見るとそこは、有名な洋菓子店『プティカド・ボヌール』。
お店の名を聞いたことはあったが、店構えからして高そうなイメージだ。お菓子とは思えない綺麗さに、僕はすっかり心惹かれていた。
「す、凄い……な」
ボソッと呟いた僕に、後ろから声が聞こえてきた。
「やぁ、いらっしゃいませ」
ピカピカに磨かれたガラス越しに見たその声の主は、このお店の主人だろうか? 見るからにパティシエのコックコートを着た、優しそうな笑顔の人だ。背が高くて、声も渋い。年齢は若く見えるけど、まるで英国紳士のような大人の男性が立っている。
「あっ、いえ、あの、違……すみません、失礼しましたぁ!!」
「えっ? おい、君――」
僕は、挨拶とお辞儀をすると、逃げるようにその場を去った。
親友を、置いて……ぴゅ~ん。
◇
「う、うはぁーはぁーはぁ……」
「ひ、ひでーよぉ~、柊!!」
「ごめん、はぁーはぁ、本当! ふぅ~……ごめん」
割と足は速い方らしい僕は、目的のコンビニまで一目散だった。
二人してヒィーヒィー息が切れていた。その呼吸が落ち着くのを待ってから、僕に置いてかれた親友が、意地悪な顔で口を開いた。
「あっ! そうそう。柊はりらちゃんへのホワイトデー、何あげるのか決めたのか?」
いつもの揶揄い口調でニヤニヤとしながら、僕の顔をのぞき込むイケメン。そう、こいつはモテモテのすごいイケメンなのだ。
さっき「秘密基地に行く!」とか、少年のようなことを言ったり、そういうお茶目なところの顔とのギャップが、女の子にはキュンとくるらしい。
その、モテモテイケメンの名前は、
泉海は、悔しいが勉強は出来るし、運動神経も抜群、性格もそこそこ(まぁ良いか)。極めつけは、男の僕でも格好良いと思うくらいに、
「……はぁー」
「えぇー何で溜息ぃ? またまた~しゅ・う・く・ん♡」
「やめんかーい」
(そりゃ溜息も出るわなぁ~)
「まぁ、そう怒るなって。まだ決めてないのか?」
「あぁ、うん。何やったらいいのか、正直分からなくて」
僕は、生まれてこの方一度も。十八年間で付き合ったことが一度もない。それこそバレンタインチョコをもらった事はあったが、友チョコ~とか、そんなのだった。りらと付き合い始めてまだ半月……好みも何もまだ全然分からなかった。
「そうか……。去年はお返し何あげたの?」
「…………」
「おーい、柊? あぁ、あれか。定番なクッキーとか?」
「……えっ?」
「えって、エッ??」
「えーっと。エッ??」
――やばい、ヤバいぞ。
「おい、柊。お前まさか?!」
「去年……お返ししてない……ような~あっはははぁ♪」
「あはは~っ♪ て、お前マジか、ウソだろ」
――いやぁぁぁぁ!!
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