第2話 卒業式
卒業式。僕たちは様々な思いを胸に、心の準備を整える。式は順調、進むにつれて「グスッ……」とちらほら泣く声が聞こえてくる。そして、在校生からの送辞、卒業生の答辞。
最後になり、閉会のことばで終わる……かと思いきや!!
皆、一斉に驚いた。最後に熱い言葉で締め括ったのは、司会進行役の先生ではなくて、三年生の教育担当をしていた先生だった。
(あだ名は熱血気合せんせーでした)
『さて、最後になったが、卒業生の諸君。これからの未来、どんな事があろうと、諦めるな! そして、何事にもチャレンジ精神を忘れるな!! 私からは以上だ。うむ、気合いだ!!』
(うん、気合いだー! 笑うよ)
退場前の卒業生にどうしても言葉を送りたい!! と、謎のガッツポーズと突然の一分間スピーチを始めた熱血せんせー。こんな異例な卒業式の閉会も、なかなか無い事だろう。聞いていた卒業生の皆が、どう感じていたのかは知る由もないが、僕自身は何気に元気をもらい、面白くて笑っていた。しかしよく見ると、まわりで聞いていた在校生や先生たちの表情も笑っている。
しんみりと感動の後に「これか!」と、その勢いに校長先生までもが失笑しているのがチラッと見えた。
(さすが! 先生の熱弁に敵う者なしッ!! だな)
――でもなぁ。
「チャレンジ精神、かぁ……僕には程遠い言葉だな」
「んあっ? どうした柊?」
「んえっ? あーいや。何でもない」
思った事が口から出ていた。隣にいた親友に何と言ったのかを聞き返されたが、上手くはぐらかす。危ない危ないと思いながらも、質問をかわした僕は溜息交じりで一人、下を向いて笑った。
卒業式、そして最後のホームルームも無事に終わり、卒業生は教室や廊下でわらわらと賑わっていた。そんな中、長い間お世話になった思い出の校舎に、僕は心の中で感謝の気持ちと別れの言葉を告げた。
◇
「んじゃねぇ♪ 私たち、これから女子会するからぁ」
また卒業おめでと会するからそん時はよろしくねぇ~と、陽気に話すのは、学年委員長の女の子。最後の大仕事だからぁ~と張り切っている。しかし今日は女子会とやらをするらしく、女の子たちは盛り上がっていた。
(あっ! そのグループの中央で、キラキラと光輝く場所がぁー)
ハイ、それは僕の可愛い彼女こと、りらのいる場所のことだが。
あまりこういうのには参加しないと聞いていた。でも、今日は卒業式という特別な日だ。それで参加することにしたのだろうと感じ取る僕。そして、自分でもよく分からないが、僕はそんなりらの困り顔な姿をなんだか微笑ましく、さらに愛おしく思えてしまったのだ。
「しゅ、柊君、あの……」
「りら、卒業おめでとう! ってか、僕もだけどね!」
すると、頬を少しピンク色に染め「うんっ」と言い、笑う。
「りら、いいなぁ♪ 楽しんで行っておいでよ。僕らもちょうど今から……」
と、言いながら僕は振り返り、後ろにいた親友に話を合わせるよう、鋭い視線を向けた。
「そうそう! りらちゃん、ごめん、柊のこと今日は借りるよー」
たぶん気を遣いすぎる(優しい良い子の!)りらは、行ってもいいものか? と、気にしているのだろうと思った。なので僕は、りらが気にせずのびのびと自由に楽しめるように、なんとか安心させたかったのだ。
「あっ……う、うん。ありがとう!」
いってきまぁ~すと、嬉しそうに大きく手を振りながら、十数人はいるであろう女の子が集まる中へ、りらは戻っていった。
それを見送りながら、自分たちの予定が白紙なことに、今更ながら気付く。
「ありがと、話合わせてくれて」
「いいっていいって! ホントのことだろ? 今から借りまーす、つってな」
と、笑いながら言ってくれる。
「あはは。あっ、僕らは今からどうするよ?」
「うーん……参ったなぁ! 卒業式終わりでたぶんどこ行っても人多いだろうな。それに、予約なしじゃあさ、店で昼食は厳しそうだしな~」
「たしかに、だよなぁ……」
そう言いながら僕は、腕時計で時間を確認する。ちょうど午後一時だ。
「そうだ! 柊よ~コンビニで何か買って、秘密基地にでも行くか?!」
「おぉーいいねぇっ!! って、何処だよ? それ」
無事に卒業することが出来た高等学校の入り口で、僕たち二人は大笑いし、いつものように冗談を言い合っていた。
(明日からはもう、高校生じゃないんだよなぁ)
僕は心の中で一人、ほんの少しだけしみじみ。そして、門に飾られた花輪をくぐり抜け、高校最後の瞬間にさよならをしたのだった。
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