第18話 ラブホテルでの一幕

「で、俺の顔面殴ったくせにどうしてラブホテルの前にいるのかなあ?」


加奈の様子を伺うと、「仕方ないじゃない」と言った。「ここしかないんだから」

あっそう、と俺は深く相手にはせずズボンの中から財布を取り出した。

俺達の顔を見た受付のお姉さんは、眼を丸くして「ごゆっくり」と言って鍵を渡してきた。

エレベータに乗っているとき、加奈は「どうして驚かれていたんだろう」と呟いていたので、俺は彼女の肩を抱いて、「美女とイケメンがいたからだろう?」と囁いてやると、獣たらしく睨みつけてきた。


「ナルシストですか? 気持ち悪い」

俺は肩を竦めて、「怖いなあ。そんなに怒らないでくれよお」と言う。

それから扉の前まで来て、鍵を開ける。


「こういうの、ちょっと緊張するよな」


「はい……」


「あのさ、加奈って処女?」


「はあ⁉」


「いや、そうだったら嬉しいなって思って」


加奈は赤面しながら、「そ、想像に任せるよ」とツンとして言った。

俺と加奈は部屋に上がり、ベッドの上に腰かける。

この緊張が高まった空気を和やかにするために、テレビを点けると女性の喘ぎ声、つまりはAVが流れた。すぐに電源を切る。

すると自然に手が触れた。俺はすぐに立ち上がって、ジャケットを脱いだ。ネクタイをゆるくして、振り返らず背中越しで加奈に「風呂でも入って来いよ」と言った。


「……分かった」


彼女はバスルームへと姿を消した。

俺は息を長く吐き、腰に手を置き床の一点を見つめた。そうして興奮を抑えようとして。

「なに俺は興奮してんだよ。恥ずかしい」

タオルで顔でも洗おうと、箪笥の中を開けるとコンドームがベッドの上に落ちた。

 

それを俺はポケットの中に入れた。もしかしてを妄想しての行動だった。

溜息をついて、ベッドの上に寝転がる。天井にある鏡に自分の姿が映るが、とても滑稽だった。すると数十分後、加奈がバスローブを身に着けて現れた。とても、艶っぽく色っぽかった。


彼女は俺の隣に座る。シャンプーと石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。

俺は、風呂入ってくるわあと気まずい空気から逃げるように立ち上がった。が、その拍子にポケットからコンドームが落ちた。それを拾う加奈。


「そ、それは……」


「――したいの?」

彼女と見つめあう時間が過ぎる。しかし、俺は意気地なしだった。


「ごめん。俺はお前を傷つけられるほど、出来た男じゃねえ」


「じゃあ、なんでズボンのポケットの中に入れてたの?」

期待してたからだろ? そう彼女は訊ねているのだ。

俺は溜息をついて、観念した。ベッドにもう一度座る。


「俺さ、童貞なのよ。……でさ、TIに入ってたら、もしかしたら死ぬかもしれないだろ。童貞のまま死ぬのは嫌だなあとか思ったりさ。でもよ、だからと言って打算で女は選びたくねえし、真面目に、こいつとならセックスしたいと思う女だけとやりてえのよ」


加奈は無表情に、「その真面目にしたいと思う女性に私は当てはまらないの?」と訊いた。


俺は彼女の肩を抱き、「俺は、こんな環境でお前を抱こうとするほど、お前を雑に扱ってねえんだよ。まあ、ちょっとしてみてえなとか軽はずみなことは思ってしまったが」と囁いた。


「なんか分からないけど、宗谷君ってプレイボーイな感じがする。本当に童貞なの?」


「本当だよ。じゃあ今度こそ風呂に入ってくるわ」


バスルームへと入ると、湯が張られていた。

俺は服を脱いでそれに浸かった。

「格好つけすぎたかな」

 

  






























































































































































































































































































































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