加奈との嘘恋
第16話 普通の少女として、死にたい
俺はグラウンドを走っていた。
それから、息が切れて地面にぶっ倒れた。
言わなかったが、今は夜。空には満天の星空が見える。
「隣、いい?」
俺は腰だけ起き上がって目線を上げる。そこには加奈が立っていた。
「いいけど。またなんで?」
彼女は有無を言わず隣に腰掛けきた。それから――。
「昼のこと、ごめん。なんか、嫌な気持ちにさせちゃったでしょ」
「ああ。あのおっぱいがでかい少女ね」
興奮したわあ、と言うと加奈は睨みつけてきた。
「やっぱり私の勘違いだったみたい」
「いったい何の話なんだよ。意味わかんねえって」
「日向律子。その子が昼の胸が大きい少女。あなたのことが好きなんだって」
「俺のことが好きであんな行動取るなんて、性的にアグレッシブな子なんだな。驚いたわ」
俺は苦笑する。すると加奈は、静かな声で、「やっぱり男子ってああいう子が好きなの?」と訊ねてきた。
腕を組んで、「まあそりゃあ、胸がでかいって言うのも一つのモテポイントだからな。でもおっぱいなんてただの詰め物なんて言う奴もいるにはいるぜ」と励ましてやった。
すると加奈は真っすぐ俺を見つめてきた。
「君はどうなの?」
「俺はあ、エマ・ワトソンみたいな女優が好きだな」
すると加奈はクスリと笑った。「もしかしてハーマイオニー? ハリーポッター面白いよね」
俺は寝っ転がって、「ここにいると死への恐怖心なんかで、エンタメなんか楽しめねえけどでも、人生そのものがエンタメだぜ。そう、俺は暁に言われた」
――君のドラマ、見せてもらった。感動した、と。
もし、暁の言葉通り、俺のあんな行動があたかもドラマみたいな虚構だと定義づけられると、ずいぶんと肩の荷が降りるものだ。所詮、俺はいつもあんな正義を抱えて生きているわけじゃない。ドラマのト書きのように、あの場面だからこそ、取った行動なのだ。
「ねえ。もし私が、あと半年しか生きられないって言ったら、どうする?」
「どうもしないな。小説だったら、そこからドラマが生まれるだろうけど、生憎ここは餓鬼には地獄の現実だ」
「ならこれは上官命令よ。私と半年間だけ普通の日常を過ごして」
俺は顔をしかめた。「なんでそんな往生なんだ。本当に半年間しか生きられないのか?」
加奈は顎元に手をやりながら、まるで思案するように語った。
「テロ組織の下っ端のイシュメールから言われたの。私が十二歳の時にね。君の脳のマイクロチップは七年後にはショートするように仕掛けてある。それが私がもし逃げた時の対策だと」
俺は言葉を失った。
「もう残り少ない時間を、父親の仇を取るんじゃなくて、普通の女の子として過ごしたい」
お願い、と彼女は言って俺を抱きしめた。彼女の頭を撫でる。
俺はどうすればいい……。
この、未来を呪われた少女を、救うべきなんじゃないのか。
「分かった。駐屯地から抜け出そう」
彼女は涙目でありがとうと笑った。
――その夜、俺達は駐屯地から抜け出した。
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