第11話 スーパーソルジャー
三日後。招集がかかった。駐屯地の外に赴くと、白髭をはやした姿勢正しく立っている、陸将の姿があった。その隣に伊藤一等陸士の姿も。
「今朝、ゴーストと呼ばれるテロ組織から、一斉蜂起の知らせがあった。奴等は現在、西部北隅駐屯地にて”シャーマンドラッグ”の散布を行い、自衛官、司令官、もといTI部隊員が奴等の脳を覚醒させ、傀儡的にさせた。その部隊員たちは、”スーパーソルジャー”と呼ばれる状態に陥っている」
スーパーソルジャー? 何だそれ。
「きっと激戦になるだろう。特殊作戦群はもう向かわせている。あとはお前たちだけだ」
では、ご武運を。陸将の男が言った。
「敬礼!」
全員が立ち並び、敬礼をする。
それからガンシップが無数に並ぶヘリポートへと兵士は向かい、どんどん乗り込んでいく。「GO」「GO」「GO」
上昇するヘリ。それから西部へと向かった。
俺は、隣にいた同期のTI兵士に、スーパーソルジャーとは何だと訊いてみる。
「よく分からないが……きっと、霧島加奈のような奴のことだろう」
「あの……小脳に機械が埋め込まれているという、大尉のことか?」
「それ以外に誰がいるんだよ」きつく睨まれる。
「彼女は自分のことを、幻影の魔女と言っていた。それはどういう意味なんだよ」
そいつは嘆息をついた。こんな緊急事態にお前だけは無関心なのかよ、といったように。
「大尉は、異常な身体能力を有している。驚異的な動体視力。動体反発心や、伸縮能力。とてもバケモンじみているよ」
すると、ヘリに無線が入った。「メイデイ、メイデイ。こちらピークォド。特種作戦群、霧島加奈が争闘中。半数の敵兵士が死亡」
その無線は、加奈の力が異常であることを知らせることだった。
北隅駐屯地に着くと、霧が立っていた。
俺達兵士は、シャーマンガスを吸わないようにガスマスクを装着し、小型拳銃を構える。
銃声が、遠方から轟いている。
「気をつけろ。スーパーソルジャーは異常なほどの身体能力を持っている。絶対に銃を構えておけ」
二期上の先輩TI兵士が言った。
俺達は頷いて、じりじりと霧の中に入って行く。
見通しが立たないなか、ブーツのきしむ音だけが聞こえる。
「うわあああああああああああああ」
「殺してくれええええええ」
阿鼻叫喚と銃撃音。もはやカオスだった。きっとこの霧、いやガスを吸った兵士が錯乱しているのだ。
すると、かすれた視界の中心から右へかけて赤い閃光が走った。それが拳銃が弾丸を発射する際に生じるマズルラッシュだということを、気付くのに時間がかかった。
その方へ進んでいくと、地面に転がっている陸上自衛官の遺体があった。
「おい、これ――」
俺は振り向いた。だが、仲間はいなかった。
「なあ、おい‼」
恐怖で足がすくんできた。舌打ちして、腰元にあるサバイバルナイフで手首を切り付けた。そうして死の実感を紛らわすことで、また前進できる。
すると、右足首が撃たれた。喘ぎ、これ以上の進行は不可能になる。左足の義足の不慣れを、右足に頼っていたからだ。右足が使えないんじゃあ動けない。
煙草の煙の香りが漂ってきた。どんよりとした、重たい空気だ。
「君には餌になってもらうよ」
大笑いする声。それから右手首と左手首を射撃される。俺は地面に崩れた。
一体、どこから狙ってやがるんだ。こんな視界不良な中、ピンポイントで。
そうしたら、霧から霧島加奈が現れた。手にはスナイパーライフルを握っている。
俺の姿を見るなり、舌打ちをした。「キリストの磔とは、趣味が悪い」
キリストの磔? 確かにいま俺は手首をだらんと地面に押し付けて、そこから出血がある。キリストも、両手首に釘を刺されていた。
加奈は俺の頬をそっと撫でて、「無理しなくていいから。もう眠たいでしょう」と囁いてきた。確かに、もう意識を失ってしまいそうだった。
「でも俺には……」
「言わなくてもいい。あなたの義務は私が受け取った」
「ごめん、加奈。使い物にならなくて……」
「大丈夫だから。じゃあね」
加奈が霧に消えた。
俺は瞼を重く閉じた――。
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