第2話 投資はデスゲームみたいなもの?

 投資について悩んでいる俺に、女上司の皆川みながわさんがアドバイスしてくれる事になった。


彼女は始めたばかりらしいが、他人の意見は貴重だ。色々参考にさせてもらおう。



 昼休みになり、俺は自分のデスクで昼食をとる。小さい会社に社員食堂はないからな。俺のようにデスクで何か食べるか、飲食店で済ます事になるだろう。



 時刻は12時25分。俺は食べ終わったものの、皆川さんはまだ戻ってこない。俺がデスクで済ませるタイプなのは知ってるはずだし、彼女の食事の様子も時々見た事がある。


所詮時々だから、今日は飲食店か? なんて思った時…。


「ふぅ…」


大きく息を吐いた皆川さんがオフィスにやって来た。その後、俺の元に来る。


「遅くなってゴメンね尾形おがた君。会議がやっと終わったのよ…」


「それは大変でしたね。お疲れ様です」


「早速、投資の話をしましょうか」


「会議が大変だったんでしょう? 別の機会で良いですよ」

そもそも、俺のワガママなんだからな。


「気にしないで。さっきの会議はずっと聞きに回ってから疲れたの。だから今度は話したいというか…」


「皆川さんの負担になっていなければお願いしたいです」


「わかったわ。ちょっと待って」


皆川さんはビニール袋を持ちながら、俺の元に椅子を持ってきた。


「この袋におにぎりとかパンが入ってるの。悪いけど、袋を尾形君のデスクに置かせてもらうわね」


「もちろん良いですよ」


「ありがとう。時間の余裕はあまりないから、食べながら話すわね」


「はい、お願いします」



 「投資に興味を持ってる尾形君に、言っておきたい事があるの」


「何ですか?」


「それは…、“投資をやらないのも立派な選択”だという事よ」


「立派? それはないでしょう? だって国が推してるんだから、なるべく早くやったほうが良いのでは…?」


俺は臆病だからできないんだ。理由はどうあれ、立派なんて思った事はない。


「尾形君、漫画とかゲームは好き?」


「好きですけど…」

何でそんな事訊く?


「投資は“デスゲーム”みたいなものなのよ」


「デスゲーム…ですか?」

皆川さんからそんな言葉が出るとは…。


「そう。よくあるでしょ? 最初の死亡者が出た後、メンバーが一堂に集結するの」


「ありますね」


「それからあるメンバーが『もうお前らとはいたくない! 単独行動をとる!』とか言い出すのも王道よね」


「確かに」

そう言う奴が、次の死亡者になりがちだ。


「この場合『単独行動するリスク』と『残るリスク』の2つが存在するでしょ?」


「はい」


「単独行動すれば安泰かもしれない。でも1人だから、犯人に立ち向かうのは大変でしょうね」


「ええ」


「それに対し、残れば他のメンバーと助け合えるけど、犯人と接する機会も増えるわよね? 殺人鬼が単独行動をとるのは考えにくいから」


つまり、殺される隙を与えやすい事になる。…考えるだけで怖いな。


「単独行動するにしろ残るにしろ、その行動に優劣はないのよ。それは投資も一緒。してる人が偉いとか、してない人はダメみたいな事はないから」


「なるほど。引け目を感じる必要はないんですね」


「そういう事よ」


だとしても、興味がある事に変わりない。今訊くのは申し訳ないし、俺も自分から情報収集だ!



 「それにしても、皆川さんがそういうのに詳しいとは思いませんでした」

意外の一言では済まないレベルの驚きだ。


「私達は社会人よ? 学生みたいに趣味の事を話す余裕なんてないでしょ?」


「言われてみれば…」

俺達は仕事してるんだ。遊んでる訳じゃない。


「さっきの事で、前々から気になってるんだけどね」


「さっきの事?」


「単独行動のやつよ。あれ言い出すのって男の子ばっかりよね? どうしてかしら?」


「さぁ…」


「私は変わり者だから、普通に単独行動とるけど」


「そうなんですか?」


「だってプライベートは1人でのんびりしてるからね。人がずっとそばにいるのは苦痛だわ」


皆川さん、そういうタイプだったのか。新たな一面を知ったな。



 気付けば昼休みは終わりそうだ。おしゃべりはここで終了だろう。


「もうそろそろ昼休みが終わるわね。午後からも頑張りましょう!」


「はい!」


皆川さんは椅子とビニール袋を持って、俺のデスクから離れていく。


こんな短時間の雑談で、彼女を少し知る事ができた。毎日じゃなくても話し続けたいな~。そう思う俺であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る