第18話 旅 吹雪 波羅蜜の瞑想行 古い悪夢 死屍

 扨、聖なる学園都市アカデミアへ向かう隊列は。


 列の尖頭にアッシュール、ジョルジュ、アンニュイとアヴァとエルピス(「三人乗り)、イマヌエルとイユ(二人乗り。以下、同)、ユリアスとイリューシュ、イシュタルーナとダルジェロ、最後尾は独りいらふ。そのような順であった。

 

 イユが騎乗の寸前に振り返り、

「あゝ、聖なる白い神象の聖堂を出るのは、初めてだわ。イリューシュは一日掛で針葉樹の森まで下ってくれていたけど、わたしは初めて。何だかワクワクするわ。あゝ、帰って來られるのかしら。でも、そういうふうに心配するのも、何だか楽しい」

「帰って來られるかって?

 さあて、どうかな。まあ、いいじゃねえか、命なんて鳥の羽よりも軽い、って思っていた方が気楽で、幸せだぜ。

 掛け替えのない人生だなんて思っちゃ、重くてしかたねー、却って落胆ばかり、その上に忙しい。不幸っきゃねーぜ。鳥や魚の方が幸せかもな。わかんねーけど」

 イリューシュが大いに笑う。嶮しい地形を易々と龍馬、大羚羊、羚羊が渉った。徒歩ならば何ヶ月もかかるであろう。


 急傾斜を下り、絶壁を何キロメートルも降り、標高八千メートル地点の大氷河やクレパスを過ぎ、尖った嶮しい巨岩の群れを上がったり下がったり、ようやく生命のある場所へ、榛松の点在地に至る。そこを過ぎてさらに下り、針葉樹の森に入った。

 さらにさらに下って、修行者の集会所、今は無人となったヒナタに着く。

 アンニュイは騎乗から眺め廻し、

「ここは特に被害は受けなかったようだな」

 アッシュールがそれに応え、

「そうだな。ただ、人がいないだけだ」

 と言うと、ダルジェロはあの時に感じた虚しさを再び感じた。

 最後尾から、いらふが感傷を退けるように言う、

「もういい。逝こう」 

 だが、アンニュイは反対し、

「いや、尠しで良いから休憩すべきだ。戦士ではない者もいる」

 そう言って鍋を出し、火を焚いて湯を沸かし、鹽漬の干し肉で胡椒など香辛料も入れ、手早くスープを作って振る舞う。

「料理がうまいとは」

 イシュタルーナが感心すると、ジョルジュが、

「いつも、それで助かっている。戦場では、特に」

 ダルジェロは感激した。

「あゝ、おいしい。いつもひどい食事だったから」

 アンニュイは清廉な微苦笑をして、

「イユが持って來てくれた供物のお蔭さ」

 エルピスは黙って啜り、アヴァは尠し口をつけてイユに渡した。

「もう、いつもそうなんだから」

「ははは、またやってるよ。いや、しかし、あったかいものが最高だな」

 イリューシュが笑う。イユは頬を膨らませるも、

「何よ、もう。

 あら、でも、すごく美味しい。本當にうちにあったものなの?」

「むろん」

「熱いものは苦手だ。時間が掛かる」

 いらふが顔を顰めた。

「じゃ、逝くか」

 アッシュールはスープに雪を突っ込んで冷まし、ごくりと一息で飲むと、食事中の者も気に留めず、さっさと龍馬に跨る。

「まあ、待ちたまえ。温かいものを普通に食べたまえ」

「そうか。ふむ、そうだな、食べられるうちに食べておかねば」

「私の言っていることの趣旨は、そういうことじゃないが、まあ、よいか」


 十数分後、皆さらに進む。

 雪が降り始め、廃墟となったウラを過ぎて、アルダに着くと、ダルジェロはエルピスを思い遣ったが、彼女は相変わらず無感情であった。どれほど辛い経験であったかを痛切に感じる。


 アキタに着いた。ダルジェロは図らずも哀しみを覺える。廃墟であった。継母の実家も焼け跡しかない。アンヌも死んでいるに違いない。

「ここがダルジェロの住んでいた村だったな」

 アッシュールが言うと、ジョルジュが、

「そうらしい。酷たらしいことだ。人間こそ人間の天敵だ」

「そうかもしれぬ。ただし、奴が人間ならば、だが」

 アンニュイが気怠い涼やかさでつぶやいた。

 ダルジェロはアキタの滅亡という事態を予測し、また心配もしていたものの、きっと、じぶんはさほど哀しまないだろうと思っていた。だが今、強い悲しみに襲われている。

 同時に、「もし、家を出ていなければ、死んでいたかもしれない」とも思う。

 そう考え、運命の儚さを感じ、考え、想い、觀ずるのであった。いっそうのこと、じぶんなど生きる価値もなく、死んでしまえばよかったとも思う。

「すべては偶然に支配されている」 

 厭離の感情が湧いた。偶然の支配は赦されないという嫌悪の感情である。

「偶然は昏(くら)い。理不尽で、無明だ。非情で無情。ただ、物的な世界、物理的な原理だけが専横する、力だけの世界。

 だが、生命は飛翔する。差異を超越し。なぜ。いや、無差異なのだから、なぜはない」

 生命の飛翔、それは理窟抜きに直觀された。一つの覺りだ。

 憂いのまなざしでアンニュイが優しく訊いた。

「死者を悼み、弔いをすべきであろう」

 だが、ダルジェロはキッパリと言った。

「いえ。尠し手を合わさせてください。それだけで十分です」

 そう言って、イシュタルーナの大羚羊から降り、焼け跡の前に膝を突き、合掌する。

 イユも降りてダルジェロの背後に膝を突き、祈りの言葉を。

「あふむまにぱどめふうむ。

 どうか、死者の苦しみを癒し、平穏をお与えください。そして、生ける者たちのため、永遠の平和を」

 ダルジェロは驚いてイユを振り返った。実際、癒しを感じる。いや、その場にいた誰もが癒しを感じた。優しさの偉大さを知り、感激を覺えたダルジェロは、

「ありがとう。何とお礼を言っていいか。血族でもないのに」

 微笑んで首を横に振る。

「血族以上よ。生死をともにするんだから」

 イシュタルーナも深く感心し、

「癒しの咒だ。聞いたことのない咒であるが、なみの巫女よりも遙かに上だ」

 イリューシュが一番驚いていた。

「そんなことができたのか、イユ。俺も驚いているぜ」

「おばあちゃんに教わったのよ、むかしね。白い神象の時にも、小さい声でつぶやいていたわ」

「知らなかった」

 隊列は渓谷に沿って降り、ようやく街道に出た。

「この道を南に逝けば、アカデミア学園都市のあるイデア山に着く。そろそろ、古く尊き宿場町が見えるはずだ。壮麗な門や伽藍が」

 アンニュイがそう言うと、ジョルジュが、

「あればな」

 イマヌエルが眉を顰め、

「町を襲えば、アカデミアの軍が即時、動き出すでしょう。連絡が速やかだから。アキタやアルダやウラとは違う。けれども、その村々の情報も既に到達しているはず」

「そうだとよいが」

 いらふが興味なさげな無表情で、そう言った。アッシュールが吹雪始めた空間を透かし、

「運命はいつも理不尽だな。どうやら、町は無事のようだぞ。しかし、厳重な警戒体制だ。うむ、まだ日があるのに、門が閉じている。まあ、無理もないか」

 町は聖文字の浮彫された高い石積みの壁で囲まれる。門前に着くと、

「何者か」

 衛兵に厳しく誰何(すいか)される。

「こんにちは、と言うべきか、こんばんは、と言うべきか、ユリアスです」

「あゝ、ユリアス殿、失礼いたしました。ささ、どうぞ。アカデミア警備隊北部駐屯所警邏部巡査係長モッゼーラと申します。お泊まりですか? すぐに旅籠の者を呼びます」

 イリューシュが感心し、

「有名なんだな、ユリアス。最重要人物扱いだ」

「場所に寄りますね。国によっては入国禁止や追放、強制送還です。王族の出身ですが、庶子だし、王の意に叛いて自由に各国を放浪していますから。

 ですが、ここアカデミア天領では、眞理を最重要事項としているため、政治的忖度がなく、学長ユリイカ殿との拝謁も許され、国賓扱いです」

 最高級(飽くまで、その土地レベルで)の旅籠に泊まる。イユは感激し、悦んでいた。

「凄い。初めてだわ。あゝ、この世界にもこういうところがあるのね。夢みたい」

 豪奢な晩餐、三つの部屋、アンニュイとイマヌエルとユリアスとダルジェロが同室。アッシュールとジョルジュとイシュタルーナとエルピスが同室。あと一部屋はイリューシュとイユとアヴァといらふ。 

 アンニュイとイマヌエルは、可能性が低いとは思ったが、エルピスの里親になる人がいないか尋ねるなどし、深夜に及ぶ。

 ダルジェロは心を鎮め、想いをなくして心を精妙にし、甚深微妙な瞑想を深めた。觀ず。

「超越するためには、考概ではだめだ。次元の異なる思惟、思惟ではない思惟が必要だ。顕在意識は大海の表面をゆらゆらする木の葉でしかない。その水面下には個人を遙かに超えたアカシック・レコードがあり、一切の物象・現象の情報、全知識、現実が在る。全宇宙世界が丸ごと内藏されている。解脱した全知者、一の佛陀が一の佛国土を開闢する話も満更出鱈目な話ではない。華厳なるふしぎだ。強裂に希求し、微妙(みめう)に求究すればできる」

 裂士が、なぜ、神懸かった能力を使えるのかもわかったような気がした。

「彼らは何だかの強烈な体験によって魂魄の眞奥、無意識下の最奥の深層をアンロックしたんだ。解放の深浅大小はあるが、それで人間離れした能力を持つようなったんだ」

 その頃、イリューシュは悪夢に魘されていた。

 その少女の映像が裂大陸海洋(マル・メディテラーノ)の紺碧の海を背景にゆらゆらと陽炎のように立っている。

 いゐりや(彜巸璃啊)であった。まだ生きていて、微笑む。その美は天の領域であった。彼女は実在する眞理(アレーティア)である。神の言葉であった。ポジ・ティフのごとく。すなわち、『龍肯の聖剣』のごとく。言葉や思惟ではない、実在である。物的眞究竟眞実義であった。

 いゐりやの眞髓は双眸である。眸の綾を做す虹彩は、精細緻密なる青の氾濫である。青、蒼、碧、群青、瑠璃、青紫、紫青、濃青、藍、紺、濃紺、青緑、翠、翡翠、深山烏揚羽蝶の青、チュニジアン・ブルーなどなどが三次元の立体モザイクになったかのような、海潮のような深い繁縟な燦々爛々たる玻璃のようであった。

 碧く燦々たる光を鏤めて煌めき、瞭らかに晰らかなる睿らかさによって鮮やかなる青、清み明けし蒼、濃い紺と藍の光燦をBrilliant cutされた金剛石(ダイヤモンド)のように亂反射し、深く濃く強く烈しく熾ゆる眩い炎であった。

 瞳孔の水晶体の透明度は、遙か無限の彼方まで見透かせる純粋透明である。一切の生存を絶つ絶対の真空であった。無限に見透かせるという状態を想像できるであろうか。無限の透明を想像せんとしても、銀色の背景を挿入せざるを得ず、他の思い描き方がない。純粋のなかでは真核生物も細菌もアーキアも生きられぬ、純潔による生存の根絶である。

 微風のごとき髪は浄化の詩情、神聖なる讃美歌が込められ、かろらかな光の氾濫する紫磨黄金の豪奢な瀧のよう、無数の星を随え、綺羅綺羅と燦めいた。

 膚は初雪のような白皙、萌え初めの芽のように柔らかさに、初々しく透る。

 あふれこぼれる燦爛の笑顔は苦悩の癒しであり、魂の救いであり、誰からも愛される眞なる太陽であった。

 実存する眞究竟眞実義である。言葉でも、思考でもない。一切考概ではない、絶空であった。

 それでいて、未だ十四歳の華奢な少女である。イリューシュも同じく十四であった。

 永遠の蒼穹たる美しき海原に囲まれた海鳥島(エル・パッハロ・デル・マル)の生活は素朴で美しい。

 椰子の木々、白い砂浜のあちこちにある白い流木を組んで作られた稚拙な桟橋、風はいつも乾いていた。

 赤道直下、世界の眞ん中にある島、世界の臍とも呼ばれている。宗教はヴァルゴ教と南大陸の羅教が共存していた。 

 羅教の司教ラムゴーンは聖職者にあるまじき生殖欲からいゐりやに対して邪な恋情を抱き、その想いがかなわぬと逆上し、又イリューシュとの仲を疑い(実際には何もなかったが)、魔女の疑いで訴訟し、躬ら異端審問官として裁き、ついに焚殺刑に処すことを決す。

 煙で早々に窒息死せぬよう風の強い海岸の高台を選び、十字架に架けて柴を重ね、火を焚く。

 泣き叫び、肉が焼けて骨が見えてもまだ死ねず、気絶してはあまりの熱さに意識を戻してまた気絶する。それを繰り返すうちに発狂し、その絶叫と暴れ悶える姿は、もはや、いゐりやではなかった。イリューシュの精神は崩壊する。哭き裂けて斃れ伏し、そのまま夜を明かした。

 このようなことがあってよいものか、この世の一切の矛盾、すべての悪を憎悪し、理性の世界、永遠の平和を希求せざるを得ない、人ならば。彼の魂も裂ける悲痛は想像に餘りあり、想像を絶す。

 再び顔を上げた時、その顔は凄絶なる修羅の顔であった。その夜、ラムゴーン司教の住む厳重な警戒の宮殿の司教寝室から凄まじい絶叫が一晩中、響いた。誰も助けに來る者はない。なぜなら、全員惨殺されていたからであった。司教の死骸は獰猛な獣に牽き裂かれたかのようである。メタルハートの仕業という説もあったが。

「ぅうわああああああああーっ」

 叫びとともに、イリューシュは眼を醒した。

「どうした?」

 いらふが問う。イユは諦めた顔で、

「ごめんね、いらふ。時々、こうなるの」

「ハア、ハア、ハア、ハア」

 イリューシュはまだ息が荒く、完全にはじぶんに戻っていないようであった。

 いらふは尠し哀しげな眼をした。

「意外だな。自由闊達、豪放磊落に見えるが、深層心理に深い闇を宿しているようだ」

 その時。


「ん?」

 いらふは何かに気がついた。

「静かに。アヴァは私が抱いて運ぶ。イリューシュを正気に戻して。早く」

「え、え、何、何なの? まさかメタルハート?」

「違う。しかし、敵であることに変わりはない。着替えて。早く。でも、抜かりなく。外は寒いから。ともかく、急げ、イユ」

「え、どこへ逝くのよ、だって、そっちは」

 蒼白な顔の眼窩いっぱいに眼を瞠く。いらふは冷たく、

「窓からに決まっている。廊下に出てどうする? 戦闘になれば、一般人の犠牲が出る。さあ」

 黙ってうなずくしかない。いらふに尾いて、イユもカーテンを捲り、恐る恐る窓からバルコニーへ出る。暗闇であった。怖い。何が來るのか、迫っているのか。しかも、寒い。せっかく素敵な宿だったのに。何だか悲しくなる。

「早くっ、イリューシュ、靴履いた?」

「あゝ、大丈夫だ」

 見れば、隣の部屋のアンニュイとイマヌエルとユリアスとダルジェロも出始めるところであった。ダルジェロと眼が合う。仕方ないよという表情であった。

 そして、その向こうの部屋には、ジョルジュ、イシュタルーナ、アッシュールに抱かれたエルピス。

 いらふが言った。

「恐らくは『死屍の軍団』だ。他の客を巻き添えにしないよう、ここを離れよう」

「うむ、私も同じ考えだ。たぶん、アッシュールたちもそうであろう。だから、バルコニーに出たのだ。勝つのは簡単だが、犠牲が出る恐れがある。睡眠は十分だ。あと二時間もすれば夜が明ける。さあ、逝こう」

 そう言って屋根に飛び上がると、屋根づたいに走り、厩舎の前に降りて待ち伏せしていた恐ろしい髑髏のような鎧兜の人間四十四名を、いらふ、アッシュール、アンニュイ、ジョルジュ、イシュタルーナの五名でわずか一秒のうちに斬り、間髪入れずに飛び乗り跨り、龍馬や大羚羊、羚羊を駈る。しばらく走ってから、

「追って來ているな」

 アンニュイが言うと、ジョルジュが、

「そろそろ、やるか。お天道様にあやつらの生きた姿を見せるのも心苦しい」

 イシュタルーナが手綱を引き、止まって言う、

「いや、気配が消えた。どうやら、勝てぬと悟って、時と手段とを変える算段であろう」

 アッシュールもうなずいた。

「うむ、そのようだな。逆に追うか」

 いらふが首を横に振る。

「いや、無用だ。朝から汚いものを斬ることもない」

「何なの、『死屍の軍団』って」

 イユが問うた。

「神聖イ・シルヴィヱ帝国の超精鋭特殊部隊だ。シルヴィヱ聖教に命を捧げて死を怖れず、命を捨てて、生きながらに死屍となった者たちだ」 

 ユリアスが説明する。つけ添えるようにイマヌエルが、

「死屍のような気持ちなのは、彼ら躬らの命に対してだけではない。他人の命に対しても、死屍のように無情だ。異教徒には容赦ない、女こどもであろうとも。

 厭うべき狂信者たちだ。

 異教徒を憎むのは間違っている。ただ、立場が違うだけだ。超越的であるべきだ。宗教に関わらず、超越的でない者を忌むべきであろう。

 神聖帝国全軍の〇.二%ほどだが、総数五億もの兵がいる軍の〇.二%だ。百万人はいる計算だね」

 と吐き捨てるように言った。イリューシュの眼はまだ虚ろであった。尠し逝くと、奇妙な物体に気がつく。人の眼につかない場所であった。岩に磔になった死骸。しかも、逆さに。見れば首から上がない。残忍で無惨な、怖るべき非業の死であった。「何と言うことだ」

 アンニュイの溜息とともに、ジョルジュが「これもメタルハートか」と問うと、いらふが「いや、かなり前にここを通った時にも見た」と淡々と言った。


 ダルジェロは学校の授業を想い出していた。眞人ということ。何かが彼に降りて來ていた。この遺骸は人に知られたが、知られも看取られもせずに逝った人々が数十億以上はいるはずだ。超越的思慮で非業死のすべてに想いを及ぼす。イリューシュが、

「おい、あっちは何だ」

 その奥に石碑があった。何もかもが雪に蔽われているなか、碑文の直面の雪が落ちていて、それとわかったのである。いらふが怪訝そうに寄り、見ると、鎮魂の墓碑であった。

「こっちの方には気がつかなかったな。こんなところにこんなものがあったか」

 ユリアスが顎に手を當てて思案し、

「ふうむ。道殣者のためでしょうか」

「いや、ここで旅人の虐殺があったように聞く。下手人はわかっていなかったはずだ。聖学園都市の傍だ。アカデミア天領内では珍しいことだ」

 そう言うイマヌエルの肩越しにダルジェロも見る。いくつもの名前が列されていた。


「あ」

 ……イメルダ・フシ、スリーブ・スマ、ノゴス・アンドール・ジャン、〝タレス・ソクラテノス・コギトー〟、ルーシ・ラプーチ、ゲ・ギナカ、グルガリオ・マスタルス………

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