第6話 親の呪縛

 私はいてもたってもいられなくなった。さっき飲んでいた場所にまだいるだろうか。もう一度上着を持って外へ飛び出した。階段を2段飛ばしで走り抜け、自分が出せる最高の速さでさっきまで飲んでいた場所に戻った。


 そこに葉月はいた。


 一人で寂しそうに桜を眺めながら酒を飲んでいる。


「はっ、はっ、はっ葉月!」


「うおわ。なんだい君もう帰ったんじゃなかったのか?!」


「あのね、葉月伝えたいことがあるの……っ」


 私は葉月に抱きついて耳元で囁いた。


「7年。後7年待っててくれる? それまでに大学卒業してお金貯めるから。葉月と一緒にまた未知の探究をさせてください」


寂しそうだった顔はみるみるうちに満面の笑みへと変わった。


「後たった7年か、もちろん待つとも! 君がそう言ってくれるなら何年でも」


 二人はぎゅっとお互いに強く抱きしめあった。


 それからしばらくはお互いに忙しかった。単位取得、就活、卒論。4年生は暇だなんて言ったのはどこのどいつだと言いたくなるほど忙しかった。


 なんとか全部をこなし見事卒業まで辿り着いたのだ。そして自由になるための計画をひた隠しにして、表向きは親の意向を汲んだふりをして、親の指定する大手企業に就職することに成功した。


 別に葉月の居るところ以外行きたいところなど考えていなかったし、給料もそれなりの企業に就職できたのだからあまり文句はない。今回の就職は私にとって自由になるための手段だからである。


 奇跡的に別の大学に通っているのに卒業式の日は全く同じだったから、卒業式が終わってすぐ待ち合わせをして、袴のまま会うことになった。


 私は藤色と灰色の袴で、葉月は桜模様の薄いピンクと濃いピンクの袴を着ている。


「卒業おめでとう! 君は希望してた進路に進めそうかい」


「うん。途中までは親の言いなりだけどね。けど5年目よ。5年目までにお金貯めてあんな家出ていってやる。葉月も卒業おめでとう」


「私は大学院、君は社会人だな!」


「お互いまだ違う立ち位置にいるけど、後5年後を楽しみに頑張ろうね!」


 二人は固く握手をし、それぞれ反対への道へと歩き出した。


 それから5年間、私は働けるだけ働いた。親も充実してるように見える私の生活を見て満足そうにしている。時折、塾代や習い事代など高い費用を親が払って、進路を導いたからこそお前は今の裕福で充実した生活を送れているのだから恩返ししろと言われるのが面倒臭いが、後数年で昔のようにまた葉月と知りたい欲を満たせるのだと思えば我慢できた。


 

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