第5話 幸せへの線路〜反抗しちゃう?〜
私は大手企業の会社員の両親の元に生まれた。両親ともたくさん勉強して、いい大学を出て、安定した大手企業の会社員として就職したから、私にもそれを求めてくる。
葉月に付き合ってさまざまな研究をしていた時は勉強の一環として見逃されていた。だが進路などに私の選択権はなく、少しでも逆らうようなことを言えばヒステリックに叫ばれた。
「あなたは私たちの言うことを聞いていればいいの! それが幸せへの道よ」
「父さんも母さんもできたんだ。お前ができないはずはないだろう!」
「父さんと母さんのことが信じられないのか?!」
何度も衝突した。
何度も自分の意見を言った。
けれど結局両親は変わらなかった。
私が折れるしかなかった。
そんなこんなで気だるげで、どこか諦めている目をしているとよく表される私は親が指定した大学に合格し、次は大手企業に就職することが求められているのだ。
(私はただ……自分の知りたいことが知れればいいのに)
せっかく外に出て、葉月と会って、気分いい日だと思っていたのに自室のベッドの上でぐったりすることになるとは。
大学生活ももう就活へとシフトし始めている。しかしまだ残っているそれなりの量の必修科目に、単位数が規定の数字まで届いていない自由選択科目の授業。やることはまだまだあり、それが重荷で仕方ないのだ。
(今からでも間に合うのかな、まだ、間に合うのかな)
適当に寝転がっているベッドの上で考える。
私の頭の中は葉月とまた研究をしたいという気持ちでぎっちぎちになっている。寂しいと、また一緒に研究したいという言葉は頭の中に降り積もって主張してくる。
でもそれは現実的ではない。
ならば、現実的にすればいいのでは……?
葉月はまだ私と多分野の研究をしたいとおもっていてくれている。何があっても味方であると言ってくれた。
「反抗しちゃう?」
なぜ今までずっと言いなりになってきていたのだろうか。
大変だけど私のことを陥れようとしているわけではなかったから?
言うことを聞かなければ愛情が貰えないから?
家族という唯一の味方がいなくなってしまうから?
理由を並べればいくつでも並べられるが、葉月がさっき言ってくれた言葉
『君の味方がここに少なくとも1人は絶対にいることを忘れないでくれ』
この言葉で親に反抗しようと初めて思えたのだ。
ああ、そうか。私は親に失望されるのが嫌だったのだ。失望されて一人になることが恐怖の対象だったのだ。でも今は違う。私が私の選択をしても、葉月がいてくれる。
どうやら私から思考を奪っていたがんじがらめの鎖は解けたようだ。それも爆散する形で。
それから電卓を出してお金の計算をした。まずは一人暮らしを始めるのに必要なお金。これは家にいる限り私は親の意向に従うしかないので、物理的な距離を親との間に作ることで、自分の自由にできることを増やしていこうという作戦だ。
次に生活費。今の私は親の意向でバイトはできていない。だからお金はお年玉を貯めた貯金のみである。うちは割と裕福なほうだから額は100万円を超えているが、一人暮らしをするのには心許ない。大学を卒業してからしばらくは働いて貯めよう。
私が親の意向に沿って生きてきたことや、小学生の頃から変人認定されていた葉月とずっと一緒に遊んでいた(知りたい欲を解消するための実験や読書など)ことが原因でクラスでずっと浮いていた。馬鹿にされたし、いじめのようなものもあった。
ただ耐えてやり過ごそうとした私に対して、葉月は真っ正面からぶつかっていった。その結果研究メンバーが増えることもあった。
まあ何が言いたいかというと、自分を貫けて他人への優しさも忘れない葉月と一緒にいることと、親の言いなりになって社会の歯車へと身を投じることを比べてさらに、今まで抑制していた分を全部ぶちまけると何がなんでも葉月についていく方が絶対に自分的にはいいのだ。
もちろん趣味の研究であるからどこからもお金は出ないし、誰からも評価されたりなどしないかもしれない。
だけど私はこの道を進みたい。でも足りない物が多すぎる。
葉月は後何年待ってくれるだろうか。お金もある程度貯めて、あの家を出て自由になるまでにさっと計算したところ最低でも後7年はかかる。
でも7年だ。今まで私はもうそっちの道へはいけないと思っていたが、7年あればいけるかもしれないのだ。
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