第4話 君の味方はここに居るよ

 魅力的な誘いに心は揺れた。すぐにイエスと言えたらどれだけよかっただろう。だが、イエスともノーともすぐに声に出すことはできなかった。


 「なんでさ!」


 葉月はそんな煮え切らない態度を見るに見かねて、なぜ自分にとっての最善を選ぼうとしないのかと言わんばかりに問い詰める。


「私だって葉月の言う通り、同じ大学に通って研究に葉月の満足いくまで付き合いたい気持ちはもちろんある。きっとそれは私の好奇心も満たすものだから。でもね、今の進路をを選択して丸2年たった。3年目の私がその決断をするには過ごしてしまった2年間がものすごく重い枷にになるの。…本当にごめんね」


 求められたのなら答えたい。また高校までのように好きなことをやりたい。そんな気持ちが心の片隅にあることを否定はしない。


 それでも私は、義務教育を終え、高等学校・大学へと進み、留年することなく卒業。そして社会に出て働くという多くの人が辿っていく道筋を外れる勇気も遅れる覚悟も、今から決断する資格もなかった。魅力的な誘いは同時に現実的ではなく、その道を選ぶには多くの壁が待ち受けているものだったのだ。


「それは君の心からの選択かい? それならばこれ以上言わないさ。でも君がいつも考えるのは周りの事ばかりだ。本当はどう思ってる? 実現するための方法とか現実的なことをいったん忘れて君の心だけならどうなんだ」


「そんなこと私の次に葉月が分かってるでしょ。」


「ああそうさ。何年君と一緒にいて、遊んで、研究して、けんかして、仲直りしてきたと思っているんだ。だからこそだ。君がこれまでにないくらい追い詰められて弱っているのが分かる。これ以上君が疲労していく様を私は見たくない。なあ、このままいくと本当に倒れるぞ。私はそれが心配で心配でたまらないんだ。だから今日本当は君をこんな時間に呼び出したんだ」


「これ以上言わせないで、お願いだから。頑張れなくなる」


 先ほどの心地よい無言の時間とは真逆の気まずい時間が流れる。もう酔いもさめてしまった。これ以上葉月と話すときっと目をそらし続けてきた現実と向き合うことになるだろう。


「2限から授業あるから、もう帰るね。つまみとかいろいろ用意してくれてありがとう。私の分は明日ポストに入れておくから」


「待ってくれ! 急にこんな話をして悪かった! でもこれが本心だ。君が居なくて寂しいのも、君の今の状態を心配していることも。できる事ならば何でもするからさ。だから、無茶して、一人で苦しんで誰にも言わずにいなくなることだけはやめてくれ! 君の味方がここに少なくとも1人は絶対にいることを忘れないでくれ!」

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