短くも鋭い牙
「......避けられたのかしら?」
魔法をぶつけた時に水蒸気と砂埃が発生しコーレルを覆い隠していた。
コーレルがどうなったのか分からず観察を続けるリュスだったが、
「......絶界がなくなったわね、気絶したかしら」
コーレルの侵食がなくなったことを確認した。
当たったところは見えなかったけれど避けきれなかったのだろう、そう確信して気が緩んだ。
その時だった。
「 "フレイムバレット" 」
「ッ!!」
煙幕から炎の弾丸が飛び出した。
煙幕に隠れた瞬間から侵食を止めそれの構築だけに集中したコーレル。
相手が油断している今だからこそ、見えない状態で侵食を止めれば勝手に勘違いしてくれる、そう思って。
槍より小さいが込められている魔力は桁違いに大きい。
更にその貫通力のある形状は槍にも劣らない。
だがリュスは最初こそ虚を突かれたものの焦りはしない。
「(なかなかの威力だけど絶界と盾で止めれるわね)」
そう思い、冷静に盾を作ろうとするが、
_____違和感に気づく。
「(......? 威力が中々下がらない......というか全然!? _____ッそうかこいつ......!!)」
リュスはコーレルが何をしたか理解した。
「魔法の威力を保持するだけならこれで...! 届け......!!」
コーレルは侵食を "魔法の威力の保持" のためだけに使ったのだ。
いつものように自分を中心として広げるのではなく、魔法の軌道に沿わすように、相手に対して直線的に侵食した。
面より点の方が圧力が強いように、これならば相手の侵食に対して範囲は狭くなるが先程より押せる。
更に一回侵食を止めたことで相手が油断するというオマケつき。
おそらく一回しか機能しないであろう奇襲、コーレルはずっと狙っていたのだ。
炎の弾丸がリュスの空間に入る。
威力が減衰するが未だその威力は脅威だ。
「......これは止められそうにない......避けるしか_____」
そう判断しようとしたその瞬間、コーレルの脳がとある思考をしてしまう。
「(_____避ける? 人間の子供......しかも最近本格的に魔法を習い始めた素人相手に?).........冗談じゃない...!!」
精霊としての、上位者としてのプライド。
相手が子供ということもあり、相手をあしらうという姿勢を崩さない、崩さない。
「_____ッくぅ!!」
リュスが即席で先程よりも不恰好な盾を作り出し弾丸を防ぐ。
水の盾と炎の弾丸が拮抗する。
だが、水の盾は即席のものということもあるのだろう、徐々に押され始める。
その事実がリュスは許せない。
「_____ッ舐めるなぁ!!」
リュスがその膨大な魔力を盾に注ぐ。
すると盾は押されているはものの、弾丸も小さくなり始める。
「アハ...! 残念だった『 "フレイムバレット" 』_____!?」
防ぎきれそう、そんな思考を中断させるようにリュスの目の前に炎が飛んでくる。
予想外の攻撃に慌てて二つ目の水の盾を作り出した。
だが、
「__________は?」
ポスン、とそれは予想を遥かに下回る威力で霧散した。
それを見てコーレルは笑みを浮かべる。
「良かった......ただの火球に反応してくれて......もうそれは止められないでしょ......!」
そんなコーレルの言葉を証明するように意識を逸らされたリュスの一つ目の盾に亀裂が入る。
「ッッあんな! 安っぽいブラフで......!!」
リュスは己の不覚を悟る。
慌てて盾に意識を割くが、
「_____ックソ!!」
遅かったようだ。
盾が亀裂を中心に割れる。
未だ弾丸は健在。
それはそのままリュスの腹を穿ち、身体を後方に弾き飛ばした。
それを見届けて、コーレルは己の策が成功したことを喜ぶ。
「よし...! 届いた...!! これで終わってくれれば最高なんだけど......」
無論、そんな甘い相手ではないことを知っている。
油断することなくリュスが飛んで行った先を見ると、
「まぁ無理だよね......というかあれじゃダメージがあるのかどうかも分かんないな」
相手は膝すらつくことなく立っていた。
そのことに少しショックを受けるコーレル。
「けどこっちもまだ動ける、このまま限界まで試そ_______ 」
そう意気込むコーレルの額を、今度は注視しても視認すら難しい速度で水球が貫き_____コーレルは呆気なく意識を刈り取られた。
ーーーーー
「...ん......んぅ......」
コーレルが目を覚ます。
「(......あれ? 私、戦闘してて......どうなっ_____ )」
考えが纏まらないままに目を開けると、そこには戦っていたハズの美少女の顔があった。
あまりの予想外にフリーズするコーレル。
現在コーレルはリュスに膝枕されていた。
そんなことは気にせずリュスは口を開く。
「あら、早かったわね、警戒することないわよ」
「あ......え...? 何が......?」
未だ状況を掴めないコーラルにジト目を九尾に向けながらリュスが言う。
「全部こいつの......嘘だから」
ーーーーー
「ゴブリンではなく......精霊様...?」
コーレルはリュスから全て聞いた。
ゴブリンというのは九尾の嘘でありリュスは水の精霊だということも。
理解した瞬間コーレルは勢いよく頭を下げる。
「すいませんすいませんすいません......!!」
精霊、コーレルは知識としてそれを知っていた。
寿命という鎖に縛られず大きな魔法の力を持つ神聖な存在。
故に狙われることもあり、滅多に姿を見せない。
ゴブリンなど寧ろ正反対とも言える存在であった。
「もう気にしてないわよ、あんたが悪くないのは分かってるしね」
そう言いリュスは九尾を睨む。
だが九尾はそんな眼差しをものともしない。
「いやー良かったよ。戦いの中でも考えて成長できたし、感謝してるよ♪」
そんな九尾の様子にリュスはため息をつく。
「まぁでも才能があるのは本当だったわね。子供の身で私に魔法を当てられるとは思わなかったわ」
そう言いコーレルの頭を撫でる。
「あ...ありがとうございます......」
「絶界もよく使えてたじゃない」
「ありがとござい......絶界.........?」
聞き慣れない言葉に困惑するコーレル。
すぐさま九尾が補足する。
「あー......僕もさっき知ったんだけどね、君に教えた侵食、ここら辺では絶界って名称で通ってるらしいよ」
「ここら辺っていうかその名称しか聞いたことないわよ、ホント何処から来たのよアンタ」
九尾の出生、それはコーレルも気になるところだが、
「いやまぁ話してもいいんだけどね、説明がめんどくさいからパス」
話す気はないようだ。
「そんなことよりも名称だよ、二つあってもややこしいだけだから此処で使われてる絶界に統一しようと思うんだけど、問題ないかい?」
それに特に反対する理由はないコーレル。
「....絶界......はい、分かりました」
言葉を脳に馴染ませ、了承する。
「うん、とりあえず一段落だね、いつもならもう帰る時間帯だけど、どうする?」
「そうですね、弟も待ってると思いますし、帰ります。今日は御二方共ありがとうございました」
「んーお疲れー」
「気を付けて帰んなさいよ」
と言ったコーレルだが、やらなければいけないことがある。
コーラルは立ち上がるとおもむろに九尾の前に立つ。
「? どうしたんだい?」
予想外の行動に困惑する九尾。
「師匠、謝りましょう」
そう、最初にリュスをゴブリンなどと言ったのは九尾だ。
当然失礼なんてものではなく、謝罪の必要があるが、そこそこの期間師弟関係をやっているコーレルには予想がつく。
どうせはぐらかしてちゃんと謝ってはいないだろうという予想が。
謝罪が済んでいるなら失礼なのはそんな予想をしたコーレルの方であるが、
「................謝ったよ」
どうやら当たっているようだ。
「! そうよねぇ!ちゃんと謝らないとダメよねぇ!!」
そんな九尾の様子に水を得た魚のように生き生きし出すリュス。
「いやでもホラ、あれは実戦のための『それに関しては感謝しています、ですがそれと別に謝罪は必要ですよね? 師匠』..........」
こういう時正論で詰められるとツライ。
それに相手が教え子だと下手に反論しても惨めに思えてしまう。
うつ手がない。
ここまでか、と思い渋々リュスの方に顔を向ける。
目の前には満面の笑みを浮かべるリュス。
ここまで清々しく憎たらしい笑顔は見たことがない。
全部放り出して逃げたくなるが流石に弟子にそんな姿は見せたくない。
覚悟を決めた。
「..................すみませんでした」
満開だった笑顔が更に咲く。
「ンフフフフッ! いい気味ねぇ!! アンタ、コーレルだったわよね、名前! 気に入ったわ!!」
上機嫌のままコーレルを撫でるリュス。
そのテンションは中々下がることはなく、数十分リュスの笑い声が響いていた。
ーーーーー
帰りの道を辿るコーレル。
「(今日は得られるものが多かったな)」
急に始まった実戦だったが、結果としては様々なことを試すことができた。
充実した一日、今日だけでなくここ最近はそれを実感していた。
そう、実感していた。
「(......? 村の様子が......)」
忘れてしまうほどに。
「すいませーん、皆さん外に出てなにを......」
平穏は薄氷の上だということを。
「ッッ!!」
コーレルは走り出す。
村の人達が口揃えて言った、「村の子供達が消えた」と。
向かうは己の家、弟が待っているハズの家。
「ディノン......!」
これまでずっと苦しい道で、やっと救われたと思っていた。
だが確約はなく、現実は残酷で、いつのまにか平穏は崩れ落ちる。
「_____ッッ!!」
いつも出迎えてくれるはずの家の扉を開けた。
そこにディノンの姿はなかった。
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